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おまけ 蒼斗

真子のフィアンセだった蒼斗に幸せになって欲しい……の想いを込めて~

『あいつは魔王の手下だった奴だ』

『異世界から来た部外者だ信用できない』


何度陰口を耳にしただろうか。

もう、あれから3年になる。

俺は後ろ指さされ、肩身が狭く、この城に居ることがとても息苦しかった。

でも、他に行く所もない。

強制的に魔王から召喚された俺は黒永蒼斗(くろながあおと)


婚約者と眠りについて、目を覚ました時、俺はまるでヨーロッパのお城にあるような部屋で硬いコンクリートのような床に倒れていた。

床には魔方陣が描かれて、恐ろしい表情で俺を睨んでいる男が一番最初に目に入った。

周りの人外のような姿をした人々の様子から、その人物が一番位が高いとすぐにわかった。

これは夢か?


「ここは…」

「異世界の者よ。そなたを召喚したのは世界をおさめる魔王様だ。そなたは魔王様を導く魔物の英雄としてやってきた」

「え?魔王?英雄?」


角が生えた知性を感じる魔物の言葉に俺は混乱した。

しかし、そんな俺の事はお構い無しに魔王の隣にいた魔物が話を進めていく。


「さあ、英雄よ。魔王様に名を差し出すのだ」

「名前、蒼斗です」

「アオトか…」


どことなく悲しそうな瞳をしている魔王を不思議に思っていると急に目の前の景色が何かフィルターがかかったように変化した。

それは…遠くの方で小さな光が育っていくような感覚。

俺が頭を押さえてもがき出すと魔王の側にいた角が生えた魔物が問い詰めてくる。


「見えること、感じることを魔王様に伝えるのだ。それがお前の使命だ」

「し、使命?うわぁ…」


世界が歪み膨大な情報が一気に頭の中に入ってくる。

俺は気持ち悪くなり気を失った。

その後、信官セイモスの催眠にかかり、しばらく記憶を無くしていた。

思い出したくもないが、記憶を無くし名前を奪われた俺はセイモスにブルと名を与えられ操り人形だった。

道しるべとして、魔王の脅威となりえる人間の居場所や行動が少し読める能力と魔獣を操る能力があることを利用され、セイモスの言うがままに行動をしていた。

そんなある日、小さいが強い光を感じて鬼山にやってきた。


たしかここは前魔王が葬られた地、人間に有利になるものは排除しておく必要があるな。


そう思い、気軽に向かうとその場所にいた黒髪の冴えない人間と出会う。

その女は髪は短くなっているが手配書にあった似顔絵とそっくりで、すぐに勇者の英雄とわかる。

この人間を始末出来れば魔王様がより有利になる。

しかし、いつものように殺意を向けようとするが、言い知れないザワツキを感じた。

これが勇者の英雄の力?いや、なにかが違う。

わからない何かが引っ掛かりすぐに退却するがザワツキは治まらなかった。

勇者の英雄を始末し損なったことで、セイモスに罰を与えられ、自分は従うしかないとふっきろうとしていた時にまたしてもあの女が、よりによって魔王の城に現れた。

魔王さまの策略にまんまとはまり、すぐに処刑かと思ったが、なんと魔王様は部屋に連れて行くよう命令された。

魔王様の部屋に女を入れるということは、性的な意味で拷問を行うということか?

その瞬間、俺の心の激しく動揺して、生まれるはずのない嫉妬と怒りが込み上がる。

何なんだ…こいつは…

俺は必死に感情を押し殺していると女がわーわー煩く喚いていた。


「…ごめんなさい…大好きだったよ…」


最後に聞いたその言葉と女の顔が頭から心から離れず何日も苦しみもがく日々が続いた。

俺は…何者だ…

あの女は…マコ…

数日が過ぎ記憶を取り戻した時は俺は焦った。

もう手遅れかもしれない、でも…

俺は自分の能力を使って真子がどこから侵入したのかを探り、おそらくそこに真子の仲間がいると信じて真子を救出したのだ。

その後は勇者に協力して魔王を、レケを取り戻し今に至る。

俺は後悔していない。

レケを助けたことで、真子が奪われてしまったが、この世界の人々を救うことができ、真子が幸せになれるのなら…


トントン

研究室の扉をノックする音がした。

滅多に来客がいないので俺は不思議に思い出迎えると扉の入り口にボサボサ髪の使用人が俯き立っていた。


「なにか?」

「あ、あの…シャルナ様の命によりアオトさまの部屋を掃除に参りました」


モゴモゴした声で控えめに話す使用人に俺は面倒だなと思った。

確かに部屋は散らかっているが誰に迷惑をかけている訳ではない。


「掃除は自分でするから必要ない。」

「そ、そんな困ります!特別手当てを頂かないと母に薬を買ってあげれなくなります!」


特別手当て?

なるほど、俺の部屋を掃除出来れば給与が増えるという事か。

そこまでして片付けさせたいのか…


「…いくら必要ですか?」

「え?」

「いくらかなら俺が支払います。言って下さい。」


そこそこのお金は俺も持っている。

煩わし掃除をされるくらいなら、お金で済ませてしまおうと思った。


「200ゼニですが…」


この世界の200ゼニは元の世界での2万円位の価値だ。


「それぐらいなら払います。ちょっと待ってて下さい。」

「え!ちょ…」


俺は部屋に一旦戻りお金を持って使用人の元に戻った。

お金がはいった袋を使用人に渡すとその使用人はどうしたらいいのか混乱しているようだった。


「え?でも、えっとこれは…」

「気にしないで貰って下さい。だから部屋の掃除は必要ない。では失礼します」


俺は扉を強引に閉めて部屋の中に戻った。

散らかった資料は元の世界に帰る方法の資料だ。

レケの情報と俺の情報を組み合わせて、なんとか元の世界に戻れる方法がないか探している。

魔王の玉がない今の所は見つかっていない。

もし見つかったとしても、真子はもう戻りたいとは言わないだろう。

俺はやり残した会社の仕事や家族が気がかりで帰りたいと思っている。


それから数日後、また扉のノック音が聞こえてきた。

扉を開けるとまたあのボサボサ頭の使用人だ。


「アオトさま。もしよろしければ、これを。母が感謝の気持ちで作ったお菓子です」


使用人の少し荒れている手の上に紙袋があり、どうやら俺へのプレゼントらしい。

俺は渋々その紙袋を受け取った。


「…どうも」

「あの…私で何かお役にたてることがありましたら、お申し付け下さいませ」


使用人は腰を90度に曲げて頭を下げた。


「あー大丈夫だから気にしないで」


俺はまた素っ気ない態度をその使用人にとって扉を閉めた。

正直、あまり関わってほしくない。

部屋に戻りもらった紙袋を書物の山があるテーブルの空いているスペースに置くと少し袋の口が開き、甘く香ばしい匂いがしてきた。

俺はその匂いがクッキーのような匂いで懐かしく思い、中を覗き込むと見た目マフィンのような焼き菓子だった。

特別お腹も空いてなかったがどんな味がするのか興味が湧いて一つ紙袋から取り出し味見をしてみる…

想像を絶する不味さだった。

味を例えるならスッゴク甘いホットケーキにカラシと梅干しを混ぜた味だ。

慌てて水が置いてある所に行こうとすると散らかった書物に足をとられ、積み重なっていた本や書物が崩れ一気に散乱し俺は情けなく転けてしまった。

ドン、バサバサという音を響かせてしまうと、激しく扉をノックする音がした。


「大丈夫ですか!開けますよ!!」


ボサボサ頭の使用人はまだ扉の前にいたらしく、慌てて部屋に入ってくると俺は崩れた書物の山に半分埋まってジトリとその使用人を睨んだ。

あんな不味いモノを食べさせやがって…口の中は今も最悪だ。


「大丈夫ですか?」

「…大丈夫じゃない。まったく…」


俺は書物の山からなんとか抜け出し、服についた汚れをはたくとボサボサ頭の使用人の方を向いた。


「この状況の原因の一部は貴方にもあります。部屋の片付けを手伝って下さい。」

「え?あ!はい!喜んで!」


こうしてボサボサ頭の使用人と一緒に部屋を片付ける事になった。

彼女はリリィという名で落ちぶれた貴族の娘らしい。

魔王との戦いで殆ど財産を失い、父親と兄は戦禍の中行方不明となり、母親は病気で働き手は自分だけという境遇。

部屋の片付けは俺が膨大な書物を仕分けしてリリィが片付けるという形でなかなか時間がかかるものだったが、リリィは仕事が出来る使用人で同時進行で掃除もしてくれた。

1日では片付かず、次の日もリリィは片付けを手伝いにやって来た。

その時、あの激不味お菓子をリリィにも食べさせると顔色を変えてトイレに駆け込んで行き、そのあと土下座をされた。


「申し訳ございません」

「いや…リリィも知らなかったのなら事故だよ」


母親の作ったお菓子がまさかこんなに不味いとは思わなかったのだろう。


「おそらく母は病気で舌がおかしくなっているのでしょう…」

「そんなにひどい病気なのか?」

「はい…」


リリィから聞いた病気の症状に俺はレケから教わった薬学の知識を照らし合わせ効きそうな薬を調合してリリィに渡した。


「気休め程度にしかならないかもしれないが、飲ませてみて」

「はい…ありがとうございます!あの…持ち合わせがなく…」

「?」

「おいくら準備をすれば、よろしいでしょうか?」

「お金いらないから。俺もちゃんとした医師や薬師ではないし」

「しかし…あ!それではここの片付けが終わりましても、たまに片付けに来ても良いでしょうか?」


必死に懇願してくるリリィに俺も断る事が出来なかった。

それからというもの、たまにリリィがやって来て部屋を片付けていく。

その度に、色とりどりの花を花瓶に生けて窓際に置いてくれたので、部屋は以前と違い明るく華やかになった。

一生懸命働くリリィの姿に俺は此処に居てもいいと肯定されているように感じ、自然とどこかに逃げたい気持ちが薄れていった。

今日位にリリィがまた片付けに来るな。

お茶とお菓子でも用意してあげようか。

そんなことを考えるまでになっていたある日、部屋にシャルナ王妃が護衛もつけず訪ねて来た。


「ごきげんよう。少しお時間いいかしら」

「はい。どうぞ」


部屋に招き入れると綺麗に片付いた部屋をじっくりと見回す。

そして、右手の人差し指をたててプックリとした自分の中の唇に当てた。

それは「声に気を付けろ」というジェスチャーだ。

そして、シャルナは話しながら、テーブルに置いてあった紙に文字を書く。


「ここでの暮らしはいかがですか?なにかお困り事などありませんか?」

『ここでの会話は誰かに聴かれています。』

「…お陰さまでなに不自由なく過ごさせて頂いております」

「それは良かったです。研究はいかがですか?」

『魔王を復活させようとしている輩に情報が流れています』

「!」


一体どういうことだ…


「…まだ、めぼしい成果は…」

「そうですか。わたくしとしては平和な世界を維持するためにも魔王は永遠に封印する必要があると考えております。その為にもメカニズムの解明は必要不可欠です」

『魔王の玉の欠片の封印場所や英雄召喚魔方陣の情報が漏れています。お気をつけ下さいませ』

「っ…承知致しました。」

「また何か解りましたらお知らせ下さい。あと、明日レケの使いの者が極秘資料を持って来るそうです。そちらの報告もお願いしますね」

「わかりました。」

「それでは失礼」


筆談した紙を持ってシャルナ王妃は部屋を出て行った。

俺は少し瞳を閉じて乱れた心を落ち着かせ、自分の部屋を見渡す。

そして、直感で目についたのはリリィの花瓶と花だった。


次の日、いつもと変わらない様子でリリィはやって来て部屋の片付けと掃除を済ませて花瓶の花を新しい花に生けなおす。

ボサボサ髪に隠れて顔はよくわからないが、雰囲気から鼻歌でも聞こえそうに上機嫌だった。


「リリィ、お茶を一緒に飲まないか。お菓子を準備しているんだ」

「え!ありがとうございます。すぐに準備しますね」


いそいそと香りの良い紅茶を入れて応接テーブルに準備をするリリィを横目に俺はソファーに腰を掛けた。


「リリィ、隣に座ってくれないか」

「へ…はい…」


モジモジと恥ずかしがって俺の隣に座るリリィの前に準備しておいたケーキのようなお菓子を差し出す。


「街では、とても有名なお菓子らしい。食べてみて」

「わぁ、宝石みたいにキレイですね。いただきます」


パクパクと美味しそうに食べるリリィに俺の口元はゆるんでしまう。


「リリィ、君の素顔を見せてくれないか?」

「え」

「いつも髪で隠れているリリィの瞳が見てみたい」

「そんな、お見苦しい顔ですのでお見せすることは…」


そういうとリリィは顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「リリィは俺の事、どう思っている?」

「どどど、どうとは…」

「少なからず、俺はリリィに興味があって、好意を持っている」

「こここここ好意ですか?!」


赤くなっていた顔が更に赤くなりリリィは激しく動揺していた。

俺が少し近づくとソファーの端にスススと身を引いている。

俺は追い詰めるように近付きリリィの左頬を右手でなぞる。


「教えてくれないか?どんな気持ちで俺を騙している?」

「!?」


俺は頬に添えていた手でリリィの髪をかき分けるとリリィの瞳は左目は普通の人間の瞳だが、右目は魔物のグリーンアイだった。

リリィは固まり怯えた目をしている。


「あ…」

「半魔物か」

「…はい…」

「盗聴魔法が、かけてある花瓶は別の部屋に置いてある。恐らく今頃仲間たちはこちらの罠にはまっているだろう」

「罠?!まさか、魔王様の極秘資料は…ああ…」


リリィは両手を顔に当てて俯いた。


「俺の研究資料の情報を流したのもリリィだね。最初っからそれが目的だったのか。正直、残念だよ…」

「…アオトさま…申し訳ございません。大変おこがましいですが、謝罪をさせてください。」


リリィは顔を上げて両手を降ろし、アオトを見つめた。

かき分けられた前髪から覗かせる潤んだ瞳は両目とも美しかった。


「ごめんなさい…私は父は人間、母は魔物のハーフです。母は魔王様が倒された日から日々弱ってしまい、このままでは死を向かえるのは時間の問題なのです。魔王様が復活すれば母は死なずに済むと言われて魔王信者の仲間になりました。でも…復活できる情報はなかった…騙していて、本当にごめんなさい。私は…どんな罰でも受けます。ですが、母は何も知りません。どうか母だけはお助け下さいませ」


深々と頭を下げるリリィは小さく震えていた。


「…」


俺は裏切られたことでリリィに何も言葉をかけることが出来なかった。

そうしていると、扉から数人の兵が入ってきてリリィを連行していく。

また俺はひとりだ…こんな世界…もう嫌だ。

将来に希望をもてない俺は城を出て行く事を本気で考え出した。

どこか遠くに行って野たれ死ぬのも悪くない。

そう考えていると、俺の部屋の扉をノックする音が響く。

まさか…リリィ?

彼女は捕まったいるはずだが、あり得ない期待をしてしまう。

扉を開けるとそこには真子と確か2歳の息子が手を繋いで立っていた。


「城に遊びにきたから、ついでに寄ってみたの。調子はどう?」


シャルナに話を聞いて来たのだろうか。

真子は俺を気遣っている様子で、良く見るとお腹が少しふくれているように見える。

ああ、真子は幸せそうだ…良かった。


「お母さん、このおじさん誰?」


真子に似た息子に話しかけられ真子は息子にニコリと微笑んだ。


「お母さんの友達でお父さんの仕事仲間よ、ほら挨拶して」

「こんにちは、セイ・スージスでしゅ。」


ペコリと挨拶をする愛らしい我が子に真子も苦笑いだ。


「大きくなったな…」

「いつも手紙だけのやりとりだから、1年半ぶりぐらい?」

「ああ…」

「中に入ってもいい?」

「少し散らかってるがどうぞ」


研究室は、リリィが来なくなってまた散らかっている。

セイは床に散らかっている本たちをまるでアスレチックのように避けて通り遊んでいた。

俺はソファを少し片付け真子を座らせた。


「いま、飲み物の準備を」

「あー気を使わないで、長居しないし」

「そうか」

「少しだけシャルナに話を聞いたんだけど…」

「…」

「村でね今、流行っている恋愛物語があるの。人間の貴族と魔物の貧しい娘の悲恋の物語。ふたりは困難を乗り越えて結ばれたけど、最後に人間の貴族は死んでしまうの。それでも、魔物の娘は愛する彼を待ち続けて樹木になるって話。私、レケが魔王だった時、魔物だからって嫌いになれなかった。種族が違っても大切に思う気持ちは変わらないって思うよ。」

「…」


大切に思う気持ち。

俺にとって、リリィはどのくらい大切な存在なのだろうか…

信じればまた騙されるかもしれない…それに、魔物であることも変わらない。


「それと、レケは魔王の玉の欠片を身につける事で安定して魔力を保てるのではと考えているみたい。それは…実験してみる価値はあると言ってた。蒼斗、いいサンプルしらない?」


真子が少し意地悪な顔をして俺に提案してくれた事はつまり、リリィの母親を助けてあげたら?という事なのだとすぐに理解した。

敵対していた魔物でさえ、救おうとする、こういった所が真子の優しさであり強さでもあるのだろう。


「…はぁ。俺は臆病者だ。また裏切られるかもしれない」

「その時はその時。今、蒼斗がどうしたいかと、どうありたいかじゃないかな?偉そうなこと言えないけど。あ、こら、セイ!」


セイが積み重ねていた本を崩してしまい、慌てて真子が片付ける。

微笑ましいふたりを見ていると悩んでいる自分が少し馬鹿馬鹿しくなってきた。


「真子、ありがとう」

「ん?また、何かあったら連絡頂戴ね。レケもたまには会って話したいって」

「ああ、今度行くって伝えてて」


真子とセイが帰ると俺は魔道具の作り方を調べる事にした。


数日後、俺は王家の地下牢を訪ねた。

薄暗い牢屋の中で簡素なベッドにリリィは座って小さなろうそくの灯りを頼りに本を読んでいた。

囚人服をきて相変わらずのボサボサ頭に少し痩せたのか小さく感じた。


「リリィ」

「!?」


突然声をかけられ、リリィはビクっと驚き顔を上げた。


「蒼斗さま?!こんな所に…」


俺の姿を見るや立ち上がって読んでいた本を落とす。

鉄格子越しに俺は立ったままリリィに話しかける。


「条件が三つある。ひとつは魔王の玉からの魔力供給実験に協力すること、ふたつめは俺の専属使用人として働くこと、そして最後に俺だけにその美しい瞳を見せること。」

「え…でも…私、半分魔物だし…」

「そんなこと、リリィだという事には変わらない。俺と一緒に居てくれないか…」


リリィは口に手を当てその美しい瞳からポロポロと涙をこぼし、ただ頷くだけだった。


シャルナ王妃に研究者として魔物の研究と監視を条件にリリィの釈放をお願いした。

リリィの母親に魔王の玉の欠片が埋め込まれたアクセサリーをプレゼントし、リリィに日々の様子を記録してもらう。

以前よりもかなり体調は良くなっているらしい。

普通の使用人ではなく、俺専属の使用人となったリリィは朝から夜まで俺の世話をやいてくれる。

以前よりも口煩くなって、食事も作ってくれるようになり、最近でほボサボサの髪を少し整えて綺麗になった…と思う。

そして、一年後…


「蒼斗さま。マコ様とレケ様への手土産はお菓子で良いと思うのですが、セイくんとレンくんへのお土産はどうしますか?」

「そうだなーボールとベビー用品でいいんじゃないかな?」

「わかりました!準備しておきますね」

「リリィ、張り切るのはいいが、お腹の子供にさわるようなことは注意するように」

「はい!」


俺もこの世界で生きていく目標が出来た。


おわり

最後まで読んで頂き、ありがとうございます!

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