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にじゅうに

「俺は黒永蒼斗、この世界でいう異世界からの英雄…らしい。」

「…ということは、マコのフィアンセ?」


シャルナがまじまじと蒼斗を観察する。


「ああ…だが、その記憶が戻ったのは数日前なんだ」


蒼斗は顔を曇らせ眠るマコを見て眉間に皺を寄せた。

そんな蒼斗の胸倉をオランは掴んで睨んだ。


「マコに何をした!!!」

「…魔王に捕まり、信官セイモスに催眠を掛けられている。俺も同じことをされて記憶がなくなっていたんだ」

「記憶を…」


申し訳ないといった悔しい表情を浮かべる蒼斗を掴んでいるオランの手にシャルナは手を乗せてオランに離すように促した。

そして、眠るマコをみて悲しい瞳になる。


「一旦…ゼロの所に戻りましょう」

「こいつを信用するのですか!?」

「マコを私たちの元に連れて来てくれたのは事実だわ。それに…瞳がマコと似てるの」

「…」


蒼斗から微かに感じる魔族のオーラとマコと同じ異世界のオーラが確かにある。

シャルナは蒼斗を信じる事にしたがオランは納得がいかないといった様子で蒼斗から手を離し、マコを抱きかかえ運ぶのは絶対自分だと言いはった。


それから眠りについているマコをゼロ達がいる場所へ運ぶと皆言葉を失った。

あのマコが倒れて眠っている。

もしかしたら、もう目覚めないかもしれないし、目覚めても記憶がないかもしれないという恐怖が包んだ。

その日の夜、蒼斗が休憩する部屋にゼロが訪ねて来た。


「少し…話がしたいのだが」

「はい…」


蒼斗が休憩する部屋はシンプルでデスクと椅子とベットしかない。

蒼斗は部屋の中に招き入れ、椅子をゼロに勧めて、自分はベットに座った。

ゼロはすすめられた椅子に座り、少し沈黙を置いて話しかける。


「俺は10年前マコと3年間魔王を倒す旅をしたんだ。俺の知っているマコはちょっと間が抜けているが優しくて周りを明るくして、まさに俺の道しるべだった…マコがいるから俺たちは苦しい事も乗り越えられたんだ。そっちの世界のマコはどんな女性だった?」

「…真子は仕事に真面目すぎるぐらい真面目で、周りの困っている人をつい助けて、自分の首を絞めるような女性でした。誰よりも純粋で傷つきやすいのに…彼女を守ってあげたいと思ってました」

「そっちの世界のマコは幸せだったのか?」

「それは…」


ゼロの問いかけに蒼斗は言葉を詰まらせた。


「マコは貴方に逢いたいといってそっちの世界に戻って行った。俺たちはそれがマコの幸せだと信じて送り出したんだ。はっきり言っておく。マコが幸せでない世界なら、もう手放す気はない。」

「お言葉ですが、こちらの世界に真子の幸せがあるというのですか?こんな危険だらけの世界で」

「ああ、危険だ。魔王がいて魔物がいて、だから皆一生懸命生きている、生きようとしているんだ」

「…」


静かだがゼロと蒼斗は睨み合っていた。


「マコは…どうしてこの世界に戻って来たと思う?」

「わかりません。俺みたいに突然召喚されたのでは…」

「そう言ってたけど、俺はそれだけじゃないと思う」

「?」

「未練があったんだよ、やり残した事がこの世界にあったんだ」

「それは…何ですか…」

「…レケだ。マコとレケとの間には、俺も入れない位の絆がある」

「…魔王ですか」


ゼロは蒼斗にレケが魔王になった経由を説明した。


「…そんな事が…」


蒼斗の中では短い間でも真子とレケの間では壮大な物語があったのだと理解した。

そんなふたりに、やはり蒼斗は嫉妬を隠せないでいた。

真子が眠っている間に、かたをつけてあげれれば、真子の悲しみは少ないであろう。

蒼斗はそんな事を考えていた。


「ゼロさん…真子の為にも、魔王を倒しましょう。真子もそのレケ君も解放してあげましょう」

「ああ、そのつもりだ。次は俺が勝つ」

「俺も手伝います。」


****


蒼斗の協力のもと、ゼロ達は魔王討伐とアガゼウスを救出する作戦が始まった。

アガゼウスは王都の地下に捕らえられているらしく、魔王と戦うチームと救出チームで二手に別れて行動することになる。

魔王を倒しに行くのはゼロとシャルナとフラワー姫、アガゼウス救出には蒼斗とリースとオランが向かうことになった。

エリック王子は眠っているマコとトムの村で王都軍と一緒に待機する。

時間を置けば状況が変わってしまうので、ゼロ達は早急に行動にうつすことにした。

エリック王子はシャルナを抱きしめ目を閉じる。


「必ず…無事に帰ってきてくれ。」

「ええ。わかってるわ。マコをお願いします」


そして、ゼロや他の仲間に目配せをすると、ゼロも深く頷いた。


「頼んだぞ」

「はい」


ゼロ達はそれぞれの思いと覚悟を決めて、王都に向かった。


蒼斗は魔王の英雄としてこの世界に召喚された時にある能力が備わっていた。

マコは何となく次に向かう所がわかる曖昧な"道しるべ"という能力だったが、蒼斗は道しるべという能力がない代わりに魔獣を操るという能力だ。

その能力を使い王都へ潜入するメンバーにそれぞれ魔獣を付け、意図も簡単にセキュリティエリアへの潜入が可能となった。

そして、潜入後はふたてに別れて行動した。

蒼斗とオランとリースはアガゼウスの救出に地下深くに向かう。

蒼斗は勇者の仲間のアガゼウスという者が地下に捕虜としているという情報のみ知っており、実際に会ったことはなかった。

出来るだけ他の魔族に出会わぬよう注意をしながら地下牢に向かうと一ヶ所だけ厳重な警備をしている場所を発見した。


「おそらく、あそこだ」


蒼斗の声にオランとリースに緊張が走る。

アガゼウスを助け出す事は勇者と魔王の戦いに支障をきたさない為にも重要な事だった。

牢屋の番人の魔族たちの様子から、まだ戦いは始まっていない。

今のうちにアガゼウスを助け出そうとオランと蒼斗とリースは手っ取り早く魔族を倒すことにした。

牢屋の番人の魔族は思いの外少なく、すぐに倒すことが出来、牢の中を確認すると三人は固まった。

そこには鎖に繋がれガリガリに痩せこけボロボロになったアガゼウスが手足を削がれぶら下がっている。

その姿から、彼が生きているのか疑問に感じる。

しかし、アガゼウスのすぐ側にリースと同族の妖精が繋がれていた。

その妖精もボロボロな姿で羽をもがれて飛べなくなり鎖で繋がれている。

恐らくアガゼウスの生命を繋いでいるのが妖精なのだろう。

酷い光景に顔を歪めて蒼斗とオランとリースは牢屋の鍵を壊し中に入った。

蒼斗たちに怯える妖精にリースは寄り添った。


「助けにきたよ…辛かったね」

「ぁ…ぁ…」


ボロボロな妖精は言葉が出ず、俯いて泣き出した。

蒼斗とオランは恐る恐るアガゼウスに近づくとアガゼウスはゆっくりとまぶたを開きボーと二人を眺める。

その様子に生きていると確信したオランの瞳から涙がこぼれた。


「お父さん…」


震える手でアガゼウスに触れるオランにアガゼウスの瞳の奥に小さな光が見えた。


「…ぁぁ、おそ…かったな」


掠れた声で確かに喋るアガゼウスは意識もあり心の強い男だと蒼斗は思った。

勇者と魔王との戦いが始まる前に安全な所にアガゼウスを避難させなければいけないので、急いでアガゼウスと妖精の鎖を外し地下牢屋から連れ出した。


最後まで読んで頂きありがとうございます。

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