じゅうきゅう
あけまして おめでとう ございます♪
side ブル
なんだアイツは…
勇者一行の手配書の似顔絵を眺めて真ん中の下部分に描かれている英雄マコの顔の睨んでいた。
この似顔絵を見ても何とも思わなかったが、鬼山で実物に逢った時、びりびりと頭の中に衝撃が走った。
頭が痛い…片手で押さえていると魔王からお呼びがかかった。
王都を乗っ取り、魔王はこの城を気に入り滞在をしていた。
王家の間にある王座に座り、その横にはセイモスが立っている。
セイモスは王の護衛兼信官であり、ほとんどの指示は魔王から信官を通して命令される。
魔族らしく大きな一本角を頭から生やし、鋭い目つきのセイモスは魔王を心酔していた。
「ブル、鬼山の調査時に英雄に出会ったと聞いたが本当か」
セイモスの問いに俺は膝をつき頭を下げた。
「はい。英雄を仕留め損ない申し訳ございません」
「…」
セイモスが俺を睨んでいるのは見なくてもわかる。
もしかしたら仕置きがあるかもしれないと覚悟をしていると珍しく魔王が口を開いた。
「それで、どうだった勇者の英雄は。魔王の英雄のお前は何か感じたか」
俺は顔をあげて魔王をみると、薄らと笑っている。
感じたと言えば感じたがそれを言葉で表すのは難しく、眉をひそめた。
「魔王様、勇者が復活したという情報も入っております。早い段階で勇者の英雄を処分しておいた方がいいかと」
「あれの情報は”頭の中”にある。いつでも殺すことが出来るさ」
魔王の瞳は冷酷で愉快と笑っているがどことなく違和感が感じられる。
その眼の奥に何が隠されているのか…
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side マコ
ラジャの港に到着するとすぐさま政府の軍に合流するため、地下に向かった。
もと基地があった所はものけの空なっていたので、どこに移ったのか情報を求めにゲンじーさんを訪ねた。
しかし、ゲンじーさんのお店も閉まっており誰もいない。
「いったいどこに…」
私達は次にどこを探せばいいのか考えていると、いつかの豆泥棒の子供が私の前に現れた。
以前と比べて少しはまともな服装になっており、ガリガリだった体つきは少し普通の体系に変わっていた。
「豆のお兄ちゃん、ゲンじいさんからコレを渡す様に言われたの」
一枚の紙を私に渡してお辞儀をして去って行った。
その紙には新しい基地の場所が記されている。
ラジャから更に南にある小さな村にいるようなので、私たちはその情報を頼りに向かった。
トムの村という村ですぐにたどり着くと村人は私達を見るや急いで家の中に駆け込んだ。
そして、若い女性がやって来る。
「こちらです」
その女性について行くと倉庫があり、その中に案内されると地下に続く隠し通路があった。
そして、その先に王族の軍とシャルナ、エリック王子が待っていた。
「マコーー!おかえり!!」
喜び駆け寄って来るシャルナのボディタックルを直にくらって私はグッとせき込む。
そして、シャルナはゼロの存在に気が付き、無言でゼロに抱き付いた。
「寝過ぎよ…もう」
「心配かけて、ゴメン。シャルナよく頑張ってくれた」
「ふふ、当たり前よ…」
喜びの再会もつかの間で、私たちは情報の交換と今後の作戦会議を行った。
ゼロの体力を回復させること、その間に勇者側に協力者を増やすこと。
そして…魔王を今度こそ倒すことを話し合った。
「もうひとり異世界から来た人物が…マコのフィアンセ?」
「まだ100%間違いないって確認した訳じゃないけど…」
シャルナやエリック王子も困惑した表情をしていた。
「…危険だけど、どこかで接触して確かめないといけないと俺は思う。本当は俺がマコの護衛をしたいがこんな体だ。シャルナ…出来るか?」
ゼロの提案にシャルナは少し考えて頷いた。
「…わかったわ。」
「わたしもマコについて行きます」
オランは真剣な眼差しでゼロに懇願すると、本当はエリック王子の護衛に残って欲しかったようだったが了承した。
「ああ、頼んだ。エリック王子、貴方の身は我らが守ります」
「うむ。シャルナ、オラン気を付けて」
私とシャルナとオランは王都から一番近い村まで変装をして潜入した。
王都を追いやられた人々で行き場がない者が自分たちでトタンの家を作りスラム状態となっている村で私たちは隠れるのに好都合だった。
シャルナとオランと話し合った結果、やはり王都に忍び込み情報を手に入れるしか確認が出来ないという事になり、危険だが魔族と接触をすることを試みる事になった。
「マコは足手まといだから、この村で待機」
「えー」
「すぐに戻って来ます」
私はスラムの一室でシャルナとオランから置いてきぼりをくらった。
それから数日、ふたりの帰りを待っている間、私は時間を持て余すのでスラムの人々の手伝いをすることにした。
絶望の中でも一生懸命生きようとしている人々のために出来る事をしようと思ったのだ。
その中には子供もいて、私は主に子供の子守をすることが多かった。
遊びながらも、学校にいけない子供たちに読み書きをさりげなく教えて、最低限の知識を自然に与えようとしていると奮闘しているとクリクリ髪のチョコという女の子がとても懐いてきた。
「マロン、これ何て読むの?」
マロンは私がこのスラムで暮らす偽名だ。
チョコはとても賢く、勉強熱心な所があって、文字が書いてあるものを拾って来ては私に聞いて来ていた。
「ん?それは”お酒です”って書いているよ。こっちは”水につけてはいけません”って」
「これが”酒”って文字?へー」
他の子どもたちは遊ぶ事に一生懸命になるのに、チョコはこうした勉強をすることが楽しいようだった。
「…マロン、お腹空いてない?」
「空いてるけど、大丈夫だよ」
この町の生活はかなり厳しく食事も一日1回とれるか取れないかだが、私の元に王族の密偵が不定期に食べ物を置いて行ってくれる。
私はその食べ物を少しずつ小分けにして、本当に食べれなく困っている人々にこっそり渡していた。
「その…あのね…元気になるお薬とか持ってないかなって思って」
「チョコ、具合悪いの?それともお母さん?」
「ち、違うの…そのね…さっき、ごみを拾ってて…」
目を泳がせて困っているチョコに私はポンポンと頭を撫でて一旦家に帰り、栄養価の高い食べ物と少しの薬を持ってチョコの元に戻った。
「これを持って行ってあげて」
ニコリと微笑んで私はチョコに渡すと、チョコは私の手を引いた。
「やっぱりマロン一緒に来て」
そういうと町から少し外れた森の中に入る。
そこにはちょっとした子供の隠れアジトが作ってあり、その奥に黒いモフモフの毛が生え小さな角が生えている丸っこい小さな生き物が震えて今にも死にそうだった。
その生き物から微かに黒い靄が見える…間違いない魔物だ。
私は顔を顰めて警戒をするとチョコは私を見て怯えてしまった。
「ご、ごめんな…さい…」
「…チョコ…」
今にも死にそうなその魔物を助けるべきか、もし助けたとして、その後どうなるか…
私は葛藤の末に、魔物を助ける事にした。
食べ物を普通に差し出しても食べる気配がないし、この様子だと薬も飲まないだろう。
このまま衰弱して命を落とすかもしれないが…私は一回スラムの家に戻って、魔法瓶を持ってきた。
その魔法瓶の中は回復魔法が入れられており、あまり回復率は良くないが非常用の物だ。
それを魔物の上に振りかけ、チョコには水を持って来てもらい、日が暮れそうになったので食糧と水を置いて私とチョコは帰った。
「マロン…私、間違った事したのかな?」
帰り道、チョコは私に聞いて来た。
私は回答に困って悩んだが、チョコの頭を撫でて微笑んだ。
「間違った事かどうかは、正直私にもわからないけど、チョコは素敵な心を持ってるって事はわかるよ。」
「本当?」
「うん。明日元気になってるといいね」
あまり元気になり過ぎて魔物が暴れても困るが…
チョコでなく、他の子どもや大人があの魔物を見つけていたら、間違いなく殺されているか、野垂れ死ぬのを待っていただろう。
私でも助けるべきかどうか悩む所だ。
それなのに、チョコは見つけてあの隠れアジトに連れて行って助けようとしてくれた。
この子は本当に優しい子なのだ。
魔物=悪=倒すことしか考えていなかった自分を反省した。
最後まで読んで頂きありがとうございます!年末忙しく…まったく余裕なかった…今年はもっと自分の時間を大切にしたいと思います(>_<)後悔だけはしたくない!




