じゅうご
雪…
鍛えているのだろうか、体格ががっしりとしているが顔が小さく、その赤い瞳はとても威圧感があり、この男がライデン家の主君だろうと思った。
「レッド・ライデンだ。名は?」
「ロイです」
「…」
「…」
お互い目を見たまま変な沈黙が続く。
「何か質問はないのか」
「…いえ」
さっき見たドラゴンはなぜあんなに傷だらけなのか、他のドラゴンはどこにいるのか、聞きたい事は山ほどある。
いま私が喋れは間違いなく喧嘩ごしになってしまう。
私は心を抑えていた。
きっと家庭教師は不合格だろう、
しかし、ドラゴンがここにいる事が確認できただけでも収穫だ。
そう思っていると、レッドは手元の書類に目を通してサインを書いた。
「明日、朝から来い。この事を他言すれはお前の命はないと思え、わかったな」
そう言い捨てるとレッドは部屋を出て行った。
私はソファで呆気に取られていると執事のシンバルさんがレッドの置いて行った書類を回収して私に見せてくれた、
それは泊まり込みの家庭教師としての契約書で報奨金は一日1万銭と破格の値段に私は顔を引き攣らせた。
宿に戻りオランに説明をするとオランは私が家庭教師として潜入する事を反対した。
「確かにドラゴンとの接触ができる、いいチャンスですが危険すぎます」
「そうだけど、あまり悠長にしている時間もないし何とか協力してくれるドラゴンを見つけるためにも私は行こうと思う」
「しかし…では3日です。3日以上をロイだけで行かせるわけにはいかない。」
オランは私の身を心配しての事だと私も理解している。
私は3日という制限をもらい、ライデン家の家庭教師をすることにした。
次の日、ライデンの屋敷に向かうとさっそく生徒を紹介すると言って執事のシンバルさんに屋敷の中でも一番高い塔に案内される。
そこは外から鍵がかかっており、長い階段を上がると一室にたどり着いた。
そこの扉は鉄製で補強されて、ここでも外から鍵がかかっていた。
鍵を開けて中に入ると広々としていて、女性が好む内装をしているが窓には鉄格子が付いている。
まるで牢屋だ…
その部屋の窓側に一脚椅子が置かれて、長い赤い髪の女性が生気を失った目で外を眺めていた。
私はその赤い髪色に見覚えがあった。
彼女と出会った時はまだ幼く、可愛らしい少女だった。
天真爛漫というか活発で明るくハキハキとお話をする少女は私達に協力してくれたドラゴン長の娘だ。
「それではお昼ごろにまた来ます。教科書など必要と思われるものはそこの棚にあります。では」
そういうと執事のシンバルさんは部屋を出て行った。
扉を閉めた後、鍵も閉まる音がしたので私も自由に出れないということがわかった。
私は魂が抜けた彼女にゆっくり近づき名前を呼んだ。
「…ライラ?」
私の言葉にまったく反応をせず、鉄格子の向こう側を眺めている。
なにがあったのだろう…ライラは心を閉じて何も感じない様にしているようだ。
彼女をよく観察すると特別傷を付けられているという訳ではないようで、レッドがドラゴンの姫様と言っていた意味も納得ができた。
ライラはとても美しい女性に成長しており、赤い艶やかな髪に絹の様に白い肌、そして一瞳はエメラルドグリーンでとても美しい。
私はライラの視界に入る位置に移動して再び名前を呼んだ。
「ライラ、覚えてる?私だよ、マコだよ」
「…」
「ライラが小さい時に会っただけだから覚えてないかな?私、ライラのお父様に助けてもらったの」
「…」
反応しないライラに更に近づき膝を床について座りライラに視線を合わせた。
「今度は私が助ける。ライラ、お願い教えて、なにがあったの?」
私がライラの手を触ろうとするとその手を思いっきり叩かれてライラは立ち上がり怯えていた。
「…いや…触らないで…近づかないで…」
怯え震えているライラに私はすぐに手を下げた。
いったい何が…そんなに怯え震えて、恐怖を感じる目で私を見ている。
「…ごめん…ごめんね…辛い思いさせて…苦しい思いさせて…私なんて英雄失格だよね…」
「…え、いゆ…」
私は悔しくて泣くのを堪えながらライラに頭を下げた。
「でも、それでもライラたちを、みんなを助けたいの。お願いライラ、何があったか教えて。困っている事があるなら私に言って」
「あぁ…」
ライラは両手を顔に当てて涙を流して床に座り込んだ。
「お父様さま…みんな…うっうっ」
「ライラ…」
私はライラにハンカチを差し出して泣き止むのをずっと待った。
一時間ぐらい経っただろうか、目を腫らしてライラは私を見て悲しい表情を浮かべる。
「ドラゴン村が襲われて…お父様も兄様も皆殺された…私と数名も魔族に捕まりひどい扱いをうけたの…そのうちライデンが現れて私たちは彼に引き渡されたわ…」
「引き渡された?」
「彼と魔族は繋がっているのよ、そうお父様も言ってたもの」
なんてことだ、レッド・ライデンと魔族が繋がっているとは…
「私をここで飼い殺しにしているのもアイツ。あとの皆はおそらく地下に閉じ込められている。私が変な気を起こすと皆の命はないと言われたわ。私は死ぬ事もできず、生きる希望も失った…うっうっ」
再び泣き出したライラに私は抱きしめてあげたかったが、さっき怯えていたので私は差し出した手を引っ込めた。
「ライラ、辛いことを思い出させてごめんね。教えてくれて、ありがとう。」
ライラは首を小さく横に振った。
「英雄さま、勇者さまは…?」
すがるような瞳で見つめるライラに私は苦笑いをした。
「…実はまだ眠ったままなんだよね…私はゼロを起こす為にここに来たの」
「え…あ、英雄さま元の世界に戻るってお父様言ってた…」
そういえば、ドラゴンの長にも手紙を出してたな…あのころ、ドラゴンの息子と私を結婚させようとグイグイ押していたので大変だった。
「一回帰ったんだけど、また戻って来ちゃった。ライラ、ここから出たいよね」
「…でも、私が逃げるとみんなが…」
「成程、じゃ皆を救出してライラも助ける」
「…本当?」
「だから、ライラ希望を捨てないで。私も捨てないから」
ライラは震える手で私の手を掴み、再び泣き出した。
昼になり執事のシンバルさんが昼食を持ってきた。
突然ライラの様子がいつもと違ったら疑われてしまうので、ライラには演技をしてもらい、いつもの様に無表情で窓を見ておいてとお願いして何とかその場をやり過ごし、執事のシンバルさんが去った後再び詳しい事情や建物の構造をわかるだけ教えてもらった。
そして夜になり私はライラの部屋を出て、私専用に用意された部屋に移動する。
執事のシンバルさんから、むやみに出歩くなと言われていたが、夜更けになって私は他のドラゴン族の皆がいる場所を探すため屋敷の散策に出る事にした。
高級そうな調度品が置かれ、隅から隅まで手入れされた屋敷の中は迷路のようで、更に警備兵がいたるところにうろついていて、中々ドラゴン族の皆を見つけることが出来ない。
地下に閉じ込められているとライラは言っていたので地下方面を探すが牢屋などなかった。
私はコソコソと隠れながら地下を諦め庭園に目を向けると庭園横の森の中で小さな光があることに気が付く。
あんな所に光?
私は思い切って庭園に出てその光の方に進むと森に隠される形で少し大きな屋敷があった。
その屋敷を守るように護衛兵が何人も配置されており、私は近くの木に登って窓から屋敷の中を覗き込むと村人のような人が数名団欒をしている。
その中に、ドラゴンの長の補佐をしていた顔見知りのおじさんがいる事に気がつき、彼らがドラゴン族だとわかった。
ライラの話の印象と違い、捕まっているという雰囲気ではなく、屋敷の中で暮らしているといった感じに私は違和感を感じた。
それから更に色々と見て回って、いつの間にか空が少しずつ明るくなって来たので私は部屋に帰ろうと庭園をコソコソ隠れて通過しようとするとビュっと風を切る音がした。
何の音だろうと音がする方向を覗きこむと、そこにはレッド・ライデンが刀を振り下ろし一人稽古をしている姿があった。
その眼は真剣そのもので集中して素振りをしている。
武道に対する信念を感じさせる稽古だ。
私はますますレッド・ライデンという人物がわからなくなっていた。
最後まで読んで頂きありがとうございます!
読み返して投稿してないから、誤字脱字または変な言葉が多々あるかも…後日修正します(^^;