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にじゅうなな

レケの言葉は私が思っている以上にショックだった。

蒼斗となら私が幸せになれると言われて、一気に心が沈んでしまい、そのあと何も言えず「わかった。」とだけ伝えて、城で準備されていたゲストルームに帰った。

そうか…そうだよね…

私はレケの事を凄く大切な存在だと思っているけど、レケは英雄を導くための使命のために尽くしてきただけ…かも知れない。

そう考えると私の心はぽっかり穴が空いたようにやる気がなくなった。

ダルくなった体を無理やり動かし、着飾られた装飾品を外し、私は厚化粧と塗りたくられた香料を落とすためにシャワーを浴びた。

蒼斗と婚約破棄したことは後悔していないけど、やるせなさをシャワーの水で流してしまいたい。

そうだ、シャワーから出たらお酒でもひとりで飲もう。

そう思いながらシャワールームから戻ると、なぜかリビングソファにレケが座っていた。

私は驚き固まるとレケは私に気がつき準備していたワインをグラスに注ぎ私の分も準備してテーブルに置く。


「マコ、部屋の鍵は閉めないと危ないとわたしはいつも言ってましたよね?」


あ、平和になった城だからと安心しきって鍵を閉め忘れていた。


「スミマセン。でも、勝手に女性の部屋には入り込むのは失礼じゃない?」

「ちゃんと入りますよと言ってから入りました」

「…」


シャワーの音でそんな声聞こえなかったけど。

私は寝間着に濡れた髪のままレケに近づくと左の頬に青アザが出来ていることに気が付いた。


「それ…どうしたの?」

「あー蒼斗に殴られました。マコのせいで」

「え…」

「結婚式の日取りは、いつですか?って聞きました。」


それは…


「そしたら蒼斗ニッコリ笑って、右ストレートで思いっきり顔を殴ってきました。なぜだか、わかりますよね?」

「う…」


レケはワインの入ったグラスを手に取り、ぐいっとワインを一気に飲み干した。

そして小さくため息をついて、手酌でワインを注ぐ。

そして、俯いたまま話続けた。


「なんで、婚約破棄したのですか?」

「なんでって…ちゃんと考えたいって思ったから」

「ちゃんと考える?何をですか?」

「それは…」


レケはまたワインを一気に飲み干し、今度は私を睨んでいる。

そんな飲み方したら悪酔いしそうだと私は心配になった。


「マコはなにもわかっていない…フィアンセに会いたいと元の世界に戻ったと思ったら、またこの世界に来たり、命がけでわたしを助けてくれたと思ったら、その後は全く会いに来なかったり、今度は婚約破棄ですか?わたしを期待させるよう事はもうしないで下さい。」


苦しそうな表情をして私を睨むレケに私はぎゅっと胸が苦しくなった。


「レケ…」

「なんども…何度も諦めようとしているのです。マコが幸せになる為にそうした方がいいって…」

「レケ…ごめん。私、自分の気持ちにずっと整理がつかなくて中途半端で…でも、でもね、気がついちゃったんだ」


私は決心して真っ直ぐにレケを見つめた。


「私はレケが好きなんだって。大切な人なんだって」

「…」

「仲間としてもだけど、それ以上に…」


その先を言葉にしようとすると、顔がどんどん熱くなって恥ずかしすぎて思考回路がパンクしそうになった。

レケはソファに座ったまま、呆然と私を見て固まって動かない。


「とととととにかく!婚約は止めたの!レケがどう思っているかは!わ!!」


私は慌ててその場を誤魔化そうとするとレケはソファから立ち上がり私を抱き締めた。


「いくら願っても…手に入らないと思ってた…願うだけ罪だと」

「レケ…」


レケは小さく震えているようだ。

私はレケの背中に手を回して、優しくさすってあげた。

一時して、レケがゆっくりと私から離れと、その表情はとても穏やかで、私を見つめる瞳は優しく微笑んでいた。


「気が狂いそうです」

「それは困るなーよし、私もワイン飲もっと。はい、レケもどうぞ」


私はその甘ったるい空気に耐えきれず、恥ずかしさを誤魔化すため、いつもの調子でレケに笑いかけてテーブルに置いてあったワイングラスを手に取りレケにも渡して飲み出した。

それから、ふたりで今まであったことやこれから国の再建についてなど話つつ、美味しくワインとおつまみを味わい夜がふけていった。

珍しくレケが酔いつぶれ私の部屋のソファで眠りにつくと、私はレケに掛け布団を掛けてソファーの隣で私も予備の布団にくるまって眠りについた。


次の日の朝、ソファで眠っていたはずのレケの姿はなく、朝食を食べたあと早々シャルナが突撃訪問してきた。


「ちょっと!!マコ、いくらなんでもその日のうちにそういう関係は不潔だわ!」

「は?」

「レケが朝この部屋から出ていく姿を見たって使用人が何人もいるのよ!」

「あー確かに昨日夜いっしょに飲んでたけど、そんな関係なんて~」


私があははと笑っているとシャルナに私の両ほっぺをつままれた。


「マコ、わかってるの?レケは男として貴方に選ばれたいのよ?貴方もそのつもりでしょ?」

「い、いひゃい(いたい)」


それは私も考えた。

昨日の夜だって、もしかしたらお酒を飲みながらそんな雰囲気になったらどうしようーと少し心配していたのだが…

なんとレケは紳士的で私に触れたのはあの抱き締めてきた一回きりで、ボディタッチすらもなかった。

ちょっと気がかりだったのは、ワインを飲む量が多かったぐらいだ。


「気持ちは…伝えたの?」

「ふう(うん)」


少し切ない顔をして、シャルナは私の頬から手を離してくれた。

私の両ほっぺは赤くなってしまったので、両手でもぎゅもぎゅとマッサージをした。


「そう…レケはなんて?」

「たぶんだけど…喜んでた?と思う」

「思うって?曖昧ね」

「だって直接的な言葉はなかったから…」


私が少しすねているとシャルナは呆れたといった顔をした。


「しかし、レケがあんなにワイン好きになってるなんて知らなかったよ」

「レケが?そんなはずないわ。昔っからお酒苦手じゃない。特にワイン」

「え?昨夜がぶ飲みしてましたよ?」


で、酔い潰れたけど…

私がキョトンとしていると、シャルナは何か思いついたらしい


「ふーん。なるほどね。いいわ、ちょっとレケに嫌がらせをしたかった所なのよ。」

「あのーなにを…」


不適な笑みを浮かべるシャルナに私は苦笑を浮かべ引いていた。

シャルナが急きょお茶会をしたいと言い出し、昼から庭園でティーパーティーが開かれた。

時間がある人だけ寄ってねという未来の王妃の誘いに参加する者は多かった。


「こんな大変な時期に王の婚約者は呑気なものだ」

「復興を尽力頂いている者への労いらしい」


色々な声が聞こえる中に私も半強制参加で混ざっていた。

特に知り合いが見当たらず、主催のシャルナは挨拶の対応で忙しそうだ。

限られた食材の中であの短時間に美味しいお菓子を作ってくれたコックさんたちに感謝をしつつ、お菓子と高価なティーと味わっていると背後から声をかけたられた。


「お嬢さん、ひとりで寂しそうですね」


その聞き覚えのある声に私は両手にお菓子を持って振り向く。


「このお菓子たちがあれば、寂しくないわ。めちゃくちゃ美味しいよ、ゼロ」

「へーじゃ、孤児院の子供達にも持って行ってやろう」

「それいいね!」


私が笑顔を向けると勇者ゼロはクスッと笑った。

そして、私の片手を掴み私が持っていたお菓子にかぶりついた。

周りの来賓者たちは私達の様子にザワツキ、熱い視線を向けている。


「勇者さま、英雄さまと?」

「そんなーでも、お似合いかも」

「うちの娘が悲しむよ」


そんなヒソヒソ声が聞こえて私は慌ててゼロから手を引く。


「ちょっと、ゼロ!人前で誤解されることは…」

「誤解?そんなことない。俺はずっとマコに気持ちを伝えているつもりだけど?」

「はぁ?」

「心あたりない?」

「ないです」


ズハッと返事をした私にゼロは深くため息をついて、私の腰に手を回して顔のすぐ目の前に引き寄せた。

いつもと違い熱く情熱的なゼロの瞳がすぐ目の前で私を見ている。


「我が導きの英雄よ。この先もわたしと共に歩み、わたしを導いて欲しい。」


わざとらしいぐらい凛々しく振る舞うゼロの顔がどんどん近づいてくる。

私は言葉の意味を理解して赤面して固まっていると背後から私の唇を手で塞がられ、ゼロの唇はその手の甲に当たった。


「…」

「シャルナの嫌がらせの為の協力だとわかっているが、これはやり過ぎじゃないかゼロ」


私の口を塞いでいる大きな手と声で私の背後にいるのはレケだとわかった。

レケの手の甲からゼロが離れるとレケも私の唇から手を離した。

レケは顔を少し赤くしてゼロを睨んでいる。


最後まで読んで頂き、ありがとうございます(*^_^*)あと1話で終わりです~

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