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にじゅうろく

黒い宴用の正装をしているゼロは、いつもより2割増でいい男になっていた。

出会った頃はまだ若く、ただまっすぐに自分の使命と向き合っていた彼は、今では色々な経験を乗り越え自分の役割をまっとうし大人の色気がある成熟した男になっている。

世の中の女子から熱い視線を集めているひとりだ。


「キレイだよマコ。本当、女性って化けるよね」

「どうも。いつもこんなバッチリメイクしてたら疲れるからね…」


はは、そりゃそうだと笑うゼロに私も微笑んだ。


「…マコ、俺もシャルナも何があろうとお前の味方だから。そろそろ、はっきりさせてあげたらどうかな?」

「…と、言いマスト?」


私はギクリとなり、馬車の中で逃げ場がないので片言の言葉を出して固まった。


「はぁ。わかってるだろ?レケと蒼斗殿の事」

「う…あの、二人は…元気?」

「ああ、ふたりの意識が戻ると同時にマコは逃亡したから知らないかもしれないけど、あのふたりが協力して研究をしている。聞いたことあるだろ?」

「はい」

「どうせマコの事だから、気まずくて耐えれないって思ったんだろ?」

「う…、はい」

「あのふたりにマコに会いに行かないのかって聞いたことがある」

「え!」

「そうしたら、ふたりともマコが来るのを待つだって」

「…」


私はどうしたらいいのか答えが出せずにいた。

本来なら、結婚の約束をした蒼斗と一緒に過ごすべきだろう。

魔王の玉が砕けてしまったことによって元の世界に帰るのは現時点で絶望的だ。

ただ…私の中でレケの存在が大きくなっている。

これは、3年間一緒に旅をした仲間だからというモノではなくて、かといって家族のようなモノでもなくて…それ以上の…


「ゼロ…わからないんだ。私、自分の気持ちが」

「…」

「ふたりとも大切だから…でも…」

「なら、ふたり以外を選ぶという選択もあるんじゃないか?」

「へ?」


ゼロは馬車の窓枠に肘をついて優しい瞳で私を見つめていた。

真剣で暖かいその瞳に私は引き込まれそうになり固まった。


「…冗談だよ。そんなことしたらマコ後悔するだろ?」

「ゼロ…はは、そうだね。でも…、ありがとう」


ゼロの冗談で少し冷静になれた。

そうだ。

このままでも私はきっと後悔する。

城に到着すると私は一旦ゼロとわかれて、エリック王子とシャルナの婚約発表会の前にふたりがいるはずの研究室を訪ねることにした。

レケと蒼斗も婚約発表会参加予定となっているらしいが、ほぼ研究室にいるとゼロが教えてくれた。

研究室の扉の前に立ち、私は深呼吸をして扉をノックする。

すると中から声が聞こえた。


「どうぞ」


この声は蒼斗だとすぐにわかり私は手に汗をかいて扉を開けて部屋に入った。

部屋には沢山の書物と複数の研究材料が散らかっており、何とか人がひとり通れる道がある。

蒼斗は私の姿を見ると目を見開き驚いていた。

蒼斗も正装でまるで騎士のような姿でカッコいい。


「その…元気?」


なんと話しかけていいのかわからず、とりあえず無難な事しか言えない自分が情けない。


「あ、ああ…」

「えっと…研究してるって聞いて、なにかわかったのかな?」

「…」


私はまともに蒼斗の顔が見れなかった。

視線をわざと床や棚に散らかっている書類たちを見て誤魔化していた。

私の質問に答えない蒼斗に私は気まずくなって、少しわざとらしか明るく振る舞った。


「あはは。そうだよね、そんな簡単に」

「俺を見てくれないか」

「っ…」


声だけで真剣だとわかり、私は恐る恐る蒼斗に視線を向けた。

黒髪は整えられ、少し細長い瞳は真っ直ぐに私を見ている。


「ドレス姿きれいだよ」

「あ、りがとう」

「マコ、結婚の事だけど…」


きた…私はぐるぐると頭の中をかき回し答えが見つかってない状態だったが、とっさに深く頭を下げた。


「ごめんなさい!私、ずっと考えて答えが出なくって…こんなんじゃいけないって…このまま私…私、蒼斗とは結婚出来ません。ワガママで勝手で謝っても許してもらえないと思うけど、本当にごめんなさい!」

「…」


私は頭をを下げたまま、蒼斗を見ることが出来なかった。

目には涙がたまり、蒼斗に本当に申し訳ない気持ちをいっぱい抱いて苦しかった。

ゆっくりと蒼斗が私に近づく気配がして私は固まった。


「婚約を破棄したいって事だよね」

「…はい」

「…俺、真子に巻き込まれる形でこっちの世界に来て、帰る手段の魔王の玉を壊されて帰れない状態で、結婚もしないって?」


私は頭を下げたまま、どんな酷い仕打ちや言葉にも耐える覚悟をしていた。

そうだよね…普通に考えて酷い話だよね。

私の前で立ち止まった蒼斗に向かって私はゆっくりと顔を上げた。

蒼斗は怒っているのかわからない、無表情に近かった。


「ごめんなさい…もとの世界に帰る方法、私も一生懸命探します。この償いは必ずします」

「償い?そんなものいらない」


蒼斗は一瞬悲しい顔をして、私の腕をぐっと掴かみ引き寄せ私を抱き締めた。


「真子が悩んで決めた事なんだろ?」

「ぅ…っ…ごめんなさい、蒼斗ごめんなさい…うっうっ」


蒼斗の温もりと優しい声に、私は我慢していた涙が溢れだした。


「あー化粧が落ちるよ」


そういうと蒼斗はハンカチを出して私の顔の涙を軽く押して拭ったくれた。

私を見ているその瞳は優しく少し悲しげだが微笑んでいた。


「…わかった。婚約は破棄だ。でも…ちょっと悔しいから」


そう言うと蒼斗は誰かが部屋の扉を開き入ってくると同時に私の頬に手を添えてキスをした。

私は唇が重なる感触と同時に部屋に入ってきたレケと目が合い固まった。

すぐに蒼斗は唇を離して部屋の扉に向かう。

そして、レケの肩をぽんっと叩き、なにも言わず部屋を出て行った。

赤面して固まっている私と超絶不機嫌な顔をしているレケだけが部屋に残され、私はレケに弁解をしようとしたがレケはすぐさま部屋を出て行き扉を閉めた。

蒼斗よ…性格悪いぞ…


それからエリック王子とシャルナの婚約発表会が無事行われ、私はゼロにエスコートしてもらったが、そこでも参加しているレケは超絶不機嫌だ。

無表情で反応も冷たく話しかけるなオーラが全快だ。

式典に参加したアガゼウスが私の元に近づいてきた。


「マコ、お前レケになにかしたのか?あれは尋常じゃないぞ」

「アガゼウス…まぁ、その…あ、身体大丈夫?」


説明出来る内容ではなかったので、別の話題をふって誤魔化した。


「まぁな、新しい手足は使いにくいが、生活に支障はない。筋肉も少しずつ戻ってるぞ、見るか?」

「結構です」

「もし、レケとうまくいかなかったら言えよ?息子の結婚相手を探す手間がはぶける」

「…」


少し離れた所で他の人と話をしていたオランがこっちを気にしているようで、アガゼウスはヒラヒラと手を振っていた。


「何言ってるのよ。その時は私の子供の嫁よ」


アガゼウスとの会話に割って入ってきたのはシャルナだった。


「え!出来たの?」

「まだだけど」


まだ宿ってもない子供の嫁って…てか、子供が女か男かもわからないし、そもそも、そんな年上の嫁って子供可哀想すぎないかい?


「お気持ちだけ受け取っておきます。」

「もう本気だからね!…マコ、頑張ってね」


友の暖かい応援が私は嬉しかった。

魔王がいない今、私はなんの取り柄もない普通の人に戻っているけど、こんな素敵な友達は私の宝物だ。

私はぎゅっと手を握り締めて気合いを入れて、超絶不機嫌なレケの元に向かった。


「レケ、あの話があるの」

「…ここで?」

「えっと、出来れば人が少ないバルコニーがいいかな」

「わかった。行こう」


素っ気ない態度に大人の雰囲気を出しているレケは私のよく知っているレケよりもなんというか…色気がある。

よく考えてみれば、レケはもう29歳だ。

出会った頃は16歳、それから3年一緒に旅をして、私がもとの世界から帰って来た時は10年経過をしていた。

今じゃ、私より1つ年上になっているということだ。

バルコニーには人気がなく、涼しい風が時より優しく吹いている。


「で、なんですか」


レケの素っ気ない言葉と冷めた瞳に私はさっきのキスの事をどう説明しようか考えていた。


「あの、蒼斗との事なんだけど…」

「…彼とは共同で研究をしてます。とても良い青年です。残念ながら今はあちらの世界に帰る手立ては見つかってませんので、ここで挙式をあげるのもいいかもしれません」

「…その事であの…その…」


レケははっきりと言わない私に苛立ったのか深くため息をついた。


「安心してください。わたしは…彼との結婚に賛成です。ここ数ヶ月一緒にいてわかりました。マコのことをきっと幸せにしてくれます。」

「レケ…本当にそう思う?」

「…はい」


私は婚約を破棄したことを伝えられなかった。



最後まで読んで頂き、ありがとうございます!

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