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「目標達成!着ぐるみじゃないイケメン旦那様」

いつまでも逃げていても仕方がない。

キース理事長にアレク様にシルヴィ様とレイトン様とミラ様からまで求婚されてしまったことは事実だ。人間イケメンになった彼らにときめいてしまったことも認めよう。これぞ本物の逆ハー!とちょっぴり浮かれたことも内緒だけど認めよう。


でも!!!


わたしの心はカミュ先生一筋!



好きなのは最初から最後までカミュ先生だということも事実なのよ!!



雲の上の方々から続々届く求婚にお父様は目を回し、どなたをとっても角が立つ、もうこれは他国へ逃げるか自害するしかないんじゃないかと滂沱の涙を流した挙句にわたしに任せると言った。


誰からの求婚を受けるか、わたしが自分で決めていいと、お墨付きをもらったのだ。


それを話すと意地悪女王なルルは「ルドフォン家はあんたと心中するつもりなのね」なんて意地悪を言っていたけれど。

亡命もなし、もちろん自害もなし。


わたし、カミュ先生と幸せになります!!!






善は急げ。

直接求婚の返事をするためにカミュ先生の元を訪れる。わたしは卒業したけれど保健医のカミュ先生は引き続き学院にいる。在校生徒は長期休み中ということで久しぶりに足を踏み入れた学院はシンと静まり返っていた。ついこの間までここで、制服を着て通っていたというのに、なんだかもう懐かしい気分になって感傷に浸ってしまう。


ここで、カミュ先生と出逢った…。


なんて乙女チックなことを考えてしまうわたしは、しっかり恋する少女だ。

カミュ先生に会うために通った保健室への道のりは、近づくにつれ胸を高鳴らせる。


校舎端にある、保健室。その扉の前で立ち止まり、そっと深呼吸。

そして…―――


コンコン


遠慮がちにしたノックから少しの間があって


「どうぞ」


中から耳に馴染んだ、柔らかいカミュ先生の声が返ってきた。

心臓の音がやけに大きく感じる。


「し…失礼、します……」


なんとか搾り出した声は、ドクドクうるさく脈打つ心臓の音にかき消されるほど小さく聞こえた。

ゆっくり開けた扉、その向こうに――


机に向かいこちらに背を向けるカミュ先生の姿を見つけて……


「せん、せい…」


ああ、ダメだ。

もう泣きそうになっている。ただ会えただけなのに。

いつの間にかわたしは、こんなにもカミュ先生が好きになっていたんだ…。


会いたかった。

好きです。

カミュ先生が、大好き……


滲みそうになる視界の向こう、

キイッと椅子が軋む音と共に


「リア」


座ったままのカミュ先生が


振り返る…―――


「せん、せい………っ」


わたしは扉の前から、

一歩も動くことができない。


カミュ先生は少し笑って椅子から立ち上がると

ゆっくりとわたしの方へ

歩いてくる。


「……泣いているの?」


わたしを見下ろすカミュ先生は微笑んで、それから。

その長い指でわたしの目元をぬぐうと


少し困ったように尋ねる。


「君を泣かせたのは誰?」


その問いに、わたしは無言で首をふる。


「隠さないで。リアのことはわたしが守るから。」


「……怒って、ない…?」


また、

カミュ先生は微笑む。


「どうして?」


「だって…」


わたしとカミュ先生の間は、ふれそうなほどに、近い。

けれどまだ、わたしは手が伸ばせずにいた。


「リア」


頬に添えられた手。

そっと屈んだカミュ先生が

わたしの耳元で囁く。


「リア」


全身の熱が。神経が。

耳に集中する。


「わたしが、好き?」


一拍の後、わたしは大きく何度も何度も、首を縦に振った。


「っっ好き!…です……っ」


「わたしが何者でも?」


また何度も、首を振る。


「リアは……わたしを選んでくれたと…思ってもいい?」


「…っっ先生……!!!」


堪えきれなくなって

カミュ先生に抱きついた。かすかな消毒液の匂い。保健室の、カミュ先生の匂い。

安心する暖かさとどうしようもなく高鳴る胸。

やっぱり最初から最後まで、カミュ先生だけが好きで好きで…ずっと大好きだった。


ぎゅっと…


カミュ先生の両腕が背中に回ったのを感じて

幸福に瞳を閉じる。


「やっと掴まえた。わたしの、リア」


「カミュ先生…」


「もう誰にも渡さないからね。覚悟して、リア…」


「はい…」


優しく、包み込むような抱擁から

力強い抱擁に変わって

わたし達の身体はさらに密着する。


抱きしめられた腕からふっと拘束が緩んで

代わりに額に暖かな感触が降ってきた。それがカミュ先生の唇だとわかって

わたしも力を抜いた。

額から、今度は耳たぶ。頬。そして…――


「…っ………ふ…っ」



初めての、口づけ―――



無意識に閉じていた瞳を開ければ

愛おし気に細められたカミュ先生の瞳と視線がぶつかった。


「リア」


また耳元で囁かれて


「わたしの、リア…」


再び唇へ……


ふれるだけのそれから、


「あ…っ………んん…っ」


だんだんと長く、深いものへ、変わっていく――


「せんっ……せいっ」


「もう“先生”じゃないよ」


口づけと口づけのわずかな合間に空気を求めようとする吐息が

甘さをはらんでいるのが自分でもわかって、羞恥に熱くなる。

違う。

熱くなっているのは、恥ずかしさからだけではなくて――


「この辺でやめておかないと、止まらなくなりそうだ。」


溜息と共に吐かれた呟きはあまりにも色っぽくて

身体が震えた。

そんなわたしに気づいたのか、


頭上で


カミュ先生が小さく笑った気配がした。


「ご両親へのご挨拶と、このままリアをわたしのものにするのと…どっちがいい?」


びっくりして。

見上げたカミュ先生の表情は本気だった。初めて見る、雄の…欲を孕んだ“男の人”の顔だった――。

室内に差し込む夕日を背後に背負ったカミュ先生が、いつもより大きく感じた。


「やっぱり後者かな。」


え、と。

聞き返す間もないまま。


「屋敷に行こうか。」


抱き上げられて、慌ててカミュ先生の首に両手を回してしがみついた。

恥ずかしさと期待と、少しの恐怖。破裂してしまうんじゃないかと思うほどドキドキする胸の音にいっぱいいっぱいになっていたわたしは気づかなかった。


わたしを抱きかかえたまま歩き出したカミュ先生の姿が



似て異なる別の顔になった一瞬があったことを……―――――。

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