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じゅうろく

次の日、私は寝不足になりながらも家庭教師のふりをしてライラを訪ねた。

そして、昨晩見て回った情報をライラに知らせるとライラも驚いた様子だった。


「え?皆が屋敷で暮らしている?」

「うん。専用の屋敷っぽかった…中の雰囲気は正直見た感じだけど充実した生活を送っているって感じだったよ」

「そ…そんなこと…」


ライラも戸惑っているようだ。

私がふと窓の外を見ると屋敷に来客が来たらしく、執事のおじいさんが案内している姿が遠くで見えた。

なんとなく眺めていたが、来客の男に黒い靄の様なモノを感じて私は身をのりだし窓の鉄格子を手で掴みジッと覗き込む。

その男は黒いスーツに黒い帽子を深く被って慣れたように屋敷に入って行く。


「マコ?」

「…魔族だ」


私はゾワッと鳥肌が立っていた。

レッド・ライデンが魔族と繋がっているのは間違いなさそうだ…

しかし、なぜ…どうして?

腑に落ちない部分が多すぎて頭を抱え、もがいている私にライラは小さく笑ってくれたので、再会してはじめて見せてくれたライラの笑顔に私は少し救われた気持ちになった。

ライラの家庭教師をして3日目、今日がオランとの約束の日だ。

この日に協力を約束できなければ一度オランの元に戻らなければいけない。

当初は家庭教師を辞めて逃げる予定にしていたが状況が状況なだけに、ここで逃げるのは得策ではないと思った。

なんとかオランと連絡が取りたいが、簡単に街に行くことを許してもらえず、どうしたものかと悩んでいた。


「私が街に行きたいって言ったらダメかな…」

「うーんそれは無理だと思います」


無気力だったライラは今では受け答えをしっかりして、元の明るい性格を少しづつ取り戻している。

あーだこーだと悩んでいると私たちがいる部屋につづく階段から足音が聞こえて来た。

私は家庭教師をしているフリをしなくてはいけないので急いで本をとり、ライラは窓際の椅子にすわって外の眺めているフリを急いでした。

ガチャリと扉が開くとそこには、レッド・ライデンが現れ難しそうな顔をして入って来る。

私はじっとりと背中に汗をかき、出来るだけ自然にレッドに話しかけた。


「主君さま、いかがなさいましたか」

「…様子を見に来た」


ライラはレッドを見ず窓の方をジッと眺めたままだ。


「…なるほどな、確かに雰囲気が変わったなライラ」


その言葉にピクリとライラは反応してしまい、私はライラが正気を取り戻したとバレているのではと警戒し、もしもの時は無理やりにでもライラを逃がさなければと策を考えた。

レッドはおもむろに懐から二枚の紙を出し、私の前にあったテーブルの上に投げるとそこには私とオラン、シャルナ、エリック王子その他にも数名の似顔絵が描かれている。

私はサーと青ざめ固まった。

完全に勇者側の人間だとバレてる…

それを見た瞬間ライラも目を見開きレッドを睨むと、みるみると赤いドラゴンへと姿を変える。

広い部屋だったおかげで、ライラのドラゴン姿でぎりぎり立つことができ、ライラがレッドに襲い掛かると天井に少し頭をぶつけ照明が落下した。

私がライラを止める間もなくライラの手の爪がレッドに食い込み倒れ込む。


「ライラ!!待って!落ち着いて!」


倒れた時の痛みに顔を歪めるレッドだが、特に抵抗をしていない。

腰から下げている刀を抜こうとしなかった事に私は戦うつもりはないのだと悟った。


「貴様…きさまのせいで!!!」


しかし、怒りで我を忘れているライラの手に更に力が入り爪がレッドに刺さるとレッドは苦痛の叫びをあげた。

私はドラゴンのライラの腕に抱き付きライラを叱るように叫んだ。


「ライラ!!!」

「!」


我に返ったライラは私の存在に気が付くとレッドから手を離した。

レッドの腕からは出血をしている。


「どうしてです。いったいなにが?」


私は近くにあったシーツでレッドの腕を縛って止血をしながら問いかける。

レッドは薄ら笑いを浮かべて諦めの様な表情をした。


「わたしの過ちは償えるものではない…魔族と手を組み手に入れた物なんて、つまらないものだった…英雄殿、実は頼みがあって来たのだ」

「え?頼み?」

「ライラを連れて逃げてくれないか」


真剣な瞳でお願いをしているレッドに、私とライラは耳を疑った。


「わたしにはもう少しやらなければいけない事がある。アイツらの好き勝手にさせる訳にはいかない」

「なんなの…なんなのよ…」


ライラは落ち着いて来たのかドラゴンの姿から人間の姿に戻った。


「この塔の地下に抜け道を準備している。執事に案内させるから他のドラゴン族と地下で合流して街をすぐに出ろ。私の兵にも姿を見せるな、魔族側に寝返った裏切り者がいるようだからな…」


苦い表情をしてゆったりと立ち上がるレッドにライラは詰め寄った。


「どういうつもり?…わかるように説明して!」

「…ライラ…」


一瞬見せたレッドの瞳は愛おしい者を想う瞳に見えた。

もしかして、レッドはライラの事が…

レッドはすぐにいつもの貫禄のある表情に戻り、ライラを突き離す。


「急げ、今しかチャンスはあげられない。この街もいずれ魔族に襲われる」

「そんな…」


自分の村が襲われた時の記憶が戻り恐怖と絶望に震えるライラに私は肩に手を乗せて落ち着かせた。

きっとレッドは何かを悟っているのだろう。


「ライラ、行こう。彼を信じよう」

「…」


扉を開けると執事のシンバルさんが神妙な面持ちで私たちにお辞儀をした。


「頼んだぞ」


レッドが執事のシンバルさんに言うとシンバルさんは承知致しましたと頷き私とライラを塔の地下通路に案内する。

そこは急いで作ったようで抜け道で通路の補強もあまりしておらず土が露出して、腰を屈めて一人づつやっと通れるものだった。

一時進むと少し広い空間に出て、そこにも一人兵士が待っていた。


「お待ちしておりました。ドラゴン族のみなさまは先に行っております。さぁ急いで!」


執事のおじいさんと私とライラを先に進めて、その兵士は後からついて来た。

私は思い切って執事のおじいさんに聞いてみた。


「どうしてレッド様はドラゴン族を助けてくれたの?」

「…レッド様はライデン家の主君として先代よりドルガナの街を守るよう努めて参りました。たとえ魔族との繋がりを持ってでも街が守れるのならと考えておりました。その事で先代よりドラゴン族さまとは不仲に…しかし、それは間違っていたのです。レッド様は本当に守りたいモノが出来た時、その事に気が付かれました」


薄暗い地下通路の中、執事のシンバルさんが持っている灯にシンバルさんの悲し気な笑顔が見えた。


「ライラ様…」

「はい」

「どうか…どうかレッド様をお許し願いたい…どうか…」


深々と頭を下げる執事のシンバルさんに私とライラはレッド・ライデンが敵ではないと確信をした。

それから地下通路を抜けて、街の倉庫のような所で出るとそこに数名のドラゴン族が待っていた。

彼らはライラの姿を見ると駆け寄り泣いて喜んでいた。


「ライラ嬢、ご無事でなによりです」

「みんなも…良かった…」


感動の再会もつかの間、執事のシンバルさんと兵士は倉庫に準備していたフードを私たちに渡して急いで街を出るように言った。

しかし、私は宿にオランを待たせているので一度宿に戻らなくてはいけない事を説明すると兵士が私の代わりに行ってくれることになった。


「英雄さまの顔も手配されております。どうか、無事に街を出て決して戻って来てはなりません」

「シンバルさんたちは…どうするの?」

「私達はレッドさまにお仕えする者です。最後まで主君のもとで…」


優しく微笑むシンバルさんのその表情は死を覚悟するものだと感じた。

私はギュッと唇を噛みライラたちと共に街を出た。

その道中、私はライラに鬼山に行きたい旨を伝えるとライラは快く引き受けてくれた。

他のドラゴン族の人が危険だから自分たちが行くと言ってくれたが、ライラは断固として自分が行くと引かなかった。

街から離れ、廃墟となったドラゴン村に戻ると感傷に浸る間もなくライラはドラゴンへと変身する。


「みんなは身を隠しておいて、後から英雄様の仲間が来るはずだから、ニッケ連れて来てね」

「ああ、ライラ嬢すぐに追いつくから」

「さあ、マコ、早く行きましょう、鬼山に。」


私は真っ赤な美しいドラゴンの背中に乗って首元に抱き付いた。

英雄の道しるべが鬼山に何かあると直感を感じている。

早くゼロを蘇らせないと…

私はその一心でライラに乗って鬼山を目指した。


最後まで読んで頂きありがとうございます!

レッド・ライデンは日本刀を持っている堅物なイメージです。カラダを鍛えるのが趣味とか?


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