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にじゅうよん

「はーなーしーてー、ぐっ…」


たぶん無理だと解りながら一応抵抗をしてみるが、暴れると蔓が更にしまっていく。


「無駄な事を…まあいい、骨が折れようが、生きて生け贄をサイモスの所に連れて行けばいいのだから。」

「生け贄って、何!どうするつもり?」


パープは私の質問を無視して、魔力で私を宙に浮かせて運び地下から地上に出ると大きな鳥型の魔獣が待っていた。

その鳥型魔獣に乗ると王都に一直線に向かった。

王都の所々から煙がたちのぼり戦闘跡が見える。

きっとゼロとシャルナが魔王の元に向かった跡だろう。

パープは魔王がいるであろう王の間ではなく、少し離れた建物に私を連れてきた。

そこは確か王の側室様に建てられた場所だ。

前王に側室は居なかったがその前に使っていたらしい。

中に連れ込まれるとサイモスともうひとり私の知っている人物が鉄の首輪を付けられ鎖で繋がられていた。

クリーム色の髪は肩まで伸び、整った顔立ち、ブラウン色の瞳は苦痛に耐えている彼はアガゼウスに好意を寄せていたセシルだ。

ベットの上で顔を赤くして耐えているセシルは少し痩せており細身になっている。

なぜそれがわかったかというとベットの上で全裸だからだ。

私は目のやり場に困り、とりあえずサイモスを睨むことにした。


「お連れしましたわ」

「ああ、準備は整っている。その女をあの飢えた人間に渡せ」


私は顔をひきつらせて最悪なシナリオを想定した。


「ちょちょちょっと!なに考えてるの?!」

「…貴様はしぶとい人間のようだ。あの薬で心が壊れないとは…まあ仕方がない。貴様はこれから人間に絶望を与えられる。それを見た魔王さまはどうなるか…わかるか?」


サイモスは私を使って魔王の怒りを引き出したいのだろう。

完全な魔王って奴にするために。

血の気が引いた私をベットに投げ込み体を縛っていた蔓は私の手足首に巻き付き逃げられないように固定された。


「ちょっと、ま、待って!えー!!」


苦しむセシルの目は血走り呼吸が荒くなる。

私の存在にゆっくりと視線を移した。

確実に正気でないセシルは私のように何か薬を盛られたのだろう。


「さあ、好きにしろ、それはお前のものだ」


サイモスがまるで暗示のようにセシルに囁くとセシルは私に手をかけ私の服を力づくで破る音が響く。


「セシル!!しっかりして!!お願い!!!」


私の声にピクリと反応して、少し正気を取り戻したのか、もがき苦しむ。


「さあ、やれ。楽になれ」

「セシル!!」

「うわぁぁぁ!!」


セシルの雄叫びと同時に私に覆い被さり、私は苦痛な表情を浮かべた。

嫌だ…イヤだ…嫌だ!!

悔しくてたまらない。

顔を歪めて、歯を食い縛り諦めかけた時、窓ガラスが割れる音が響き、サイモスめがけて短剣が飛んできた。

そして別の窓ガラスも割れ黒にマントに身を包んだ人物がセシルを突き飛ばす。

セシルはベットから転げ落ちた。


「リーフ!」

「わかってるわよ!!」


妖精がセシルに黄色い粉を撒き散らすと動きが止まり、その間にオランがサイモスに切りかかる。

パープが蒼斗とオランに向けて蔓のムチのような魔法を放つとオランはかわし蒼斗は魔獣を呼び盾にした。

他の魔法に力を割いたことによって私を押さえていた蔓は緩み私はベットから脱け出して黒いマント姿の蒼斗を直視した。


「ぁ…おと…」

「真子!下がってろ!!」


記憶が戻ってる…私を覚えてる…私を守ろうとしてくれている。

その事が嬉しくて私の目頭が熱くなった。

しかし、感動に浸っている暇はなく、サイモスとパープの魔法攻撃の威力は強く増して蒼斗とオランは分が悪かった。


「くっそ…」


蒼斗の魔獣は殺られ、オランとリーフもボロボロになっていく。

私は部屋の隅に避難してどうしたらいいか考えていると、私のすぐ横の壁がドンっと鈍い音がして崩れた。

今度は何が現れたのか警戒していると、細く痩せているが大刀を片手で持ってひきずりフラフラしながら部屋に入ってくるオレンジ色の髪男が現れた。


「アガゼウス!!」

「あー身体が鈍って重たい、新しい手足は言うこときかねーし」


アガゼウスの後について来ているフラフラした妖精がアガゼウスに力を与えたのだとわかった。


「父さん、無理はしないで」

「あ?俺の恋人をこんな目に合わされて、黙ってられるか!?」


え?私?!

一瞬よぎったが私は首をぶるぶると振るとアガゼウスが


「マコじゃねー!セシル…しっかりしろ」

「ぁ…アガゼウス…」


あー私がいない間にそんな仲まで進展していたのね…

私は苦笑いを浮かべた。

何年も監禁されていたアガゼウスは無理をして身体を動かしており、大刀を一太刀振り回すとすぐによろける。

しかし、その威力は強く魔法を切り捨てた。

正気に戻りつつあるセシルは腰にシーツを巻いて、よろけるアガゼウスを支える。

そんなふたりの光景はまさにBLの世界…

私は暖かい目で見守ることにした。

蒼斗はその隙に私の元に駆け寄り、着ていたマントを脱ぎ私にかける。

私は服を破られていたことに気が付き赤面すると、蒼斗は強く私を抱き締めた。


「良かった…間に合って」

「蒼斗…」


安心したのも束の間、すぐに私たちがいた部屋の空間に異変が起こった。

奇妙な空気に覆われ、屋根が崩れるとゼロとシャルナが降ってきた。

地面に叩きつけられる瞬間、魔法陣が輝きふたりの身体は守られたが、ボロボロのふたりの様子から状況は良くないとすぐにわかった。

ふたりが落ちてきた空を見上げるとそこには魔王の姿とそれに対峙する形でフラワー姫が構えている。


「ゼロ!!シャルナ!!」

「!?」


蒼斗の腕の中にいる私を見てゼロとシャルナは驚いた様子だ。


「マコ、どうして此処に…大丈夫!?」

「色々あって、私は大丈夫だよシャルナ」


心配そうに見つめるシャルナに私は微笑むと、シャルナは苦笑いをして立ち上がる。


「我らの英雄さまが目覚めたのだ、こんな所で負けるわけにはいかない。」


ゼロも立ち上がり魔王に聖剣を構え直す。

魔王が放つ異様な空気で辺りの空間を包み込む。

私達を見下ろしている魔王だが、徐々に私と魔王の視線が重なる。

まるで時が止まり別時空のような感覚に襲われ固まっていると、私の異変に気が付いたのか、蒼斗がぎゅっと背後から私を抱き締めた。


「悪いが渡すつもりはない」


そう呟く蒼斗の声に私は胸がぎゅっと苦しくなった。

そんな私を見つめる魔王レケの瞳はどことなく悲しそうな、諦めのような瞳をしている。


「どういうことだ、サイモス、パープ」

「…は。」

「わたしは指示に背けば次はないと思えと言ったが」


みるみると黒い渦のような魔力が魔王の周りに集まると少し目を細めて冷酷な瞳になりサイモスとパープを見下ろしている。

サイモスは顔を曇らせ少し黙ったあと、重たく口を開いた。


「あなたは…真の魔王ではない。」


そう一言告げると鋭い剣をした魔法を私に向かって放った。

その剣は私の腹部に突き刺さり突き抜けた部分は私の背後にいた蒼斗に突き刺さった。


「がぁ…」

「マコ!!!」

「なっ…」

「そんな!!フラワー姫!!」


続けさまにパープがゼロたちに攻撃を放ち辺りは戦闘とかした。

私はお腹に激痛と流れる血を感じながら剣が刺さったまま倒れこんだ。

そんな私を魔王はただ黙って眺めている。


「真子!真子…しっかりしろ!」

「すぐに回復を!その剣を抜いて!」

「わかった」


蒼斗も腹部に傷をおったがそれほど深く刺さらず、動けない程ではなかった。

リーフの指示のもと、剣を抜こうとした時さっきまで空にいた魔王がいつの間にかマコのすぐ側まで着ていた。


「な!」

「手に入らないのであれば消せばいい。その存在事態なくせばいい」


そう言うとマコに刺さった剣を抜こうとしていた蒼斗とリーフを魔力の爆風で飛ばした。


「ぐぁ…」

「きゃ!」


背中を強く壁に打ち付け床に倒れ込む蒼斗とリーフにお構い無く魔王はマコを見下ろしている。

その様子に気が付いたゼロとオランとシャルナは急いでマコの元に向かおうとするがサイモスとパープに阻まれた。


「くそ!どけーー!!!」


聖剣の威力を出し惜しみ無く全力で攻撃してくる勇者にサイモスはなぎ倒され体制を崩すとオランの短剣が心臓をついた。


「ぐっは!」


サイモスは血を流がし倒れると、パープもシャルナの強烈な一撃をくらって吹っ飛ばされ倒れた。

ゼロたちはすぐさまマコの元に向かおうとマコを見ると魔王がマコの心臓に手を突き刺し、マコのカラダごと空に掲げていた…


「うあああああ!!!」


ゼロは怒りで我を忘れて魔王に切りかかると、魔王の瞳からひとすじの涙が流れている事に気が付き一瞬躊躇した。

しかし、切りかかった勢いは止まらず聖剣の一太刀が魔王に向かうと魔王は避けも弾きもせず受け止め真っ正面から切られた。

魔王はまるで抜けがらの人形のようになっており、切られた傷から血を流しているがマコを下ろそうとはしなかった。


「なんで…レケ…」


ゼロは涙を流し魔王にゆっくりと歩み寄る。

魔王の足元にはマコと魔王の血の水溜まりが出来ていた。


最後まで読んで頂きありがとうございます!

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