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じゅうはち

「お願い、助けて!!!」


花のブローチから渦を巻くような空間が広がり、そこから現れた蒼い柄の剣が一直線にライラを襲っていた魔物の胸を貫くと柱に剣が突き刺さる。

その直後空間から飛び出て来たオレンジ頭の青年はレッドに噛みついていた魔獣の首を切り落とし、次々と魔物を蹴散らしていく。


「まったく、使い方をちゃんと教えてなかった私も悪いけど、英雄さまなんだから、もっと早く気が付いてほしいものね」


可愛らしい声が聞こえて薄い緑色の妖精が現れ空から光のシャワーをまき散らし、傷を負っていた人々がみるみると回復していった。


「ダメですよ、マコは鈍感だから。」


その声の主が視界に入ると私は口を半開きにして固まった。

少し痩せているが10年という歳月の分貫禄が出ている。

確かに本人に間違いない。

首や肩を回して準備運動をしながら現れた金色の髪の男は間違いなく…


「ゼロ…」

「フラワー姫に特別な魔法をかけてもらっているから動けるけど長くはもたない。一気に片付けるぞ!」

「は!」


柱に刺さった聖剣を引き抜き、ゼロの一太刀で私たちを取り囲んでいた魔族たちは塵になり、攻撃を避けた魔族たちをオランは鬼神のごとく切り倒す。

戦闘補助魔法を二人にかけるリースの三人がどんどん魔族を攻めている間に、仄かに花の匂いが漂ってきた。

私は不思議に思いゼロたちが出てきた空間を見るとそこにはフラワー姫が祈りを捧げて、大輪の花を空高く咲かせていた。

そこから降りそそぐ光は暖かく、回復魔法と高難度の蘇生魔法が周辺一面を包む。

完全に心臓が止まっていない人々は蘇生され、生命を感じ、光に包まれ壊れた街をみて泣き崩れていた。

勇者ゼロとオランとリースのおかげで形勢は一気に逆転し、魔族たちはちりじりに逃げて行く。


私達は…勝ったのだ。


激しい戦闘のあと

レッドとライラは勇者ゼロをはじめとする共に戦ってくれた仲間に感謝をして休む暇もなく街の復興のために忙しそうだった。

建物はほとんど壊されて、ビニール屋根の仮家にゼロは寝かされフラワー姫に常に回復魔法をかけてもらっている。


「そんな体でよく戦えたね…」


お見舞いに来ていた私は少し呆れていた。

それもそうだ、10年近く眠り続けていたゼロの体は衰え、筋肉はほとんどない状態だった。

それを無理やりフラワー姫に強化してもらい、その反動と筋肉痛で苦しみ悶えている。


「すぐに動けるように鍛え直す」

「ダメですよ、無理をしては…」


フラワー姫は心配とばかりに困った顔をしたが、ゼロは顔をしかめていた。


「状況はかなり悪いのだろう。全部俺のせいだ」

「そんなことない。それ言ったら私のせいだし…」

「…戻って来るとは思ってなかった。ほんと、バカだよな―マコは」


そういうとゼロは涙目になって笑っていたので、私も笑い返した。

街の復興を手伝いながらゼロの回復を待った数日、時間がある限り情報を伝えた。

そして、その中で私はとても重大なことを皆に伝えなければいけなかった。

ライラやレッドと私達は集まり、これからの事について相談している時に私は皆に話す決心をした。


「聖剣を取りに鬼山に行った時、ひとりの魔族に襲われたの」

「あの、黒いフードと魔獣ですね。大した相手ではなかたっと思いますが…」


オランがそれがどうかしたのかな?という顔をしている。


「私はその黒いフードの魔族の声を知ってる」

「…まさか、アガゼウスか?」


ゼロは眉間に皺を寄せて身をのりだすが私は首を横に振った。

確かにアガゼウスが魔族に捕まり魔族側に寝返る可能性もないことはないが…

私は目を閉じて信じたくないと思っていても、伝えなければと思い深呼吸して皆を見た。


「私の元の世界の彼の声だった」

「…は?」

「いや、冗談…え?」

「…」


少しの沈黙が続き、オランが口を開いた。


「よく似ている声…かも。幻聴の可能性も」

「…いいえ、マコのフィアンセの可能性はあるわ」


リースは以前からもうひとつの異世界の臭いについて皆に知らせると皆顔を曇らせた。


「…信じたくないって思うけど、確かめないと」

「…わかった、その件もシャルナたちと合流してから考えよう」

「私とレッドは街の復興にめどが立ったら、手伝いに合流するわ」


ライラとレッドはお互い視線を合わせて頷いた。

この二人はいいパートナーになりそうだ。


「もしもの時の為に、花のブローチを渡しておきましょう。リース」


フラワー姫がリースに呼びかけると、リースは手のひらに集中して花のブローチを作り出した。


「これは強く願えば転移出来る道が開けるお守りよ。誰かさんは知らなかったみたいだけど。もし困った事があったらこれに強く願いを込めて、すぐに駆け付けるから」


そう言ってリースはライラに花のブローチを渡した。

またいつ魔族たちが攻めて来るかもしれない。

ライラとレッドは有難くブローチを受け取りお礼を言った。


「わたしからも情報を提供させてもらう。10年前とは違い、今回の魔王は組織が組まれて統率がとれているようだった。魔王の下に数名の配下がおり、それぞれ役割を持っている。わたしと交渉をしていた魔族はグレと名乗っていた。その他にもブル、パープと言った名前も聞いたが詳しくはなんの役割かはわからない…」


レッドがすまないと申し訳そうな顔をしていたが、それだけでも有力な情報だ。

レケの知識を持った魔王…ほんとう、最悪だ。

私とゼロとオランとフラワー姫・リースはドラガルの街を離れてシャルナとエリック王子の元に向かう事にした。

しかし、彼らも一か所に留まると身の危険が高まるので常に移動を繰り返している。

どこかで合流するには、一旦南のラジャの街に戻り王族の軍に合流する必要があった。

ライラはドラゴンで送ってあげると言ってくれたが、あまり目立った移動をしてしまうと後が色々厄介そうになるので、少し時間はかかるが陸路と海路を使って向かう事にした。


日が高いうちに陸路を通り、船が動く港にたどり着くと、タイミングよくラジャの港に向かう船があり私たちはさっそくそれにのってラジャを目指す。

船に乗っている時間は半日かかるので私は甲板に出て少し風に当たっているとゼロがやってきた。

額には汗をかき、どうやら体を鍛えていたようだ。


「汗が冷えて風邪ひくよ」

「あー大丈夫大丈夫。オランと組手したけど、なかなか筋がいい若者だ。関心したよ」

「そりゃそうよーアガゼウスの息子だもん」

「え!?」


ゼロは驚き顔を引き攣らせる。

ゼロも知らなかったのか…


「アガゼウス、大丈夫かな…」

「…正直わからない…でも、レケが魔王ならすぐに殺したりはしないと思う。あいつなら…いざって時の人質にするだろうな」


う…やりそう…

私は顔を歪めて嫌そうな顔をするとゼロはぷっと噴き出した。


「しかし、マコ10年もたつのに変わってないな」

「あーそりゃこっちの世界は10年ぐらいたってるかもしれないけど、私は元の世界に戻って十数日でこっちに強制召喚されたからね…しかも3年巻き戻し付き」

「え?じゃあ、マコまだ27歳ってこと?」

「そういうこと。」

「…俺34…」


う、いつの間にか年を追い越されている…

ゼロは少し考えて船の手摺に上半身を乗りかかり私を覗き込んだ。


「もう弟扱いはされないよな?」

「まあ、年上になったからねーよし、次はお兄ちゃん扱いでお願いします」

「…マコが妹ってことか?」

「はい、お兄様。さっき露商のおばあさんがチョチョマを販売してました!買って下さい!」

「おい…」


私とゼロはお互い笑い合い、なんだかんだ言ってチョチョマを買ってもらった。



最後まで読んで頂きありがとうございます!

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