にじゅう
次の日、私は早朝一人でチョコのアジトに魔物を見に行った。
弱って死にそうだったからと言って、助けた限り責任はある。
それに何か問題が起こってはチョコが悲しむと思い心配だったから。
ひょこっと隠れアジトを覗き込むと黒い毛むくじゃらの姿がない。
その近くに置いてあった水と食べ物が空っぽになっている所を見ると動ける程元気になったという事だろうか?
私が頭をぽりぽりと掻いて何処に行ったのか考えていると、ぽふっと頭の上に何かが乗って来た。
「…まさか…」
私は恐る恐る両手でその毛むくじゃらの物体を掴み目の前に下ろすと、目つきの悪い小さな角が生えた魔物が私を見ていた。
「元気になったのね。チョコって女の子に感謝しなさいよ」
「…」
昨日より元気になったのか黒い(魔物)オーラが少し濃くなっているが、この愛らしい見た目から、いま現在は危険を感じるような者だとは思わなかった。
しかし、魔物は魔物。
このまま私が持っておくわけにもいかないので、あとでチョコと一緒に少し遠くに逃がしに行こうと考えた。
それまで、大人しくチョコの隠れアジトで待っていてもらいたかったが、何故か何度アジトに下ろしても私の頭の上に飛び乗ってくる。
私は5回目にして諦めて、服の中に隠してスラムの家に持って帰えることにした。
スラムの家に置いてあるバケツが丁度黒モフとサイズがピッタリ合ったのでその中に入れると意外と黒モフは気に入ったようで私の頭に乗ろうとしなくなった。
「…さて、ここで大人しくしてるんだよ。いいね!」
私はもしも部屋を覗かれても黒モフが解らない様にベットの奥に隠して、朝の挨拶周りに出かけた。
そして、今日は運よく蒸し芋を知り合いのおばさんからもらい、それを食べながら急いで家に帰ると意外にも黒モフは大人しくバケツの中で待っていた。
私はもらった芋の半分を黒モフにあげるとバグっと一口で食べた。
やばい…可愛いと思ってしまった…
今日もスラムの子供の面倒を頼まれ、外で遊んでいるとチョコが涙目になって私の所にやって来た。
「マロンーーーーモフいなかった…」
おう、うちに居る。
私はチョコの耳元で小声で私の家にいることを伝えるとチョコは走って私の家に向かった。
私は子守を少しの間他の人にお願いしてチョコの後を追って家に帰ると黒モフはチョコから逃げるように飛び跳ねており、私の姿をみると頭の上に着地した。
「マロンだけズルい!!」
「いやー私の頭の上、居心地いいのかな?」
もしかしたら、魔物にも刷り込みがあるのかもしれない。
目が覚めて一番最初に見た人がお母さん的な?
私の頭の上の黒モフだと大人しくなったのでチョコが撫でて遊んでいた。
「チョコ、この子元気になったっぽいから、逃がしてあげないと」
「え…」
「他の人に見つかったら、ひどい目に合わされるかもしれないの、ね?」
「うん…わかった」
とても聞き分けのいい賢いチョコは私の言葉をちゃんと理解してくれた。
それから二人で黒モフを隠し持って森の中に向かった。
そして、森の中で黒モフを森に放つと、予想通り私の頭の上に戻って来た。
「…」
「…マロン、どうする?」
「うーーーん」
7回ぐらい色々な方法で試してみるが、なんどやっても私の頭の上に戻って来る黒モフにチョコは笑い転げていた。
しかし、私は本当に困り果て悩んで
「困った…」
と小さく呟くと黒モフはピクリと反応して頭の上から素直に降りて森にある石の上に着地した。
おや?黒モフは…言葉がわかる?
しかし、これをチャンスとばかりにチョコは寂しがったけど私はチョコといっしょに黒モフを置いて街に戻った。
それから二日後、シャルナとオランが2週間ぶりに戻って来ていた。
私は二人の無事が確認できてホッとして喜んだが、対照的に二人は苦笑をうかべていた。
「潜入できたけど…思ってた以上に警戒態勢が厳重で…肝心のエリアに入る事は出来なかったわ」
「セキュリティエリアの魔法を使える者が魔族にいるなんて…」
「セキュリティエリア?」
シャルナは疲れたらしくベットに腰をかけて私に説明してくれた。
「対象の特徴、たとえば人間なら人間の特徴がないものはエリアに入れない結界みたいなものよ。魔王の配下が集まるエリアにはそれが発動していて私たちは入る事が出来ないの」
「数人の魔族から情報を聞き出したが、魔王とその傍に信官セイモスという者がいるらしい。その下にグレ・パープ・リョシュカ、そして…魔王の英雄ブル…」
「魔王の英雄?」
「異世界から来たと言ってた」
私は頭が真っ白になった。
でも、もし蒼斗だったとしてどうして協力をしているのだろう?
あの鬼山の時だって、私を見ても平然としていたような…
「それにアガゼウスの情報もあったわ。やはり魔王のエリアに捕まっているって」
「どうする…」
「そうね…リスクは高いけど騒ぎを起こしておびき寄せるとか?マコ?大丈夫?」
「…魔族なら…そのエリアに入れるって事?例えば、頭に魔物を乗せて入るとか」
「可能だと思うけど、そんなことに協力してくれる魔族なんて…」
私は真っ先に黒モフの事を想い出した。
急いでシャルナとオランと一緒に黒モフと別れた森に向かうと2日経っているというのに黒モフは岩の上に座ったままだった。
私は驚き近づくと目を閉じていた黒モフは目を開けて私の頭に飛び乗った。
「驚いたわ…魔物に間違いないわ」
「しかし、これ一匹だと潜入できるのは一人だけ、危険すぎる」
オランが黒モフをつつきながら懸念そうに言った。
「私、城の王座エリアの構造も覚えている。一人で身を隠して確認だけすることは出来ると思う」
「しかし…」
「お願い…行かせて欲しいの。どうしても、確かめないと…」
私の必死のお願いにシャルナとオランはしぶしぶ折れた。
頭に乗せた黒モフに食事を与えて大きめのフード付きマントを被ろうとすると、なんと黒モフは小さな角が生えたフード付きマントの形に変形をした。
「この子、魔族の装備魔獣じゃないかしら?鎧とか盾とかに変形して魔族の体に寄生する魔獣がいるって何かの本で読んだわ」
「寄生って…」
血とか吸われないだろうか…
私の体を包み込む黒モフのおかげで魔族に見える姿になった。
必要最低限の道具をもってシャルナとオランに王都の城への入り口まで案内してもらい、出来るだけ安全なルートを教えてもらう。
地下の逃亡用通路で中央部に近づくと黄色い透き通った壁が現れた。
「ここからがセキュリティエリア、いい?絶対危険な事はしないで。見つかりそうになったら一番に自分の身を大切にして早めに逃げて。ここで私達待ってるからね。遠目で見て、英雄の姿を確認するだけ!わかった?」
シャルナの厳しい言いつけに私は頷き、ゆっくりとエリアに入るとなんの違和感もなく普通に入る事が出来た。
それから速足で進み、王都城中央部に出る。
等間隔で護衛の魔族がうろうろしており、彼らの目を盗み玉座近くのエリアに入り、天井に隠れた。
時々やって来る魔族を隙間から凝視して確認するが、どれも違うようだ。
私は少し考えて、思い切って玉座の間を見てみる事にし、天井の中をゆっくりと進んだ。
玉座の間の玉座に遠目でひとり座っているのがわかる。
そのオーラは禍々しく一目で魔王だとわかった。
しかし、その姿は3年間一緒に旅をしたレケで少し頬がこけて眼がまるで違う。
髪もボサボサに伸びて手には本を持っていた。
私はギュッと胸を締め付けられ、あまり近づいてはバレテしまうと思い別の部屋に移動しようとすると、天井の床が消えて私の体は玉座の間の床に叩きつけられた。
「!?っ…いった…」
「せっかく来たんだ、ゆっくりしていけ英雄よ」
その魔王の言葉に私は凍り付いた。
はじめから私が居たことがわかっていたというのか。
気配?それとも…
魔王と私までの距離は20mぐらいあり、まだ逃げる事は出来ると思った。
しかも、魔王は玉座から立ち上がろうともしていない。
私は魔王を直視することが出来ず、慌てて逃げようとした瞬間、羽織っていた黒モフが私の体を締め付け身動きが出来なくなる。
「な!?」
「それは私の魔装だ。中々の代物だろう?」
どういうことだ…まさか…魔王のレケは私一人をここに招き入れるために黒モフを仕向けていたの?
レケなら…やりかねない…
玉座の間には私と魔王しかいなかった。
魔王は本を閉じて、玉座から立ち上がりゆっくりと私に近づいて来る。
逃げなければ…勇気を出して魔王を見るとその姿はやはりレケだ…
胸が締め付けられ、焦る私を薄らと笑うその冷たい瞳に私は息をするのを忘れていた。
最後まで読んで頂きありがとうございます(*^_^*)