にじゅうご
終わりが近づいてきた!
剣と魔王の手が刺さった私は感覚がなく、意識も殆どなくなってきた。
ああ…死ぬってこんな感じなのか…
うっすらと見えるレケは泣いていた。
泣かないで…レケは沢山辛い思いをして泣いたから笑っていて欲しい。
それが、私の最後の望み…
最後の力を振り絞り、私はレケに出来る限りの笑顔を見せた。
そんな私にレケは更に悲しげな表情になる。
「マコ…ごめん…魔王に…自分に勝てなかった…」
レケは私の身体から手を抜き大量の血と一緒に床に落ちた私を抱き抱える。
「捨てきれなかった…マコへの欲…ごめん…ごめん…ごめんなさい…」
膝を床について、うつむき震えて泣いているレケはとても小さく声が震えている 。
「ゼロ…俺を殺ってくれ」
「…」
「もう終わりだ。絶望しかない。このままでは真の魔王になる。その前に、頼む」
「レケ…」
先ほどゼロに切りられた傷からも流血しており、レケはうつむき顔を伏せたまま、とどめを刺すようにゼロ頼んだ。
シャルナがゼロの元に近寄り苦痛な表情のゼロにそっと手を添える。
「…彼に救いを…」
シャルナの瞳からも涙が零れ、皆が悲しみにしずんでいる中、ゼロは涙を流し、ゆっくりとレケに向かって聖剣を振り上げた。
ああ、神様。
私は貴方に言いたいことが山ほどある。
なぜ、私だったのだ。
なぜ、もっと私に力を与えてくれなかったのだ。
助けたかった、レケを…皆を…
幸せになって欲しかった。
こんな終わり方…
納得出来ない!
ゼロが聖剣をレケに振り下ろそうとした瞬間、私の身体が光に包まれる。
レケは驚き私を抱き締めていた手を緩めると、光っている私はふわりと宙に浮いた。
そして、空から数本の光が私の身体に注ぎ込まれ、刺さっていた剣は砕け、みるみると傷を回復させる。
ああ、暖かい…力が…
私は光の中、ゆっくりと目を開けた。
そして、床に座り込み私を見上げるレケに視線を向けるとレケは涙を流して微笑んでいた。
『救えるのは…あなただけ…』
心に声が響き、私はレケに手をかざす。
何故かそうするべきだと思った。
すると私の身体を包んでいた光が槍となりレケに向かって放たれ、レケの身体の中から黒い玉が弾き出された。
それは見覚えのある、魔王の玉でパリンっと音をたて粉々に砕け散る。
そして、淀んでいた空気が一瞬にして晴れていく。
ゼロやシャルナ、オラン、フラワー姫にリーフ、アガゼウスはセシルに支えられ、壁際で倒れていた蒼斗もその奇跡の光景に瞳を輝かせて私を見つめていた。
私はゆっくりと地面に降りて、放心状態のレケに抱きつく。
「レケ…レケだ…」
「マコ…」
レケは呟くように私の名前を呼ぶと私の腕の中で気を失いぐったりと倒れた。
「え!レケ?」
魔王の力をなくし、重症の傷を負っているレケは限界だったようだ。
私は慌ててフラワー姫とリーフを呼び寄せレケに回復魔法をかけてもらった。
****
王都を奪還し、魔王を倒した?勇者たちはエリック王子を王都にお連れして再建の日々を送っている。
私も出来る限りのことはしたいと、手伝いをするがシャルナやオランに比べ全く役に立たず、せめてアガゼウスと蒼斗とレケの看病役をしようとしたが、セシルとフラワー姫とリーフに邪魔者扱いをされた。
まあ、実際なにも出来ず邪魔だったけど…
王都再建には各地方から援助を頂き、特に食料は次から次と豆と芋が届いた。
ドラゴン族のライラも数名仲間を連れて建設資材や物資を運ぶ手伝いをかってでてくれて、レッドは金銭面援助を率先して行ってくれたので、予想よりもかなり早いピッチで王都の生活が戻りつつあった。
私に出来ることは結局…
「マコーー!かくれんぼしようよ!」
「えー!私達とお人形でままごとする約束なのよ!マコは!」
「そんなのつまんねーだろ」
戦いで親をなくした子供たちを保護する施設を国の施設として立ち上げ、私はそこで子守りをしている。
「まーまー、じゃーままごと鬼ごっこなんてどう?」
「…なにそれ?」
「鬼がお母さんで逃げるのは子供。鬼は「勉強しなさーい!」って言って追いかけるの。捕まった子はアジトで勉強ね!」
「えーーなにそれ!」
「イヤだぁーー」
「ふふふ、鬼は私がやろう!十秒数えるよ!じゅうーきゅうー」
十数人の子供たちは笑いながら散り散りに逃げていく。
私は毎日朝から夜まで子供たちと過ごし、充実した毎日を送っている。
あの戦いから3ヶ月が経とうとしていた。
そんなある日、ひとりの王都兵が手紙を持ってやって来た。
よく見るとその王都兵は王都騎士の制服を着用したオランだ。
以前とは雰囲気が変わり、オレンジ色のボサボサした髪はしっかりと整えられ後ろに流しており、新品であろう制服はきれいな朱色の制服で張りがあり所々刺繍がしているので、とても華やかだ。
「誰かと思った。カッコいいね制服。ここの護衛兵とは違うんだね」
まだ王都に混乱があるので、王都兵が交代で孤児院を護衛をしてくれている。
彼らの制服は緑色だ。
「王都軍の上層部はこの制服です。父はまだ本調子ではないので、わたしが団長補佐として努めております」
まだ16歳位なのに、ほんとしっかりしている。
「今日はエリック王とシャルナさまの婚約発表会の招待状を持って参りました」
「あ、ありがとう」
私が招待状を受け取るとオランは小さくため息をつく。
「いい加減城に行かないとシャルナさまが無理やり捕まえに来ますよ?」
そう、私はあの戦いから一度も城に行ってない。
ここ3ヶ月の間にやれ祝賀会や情報交換を兼ねた夜会や様々なパーティや催し事を全て何かしらの言い訳をつけて不参加で通している。
何故かって?
それは…
「レケさまと蒼斗さまは協力して魔王の玉と異世界との繋がりを研究してます。マコが逃げ続けている間に、他の有力者のお嬢さんにとられますよ?」
「ぅ…」
考えてみてください。
フィアンセの蒼斗と命がけで守りたい大切な存在のレケが一緒に働いているのですよ?
気まずくない?駄目じゃない?
私耐えれない…
しかし…シャルナとエリック王の婚約はとても喜ばしい事である。
さすがに婚約発表会は行かなければ…
本気でシャルナに拉致される。
私は渋々オランに参加の意思を伝えた。
すると数日後。
ドレスの仕立て屋が押し掛けてきて私の採寸を無理やり計り、婚約発表会の当日、城の女性使用人数名がドレスを持って押し掛けて来てムダに着飾られた。
そんなにしなくてもーと抵抗しようとすると使用人のお姉さんが
「シャルナさまの指示ですので」
とピシャリと断られた。
孤児院の子供たちが着飾られている私を部屋の入り口に集まり物珍しそうに眺めていると、ひとりの男の子が慌ててやって来た。
「マコ!大変だ!!」
「どうしたの?トム」
「ゆ、勇者さまが来てる!!」
興奮した様子で目を輝かせているトムの言葉に他の子供たちも目を輝かせて走って勇者を見に行った。
勇者ゼロは魔王を2度倒し、王都を取り戻した本物の英雄であり、子供たちの憧れの存在でもあった。
毎日エリック王と一緒に人間の世界を取り戻す活動に多方追われて忙しいらしい。
そんな彼が私のエスコートに来たのだ。
子供たちにすごい勢いで囲まれ質問責めにあいながら孤児院の建物までやって来た。
「ねえねえ、魔王強かったですか?」
「そりゃもう。」
「聖剣って重たいですか?」
「重たくはないよ」
「あの、あの!好きな食べ物は?」
「バカそんな事聞くなよ!」
「はは、お肉かなー」
「どうしたら勇者になれますか?」
「難しいなー守りたい仲間と頼りになる仲間がいると勇者になりたいと思うからかな」
「勇者さまはマコの結婚相手ですか?」
「いや…それはー」
苦笑いを浮かべているゼロに私も苦笑いを返して子供たちを建物の中に下がらせた。
そして、近所のいつも手伝いをしてくれる大人に子供たちの事をお願いして、ゼロが乗ってきた馬車で城に向かった。
最後まで読んで頂きありがとうございます(*^_^*)
あとちょっとで終わる予定!!