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きゅう

いそいそと部屋の奥に案内されると薬の調合機器にも埃が溜まっている事に気が付いた。

以前はそこだけは綺麗だったのに…


「…ひどい世界になってるじゃろう?せっかくお前達がやってくれたのに…」

「そんな…」


これは私のせいかもしれないなんて言えなかった。


「みんなは…ゼロやアガゼウスやシャルナやレケは?」

「…わしが知っているだけの情報じゃが、ゼロは…死んだ」


私は頭が真っ白になった。

あのゼロが?勇者が?そんな…まさか…嘘だ…

ショックを受けている私の肩にゲンじーさんは手を置いた。


「正確に言えば死んだと同じ、植物人間になっている」

「え?」

「何とか生きてはいるが寝たきりだ、あれではもう…」

「どこにいるの?」

「そういうと思ったぞ、会いに行くのだろう?ここより東のジャッカルの洞窟だ」


ジャッカルの洞窟は過酷な場所にある。

簡単には行けるようなところではない。

その位厳重に隠しているという事か…


「アガゼウスは魔王に捕まった。生死は残念ながらわからない…」


筋肉ばか…


「シャルナは?」

「あの神官は王族の護衛についている。正直いま魔族とまともに戦えるのはあの子だけじゃな」


シャルナは無事な事がわかり私は少しホッした。

そして最後の…


「レケは…」


言葉をつまらせるゲンじーさんの様子から私は胸に手をあて真っ直ぐゲンじーさんを見た。


「ゲンじーさん、私は真実を知らなくてはいけない。お願い教えて」

「マコ…わしはいまから一番酷な事をいう。許せ」


私は覚悟を決めて大きく頷いた。


「レケは魔王になった」


言葉が理解できない。

頭が回らない、どういう意味だろう…ゲンじーさんなに言ってるのだろう?

あのレケが?そんな馬鹿な、そんな事…

違う、そうじゃない、私は覚悟を決めた、そう、ここに戻って来た。

逃げる為じゃない…きっと向き合うために。

無意識に私の目から涙をこぼしていた。

レケが魔王になる、心当たりがある。

私を元の世界に帰す為に心を渡したのだ。


「マコ…」

「ゲンじーさん、ありがとう本当の事を教えてくれて」


私には、やらなければいけない事がある。


その日のうちにゲンじーさんの手引きの元、王族の数少ない軍と合流が出来ることになった。

軍の人達が混乱してはいけないから身元は当分隠しておけとゲンじーさんの助言のもと偽物の身分証明書まで作ってもらい、性別はしっかりと男と明記してある。

私はゲンじーさんにお礼とばかりに長かった黒髪をバッサリと切り渡した。

女の黒髪は筆になったりするので高く取引されるとレケに聞いたことがある。


「なんてことを」

「これは私の覚悟の証、ゲンじーさんまたお願い事しに来るからちゃんと薬の調合機器手入れしててよ」

「わかっとるわ!準備はしておくからな!マコ、いや英雄様頼んだぞ!」


私はガッツポーズをして王族の軍の元に向かった。

王族の軍は水面下で行動をしており、少人数で必要最低限の活動しか出来ない状況らしい。

この軍と行動を共にしているとそのうちシャルナにも合流できるはずとゲンじーさんが言っていたので私は一番下っ端の隊員として紹介状を元に入隊が許された。

潜伏先は主に地下であまりいい生活をしていないようだが、裏で食糧や物資などを流してくれる有志がいるのは有難い。

入隊挨拶の為、軍団長を訊ねると若いが貫禄がある団長とその横に細身だがよく鍛えられた青年がいた。


「今日から入隊しましたロイです。よろしくお願いします。」


このロイという名前はゲンじーさんが適当につけた私の男装名らしい。

まあ覚えやすくていいけど…


「細いな。あまり使えそうにない奴が来たもんだ」

「身元は薬師が保証するそうです。今はひとりでも多くいた方がいいでしょう」

「オランがそういうなら、まあいいだろう。俺は王族軍団長アンドレだ。情報は絶対に外部に漏らすな、戦う時は命がけで戦え以上だ」

「…はい。ありがとうございます」


どこかの筋肉バカと通じるものがある…

しかし、ここは荒波をたてずにシャルナと合流することを優先するべきだ。

私は空気の様に軍に溶け込んで数日経つと、軍団長室にいた青年に声を掛けられた。

彼はどうやら若いが副団長らしく、オレンジ色の髪色が印象的で大きな瞳と私より少し高いだけの身長が少し幼さを感じる。


「ロイ、ちょっといいですか?」

「はい、なんでしょう?」


たしかオランと呼ばれていた副団長に呼び出されてついていくと、そこは練習場だった。


「どれでも好きな武器を持っていい」


これは、戦闘の稽古をつけてくれるということか。

しかし、残念ながら私には戦闘スキルというものは微塵もなく、どの武器を持っても結果は同じなので、一般的な稽古用の剣を手に取った。

オランはすぐ近くに転がっていた棒を片手で構えると、私も両手で剣をもってへっぴり腰で構えた。

次の瞬間、一瞬で間合いを詰められ持っていた剣を弾き飛ばされ首もとに棒が添えられた。

は、早い…細身の身体だから出来る戦い方だ。


「やっぱり、素人だ。そんなのでは戦えない、足手まといだ。」

「す、すみません。頑張って練習します」

「相手を負かすことよりも、まず守る為に戦えなくてはいけない」


…ん?この言葉…


「アガゼウス…」


筋肉バカを思い出した安否を心配して、つい小声で呟いてしまった。

私の声にオランはぴくりと反応してわたしのお腹を蹴り飛ばし、仰向けに倒れた私の上に馬乗りになって腰にぶら下げていた本物の短剣を鞘から引き抜き私の喉に構えた。

その表情は冷酷でいつ私が殺されてもおかしくないといった感じだ。


「貴様、何者だ」

「ごほごほ、ち、ちょっと待って…」


お腹に蹴りをまともにくらって、私は咳き込んだ。


「なぜアガゼウスを知っている」

「それは…」


正直に説明するべきか、それとも…

どう回答しようか悩んでいると廊下が少し騒がしくなってくる。

ひとりの隊員がオランに報告に来た。


「お取り込み中、失礼します!シャルナ様率いる軍が戻られました!」


シャルナ?!

私はこの時を待っていたのだ、シャルナに会わなければ!


「わかった。コイツを牢屋に入れておけ」

「は!」

「え!?」


ちょっと待って、それは本当に困る!

私の上から立ち上がり立ち去ろうとするオランの服を掴み、引き留めた。


「こ、恋人でした!私は彼の恋人だったんです」


私の言葉に目を見開き驚き固まったオランだったが、すぐに疑いの目を私に向けた。


「アガゼウスの好みとはかけ離れている貴様が恋人など、笑えるな」

「本当です!」


嘘だけど!!

あの筋肉バカの恋人な訳ないけど!!

今は我慢だ…ん?てか、私いま、男装してましたよね?

は…しまった…致命的なミスをしてしまった…

私がどんどんと青ざめていくと、オランは短剣を再び私に向けた。


「証拠はなんだ、回答によってはこの場で処刑する」


ひーーーなんて、恐ろしい青年なんだ…

男だという事を咎められない事を不思議に思いながら、恋人っぽいエピソードを思い出そうとするが、筋肉の話しか思い出せない。

あの筋肉バカのばかーーー


「あ、そういえば」

「なんだ、言え」

「右の二の腕の祈タトゥー、私が入れました」


オランは再び驚いて構えていた短剣をその場に落とした。

危うく私の足に刺さる所だ。


「副団長?」

「…さ、先に行ってろ後から行く。」

「は、コイツは?」

「こ、この人は…いい、先に行け」

「わかりました。」


突然副団長の態度が変わり、不思議に思いながら隊員は去って行った。

オランは膝を床に着けて、私と視線を合わせる、いまにも泣きそうな目をして、震えた手で私の左頬に右手を添えた。


「貴方が…大変失礼をしました」


え?まさか恋人を信じてくれた?


「あの、副団長?」

「わたしは命がけてあなたをお守りすると約束をしました。オランと呼んで下さい」


オランは膝をつき、騎士の主君への誓いのように頭を下げた。

私はそこまでしなくてもと思って慌てて正座をして、頭を下げる。


「お願いです!頭を上げて下さい!!副団長がそんな事をしては困ります」

「しかし…」

「私はあまり目立つわけにはいかないのです!ほんと、お願い」


土下座に近い形でお願いする私にオランは困った表情を浮かべて、騎士の誓いから立ち上がる。


「これなら、いいですか?」

「は、はい!」


私は正座をしたまま頭をあげると、オランは私に手を差し出したので、私はそれを掴み立ち上がった。


「副団長、もうひとつお願いがついでがあります。」

「なんですか?」

「シャルナ様に逢わせてくれませんか?」

「…わかりました。すぐは厳しいと思いますが、深夜なら、部屋に迎えに行きましょうか?」

「いや、私相部屋なので…」

「…それはいけませんね。ちょっと手荒ですが…」


そう言うとオランはわたしの手をとり稽古場の入り口に向かうとわざと出口で足を止めて、壁に私を押し付けた両腕で包囲した。

そして、グッと顔を近づけて唇が降れる寸前で数秒止めた。

目の前にオランの顔があり、息遣いやオレンジ色の髪が私の前髪に触れる。

少しして、オランは離れてわざと周りに聞こえるように


「今晩、部屋で待ってます」


そう言ってその場を去って行った。

いくつかの視線がグサグサとささり、冷やかしの言葉が聞こえてくる。

私、あまり目立っちゃダメって言わなかったっけ?

最後まで読んで頂きありがとうございます!

今年中に全部アップ出来るかなー(*^_^*)

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