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にじゅうさん

トムの村の地下では、エリック王子と王族軍が勇者達を送り出した後、静かに彼らの無事を祈って待っていた。

エリック王子は残り少ない、王家の生き残りである。

彼は自分の命の価値をわかっているし、愛するシャルナの為にも今は何もせず、静かに身を隠しておく時だと理解していた。


「エリック王子、少しは休まれた方が良いのでは」


マコが眠るベットの横に椅子をおき、そこで彼女を見守っているエリック王子に王族軍団長アンドレが声をかける。

エリック王子は勇者と共に戦う事が出来ない自分が今出来ることは、マコが目を覚ます事を祈るしかないと思ったからである。


「そうだな…わたしはここで休むから下がっていてもいいぞ」


少し疲れぎみにエリック王子が返すと予想外の言葉が返ってきた。


「…それは困りますね」


そうアンドレは呟くと腰に付けていた剣を鞘から抜いてエリック王子に構える。

その表情はうっすらと笑っていた。


「貴様…まさか…」


エリック王子はゆっくりと立ち上がるとマコを背中で守るように立ちアンドレを睨む。


「ずっとこの機会を待ってたんだ。シャルナがお前から離れるのをな。王族なんて所詮飾りだ。我々騎士がいなければ何も出来ない。魔王さまはそんな淀んだ世界をリセットしようとしているのさ、王族は皆排除されるべきなんだよ!!」


アンドレが大声を出しても、他の騎士はやってこない。

ということは、他の騎士は殺られたか遠くに隔離されているかだろう。

そうなると、誰の助けも期待できない。

エリック王子は普段使わない剣を手に取りアンドレに構える。

剣の基本的な使い方は教わった事はあるが、特別に訓練を受けたことはない。

絶対的にアンドレの方が有利だが、ここで諦める訳にはいかなかった。

シャルナにマコを守ると約束をしたのだから。


「王子さまが俺と闘おうと?はは。残念ながら、お前はここで死ぬ。そして、その女はパープ様の名のもと真の魔王を甦らせる為生け贄となってもらう…」

「生け贄?」

「おっと…」

「何を言っているんだ?」

「まあいいか。どうせ今から俺に殺されるのだから。魔王さまはまだ完璧な魔王になっていない。あのレケが妨げているんだろう?悪あがきだよなーもう諦めて魔族側につけばいいものを」

「魔族につけば殺戮の繰り返しだ。そんな世界を貴様は望むのか?」

「あーいいじゃないか。強いものが上に立つ。生まれや育ちなんて関係ない。俺はどれだけ強くても団長どまり。王にはなれないんだよ、今の世界では。でも、魔族の世界では強いものが全てだ。なぁ、パープさん?」


そう言うと地下部屋の入り口から妖艶な魔族が現れる。

体のラインは女性的で人形をしている。

耳は尖りその上部に羊のような渦をまいた角が生えて、白い真っ直ぐな長髪と瞳の色は透き通る紫色で更に妖艶さを出していた。


「お初にお目にかかります。魔族王軍パープと申します」


丁寧な挨拶をしているがエリック王子を見つめる目は見下したような目だった。

エリック王子は背中と手のひらにジトリと汗をかき、この絶望的な状況をどうするか考えた。

妖精から花のブローチ(転移花)を預かっているので、それで勇者達を呼び戻すのが一番いい策だろう。

王族軍団長アンドレが裏切り者だから魔王を倒しに行ったことは筒抜けだろうし、罠が仕掛けられている可能性も高い。

エリック王子はポケットに入れていた花のブローチを握るとアンドレがクックッと笑いだした。


「あー王子、それ無駄ですよ。勇者たちには届かない。だって考えてみて下さいよ?セキュリティエリア内ですよ?」

「く…」


特殊な魔力の結界の中にいる勇者たちを転移することは出来ない。

このままでは、まず自分の命はないとエリック王子は悟った。

それよりもマコを利用されることだけは絶対に避けなくてはいけないが、出入口は二人が防いでいるので逃げる事も出来ない。

最後の手段…マコの命を…

戦う力はないが、眠っているマコを葬ることは出来る。

しかし…それは…出来ない…

エリック王子はじわりと近づいてくるアンドレに顔を歪めた。

打つ手がなく自分の終わりが近いと覚悟をしていたエリック王子の花を持っていた手に生暖かいモノが触れた。

恐る恐る視線を手に移すとそこには手があった。

その手の持ち主は眩しいのか細目になって、まだ意識が朦朧としているようだ。


「ま…マコ…」

「…花を…私に…」


アンドレとパープはエリック王子の背後で目覚めたマコに気が付き、あんな女ひとり目覚めた所で状況は変わらないはずなのに一筋の不安を感じた。

エリック王子からマコに花のブローチを渡してマコは強く願った。

すると空間が歪み、アンドレとパープが予想をしていなかったドラゴンが現れる。

そのドラゴンはアンドレとパープ目掛けて炎を吐いて二人は部屋の入り口まで下がった。


「マコ!大丈夫!?」

「ライラ…」


ドラゴン族の姫ライラの後にもうひとり刀を腰につけた剣士が空間から現れエリック王子の前に立つ。


「ここは我らにお任せ下さい」


ドルガナの街を守るライデン家の主君レッドだ。

レッドの腕はその辺の騎士よりもたつ。

一方的に有利だった形勢がどちらが有利かわからなくなりアンドレは渋い顔をしてマコを睨んだ。


「あんたは本当に邪魔な奴だな…」

「はは…自分…でもある程度自覚してる…でもね…動かずにいられない…余計とわかってても、邪魔だとわかってても、それが…私だって…」


マコはボーとする意識の中で、まるで寝言のように呟いていた。

暗い海の中で「お前は必要ない」と散々責められ心も折れかかっていた時、小さな光が降ってきたのだ。


"マコはいるだけで、道しるべとなります。"


レケとの旅の途中で何気なく言ったレケの言葉が私に小さな感動を与えていた。

必要とされてるとかされてないとか、邪魔とかそんなの関係ない。

私は私でいいんだと。

マコはおもいっきり自分の頬を叩いて無理やり意識をはっきりさせようとした。

その音にライラは驚きマコの方に振り向くとパープは魔法を放ち部屋は煙で視界が悪くなる。

刀と剣がぶつかり合う音が響き、ライラの咆哮で煙が消し飛ぶとパープとマコがその場から消えていた。


「マコは!?」

「しまった…」


急いでエリック王子とライラは部屋の外に向かうがマコとパープの姿はなかった。


*******

暗く深い海の底で、遠くから聞こえる声


「魔王はまだ完璧な魔王になっていない」


そう聞こえた瞬間、私は眠っている場合ではないと思い、小さく見える光に手を伸ばし目覚めようともがい。

戦う力なんてなくてもいい。

共に苦しみや悲しみ、喜びを分かち合える仲間のもとに戻らなくては!!

やっとの事で意識が戻り目を開けようするが、想像以上に世界は眩しくて瞼が思うように開かない。

何とか視界がうっすらと見えるきたが、どうやらエリック王子と私は絶対絶命の状況だった。

勇者たちを呼び戻せない?

なら、私の知っている便りになる人達は…

エリック王子から花のブローチを預り祈ると期待通りライラとレッドが来てくれた。

ありがとう…そしてお似合いのふたりだぜ、ちくしょう。

これで何とか、この場を乗り切れればと思っていたが、私の考えは甘かった。

妖艶な魔族のお姉さんに蔓のような魔法でぐるぐる巻きにされて、私は見事に拉致られた。



最後まで読んで頂きありがとうございます。

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