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にじゅういち

私まであと数メートルという所で魔王は足を止め、黒モフに締め付けられて、芋虫の様にもがいている私を見下ろしている。


「まったく、愚かな人間だ」


魔王レケが小さく呟いた時、玉座の間にひとりの男が入って来た。


「魔王様、失礼致します。妙な気配を感じまして…」


その男は黒いマントを羽織り、黒い髪に細長い瞳で私を睨んだ。

よく見慣れた顔と声に私は固まり顔が青ざめていく。

呼吸をすることを忘れて目の前にいる彼が信じられなかった。


「あ…あお…と…」

「…勇者の英雄か、のこのこと魔王様の元にやって来るとは。」


蒼斗は私の事を全く知らないといった素振りに私は戸惑った。

魔王になったレケと蒼斗が同じ空間にいるだけで私は複雑な心境になった。

私の様子に魔王は顔を顰めて蒼斗を見る。


「…ブル、知り合いか?」

「いえ…」


即答する蒼斗に私は驚いて目を見開き蒼斗をまじまじと見る。

嘘をついているように見えない…

もしかして元の世界の記憶がない?

ここで蒼斗と私の関係を魔王レケにバレるのは得策ではないと思い私は表情を隠すため俯いた。


「…まぁいい。これで人質が増えた。」

「地下の牢屋に入れておきましょうか?」

「いや…私の部屋(王の間)に繋いでおけ」

「…は」


そう言われて蒼斗は両手と身体をマントで締め付けられた私を掴み上げ、引きずるように連行した。

私は王の間に連れて行かれ、王の寝室の壁に埋め込まれている鎖に首枷と手足片方づつを繋がれた。

今はふたりっきりで話が出来る数少ないチャンスかもしれない。

私は思い切ってブルと呼ばれていた蒼斗に問いかけた。


「蒼斗!蒼斗、私だってわかる?」

「…」


まるで聞こえてないように無視をする蒼斗に私は苛立った。


「なんでこんな事になっているのかわかる?自分が誰で何者なのか知ってる?」

「…」


私の言葉に耳を貸そうとしない蒼斗に私は更に苛立った。


「~もう!何とか言ったら?無視?無視するの?気が弱いの?バカなの?」

「…」

「私の事、忘れるなんて、そんなもんだったの!?」

「煩い!」


無視をしていた蒼斗だったが、彼も苛立ち私に怒鳴った。


「くっそ、頭が痛い…黙れ!」

「蒼斗…お願い…思い出して。私との日々を忘れないで…お願い」


私はグッと泣くのを我慢して願った。

どうして蒼斗までこの世界に居るのかわからない。

しかし、今現在、魔王側にいる蒼斗は何かしら私のせいでこの世界に来たのだと思う。

元の世界の蒼斗は優しくて、思いやりがあって、困っている人を見過ごせない人だった。

行動力があって、少しだけ頑固で…周りの調和を大事にする私には勿体ない彼氏だ。

そんな彼が…

私は立ち去ろうとする蒼斗を鎖で繋がれていない手で掴んだ。

蒼斗は離せとばかりに、私を睨むと私は我慢していた涙を瞳からこぼし真っすぐに蒼斗の目を見つめた。

これだけは伝えておかなければ…囚われの身となった私はもう蒼斗と話すチャンスがないかもしれない。


「…ごめんなさい…大好きだったよ…」


私の言葉に蒼斗は目を見開き固まっていた。

そして、何もなかったように私の手を振り払いその場を足早に去った。

残された私は床にペタリと座り自分が魔王に捕まってしまった事でみんなに迷惑がかかると反省をした。


それからどのくらい時間が経ったのかわからない。

王の間に一本角の魔族がやって来ると私を蔑む目で見ている。


「こんなみすぼらしい女が勇者の英雄とは…どこに利用価値があるのか」


私はこれから起こるであろう事を考えると寒気がして小さく震えていた。

捕虜として捕まったのだから、やはり拷問だろうか…


「さて、勇者側の情報を話してもらいたいが、そう簡単には話さないのだろう?指の一本や二本切ってやりたいが、貴様に危害を与える事は許可されていない」


サイモスは忌々しいと顔を歪めて苛立っているようで、ポケットから小さな小瓶を取り出し、中の液を私に振りかけた。

その液体はすぐに気化して蒸気となり、それを吸い込んでしまった私は意識がグラっと落ちそうになる。


「ただ、これは危害を加えるものではない。催眠にかけ幻を見せるものだ。さあ、英雄よどのくらい耐えられるかな?」


私の意識は徐々に遠くなり、まるで暗く深い海の中に落ちていくようだった。


誰かにいつも助けてもらっている。

私の存在自体が迷惑なのではと思ったこともある。

私が迷惑をかける事で、みんなの足をひっぱり、これなら何もしない方がいいのではと思った…

直接言われた事はないけど、子供の頃から周りはそんな目で見ていたのかもしれない。


「余計な事はしないで。」

「言われた事だけやっていればいい」

「迷惑だ」

「足をひっぱるな」


私は自分に自信なんて持てない…出来の良い人間ではない…

必要とされていない…空気のような存在…


私は必要とされない存在…


※※


「これはどういうことだ?」


倒れているマコを見て、魔王レケはサイモスを不機嫌に睨んだ。

その威圧感と殺気を帯びた瞳は冷酷でサイモスは虚勢を張りつつも怯えていた。


「さ、催眠をかけております。ブルのように使いやすくするために必要かと」

「…記憶を消しているのか?」

「いえ、ブルはたまたま記憶が消えただけです。これは心を壊し、抜け殻に!ガッ…」


まだ話をしている途中だったが魔王はサイモスの喉を手で掴み締め上げる。

息が出来ず顔がどんどん赤くなり、苦しみ悶えるサイモスを魔王は投げ捨てた。


「勝手な事をするな。わかったな…次はないと思え」

「ゴホゴホ…は…」


咳込みながら膝をつき頭を下げるサイモスを横目に魔王は再びマコが倒れている姿を見た。

そしてサイモスを部屋から下がらせ、マコを繋いでいた鎖を外し抱きかかえると王の間の寝室に向かう。

そこにあるキングサイズのベットにマコを下ろし布団をかけベットの横に腰をかけた。


「…ふ…どうした、レケ。お前の心が荒れているぞ」


魔王は独り言をつぶやいてクツクツと笑いマコの髪を撫でた。


それから数日後、マコは目を覚ました。

その瞳は曇り、まるで魂が抜けた人形のようになっている。

マコは王の間のベットに座り1日を何もせず過ごす。

問いかけにも答えず、食事もとらず…

このままでは衰弱していくばかりだったので、魔王はセイモスにマコの世話をするように命令した。


「同じ事はなんども言わない。わかるな」

「は。危害を加えませんし、勝手な行動も致しません」


セイモスは回復魔法をマコにかけ、さらに眠らせる魔法をかけて王の間のベットにマコを眠らせた。

魔王が留守にする間もセイモスは度々やって来てマコを魔法で回復させる。

そんなある日、セイモスは人間の男性を連れてマコの元にやって来た。

その人間は少しオロオロして、落ち着きがない。


「ほ、本当にいいんですか?セイモスさま」

「ああ、魔王様が遠出をしている今しかチャンスはない。この女を孕ませろ」

「バレたら殺されます…」

「この女が人間の子を孕んでいる事実さえ出来れば、相手は誰でもいい。今、貴様がしなければ、わたしがお前を殺すだけだ」

「ヒッ…」


追い込まれた人間の男はしぶしぶマコに近づき手をかけようとした。

しかし、その瞬間、部屋の入り口から二匹の魔獣が飛び込み一匹は人間の男を、もう一匹はセイモスを襲った。

セイモスは魔法を使い魔獣をはね飛ばすと後から入ってきた人物の姿を確認して目を細めた。


「ブル、なんのつもりですか」

「なんのつもり?それはこっちのセリフだ!!」


ブルの後ろから更に4匹魔獣が現れセイモスを襲わせるとマコの元に駆け寄り抱き抱えて連れ去った。


「…真子、しっかりしろ!」


ブルは急いで地下通路に潜りマコの形跡を追って潜入してきた場所に向かうと警戒をしているシャルナとオランがブルに気が付き構えていた。


「説明は後だ!早くここから逃げるぞ!!」


ブルは大声でふたりに叫び、脚を止めず二人の元を突っ切ると、シャルナとオランはマコを抱えて凄い勢いで走り去っていくブルに圧倒された。

そして、その後ろから魔獣が4匹追いかけて来ることに気が付き、シャルナとオランは急いでブルの後を追い掛けた。


「ちょっと待ちなさいよ!!一体何が?」

「貴様は誰だ!!」


走りながら聞いてくる二人にブルは息があがって答える余裕がない。

それから何とか魔獣を振り切り、スラムの街ではなく、森に身を隠した。

マコを担いだまま走り続けたブルの手と足がガクガクなり、マコを降ろすと倒れるように座った。

そんなブルの首元にオランは短剣を鞘から抜き当てた。


「答えろ。何者だ」

「俺は…」




最後まで読んで頂きありがとうございます!

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