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「新着ぐるみ登場とくれば次は喜劇の予感」

「エイレーンに聞いてた通りのレディだ。これは手厳しい!」


隣国の、王太子の着ぐるみ様は…着ぐるみの王太子様は、そう言うと楽しそうに破顔した。











「なんで続いてるのこれ…」


「あれっきりのハズだったのに……」


夜会での隣国の着ぐるみ王太子様との出逢いイベントの後、わたし達は半強制的に別室に移動・軟禁させられ今に至っている。冷静になって考えてみればわたしとルルの対応はとんでもない不敬であって、罪に問われてもおかしくはなかった。けれど、フランクな性格らしい着ぐるみ様…王太子様のおかげでセーフ。危なかった。つい、本音が。


「エイレーンとは文通友達でね。君達のことは聞いていたんだよ。素敵な友人ができたと嬉しそうに書いてあった。」


どうやら元凶はエイレーン様らしい。

着ぐるみ時代のアレク様を薦めてきたのもエイレーン様じゃなかったっけ?


「ユーリアくんは甥の妻、わたしにとっても可愛い人なのでご遠慮いただけるかな?」


そう、隠すようにわたしの前に出てくれたキース様。学院を卒業してすぐ、「もう“理事長”じゃないよ。“キース”って呼んでごらん?」って言われてから呼び方を改めた。カミュ先生は…ダメ。恥ずかしくっていまだに呼べないっ。

庇ってくれるキース様にときめいちゃうけど、着ぐるみ様の目線はルルに向かってない?セーフ!こっちもセーフだった!


「そうでしたか。しかし彼女は怖がりなんだ、失礼だが大叔父上の言う通り、遠慮していただけないだろうか。」


「大丈夫か、ユーリア。怖くなかったか?」


「ユーリア嬢、平気ですか?」


「先輩はルーカス殿下のような人が苦手なんで、申し訳ありませんが離れていただけます?」


アレク様にレイトン様、シルヴィ様にミラ様。

あの後すぐに集まってきて結局最後まで一緒に夜会を終えた。おかげですごく目立った。

隣国の着ぐるみ様までいたし、エイレーン様と皇太子様もご一緒だったし。ものすごく目立った集団だった。

美男美女の集まりの中に一人、平凡なわたしが…でも悪くなかった。幸せなひと時だった。右を見てもイケメン、左を見てもイケメン、前を見てもイケメン、後ろを見ても…着ぐるみが一体くらい紛れてたって平気。怖くない。イケメンパワーで怖くなかった!

アイドルグループに囲まれてもう…昇天しそうデシタ…。

既婚者だから嫉妬されることもあまりないしね!


「ユーリア様、ごめんなさいね。わたくし…嬉しくってつい…色々書いてしまいましたの。」


色々?

喜んでくださるのはわたしも嬉しいけど色々って何かな?色々気になるよ、エイレーン様。

今夜の装いはまた美しいですね!エイレーン様、皇太子様に愛されてますます美貌に磨きがかかったんじゃないですか?美少女から美女へ花開く寸前って感じですね!濃紺の、裾に向かって淡いグラデーションのかかったシンプルなドレスはマーメイド型でエイレーン様によく似合ってます。ゴールドのブレスレットはそれ、皇太子様の色ですね?


「皆、待たせてすまない。話を始めようか。」


そして遅れてやってきた皇太子殿下が部屋に入ってきたことによってわたし達が別室に集められた理由が明かされることになった。ちなみに人間になった皇太子様もイケメンです!


「本当はカミュ叔父上にもお越しいただきたかったのだが…」


集められたメンバーはわたしとルル、エイレーン様。皇太子殿下とアレク殿下、シルヴィ様にレイトン様とミラ様、キース様。そして、隣国の着ぐるみ王太子様。


「申し訳ありません。夫も直前まで参加するつもりだったのですが」


「腹痛なら仕方ないよねぇ」


「ああ、腹痛ならどうしようもない。ユーリア、気にしなくていい。」


「え?いえ、ありがとうございます…でもどうして……」


わたし、カミュ先生が腹痛で来れないって二人に言ったっけ?なんでキース様とアレク殿下が知ってるの?


「以前わたし達の心を気遣ってくれたお礼に、叔父上には腹痛によく効く薬を届けておこう。ユーリア、心配するな。」


「ありがとうございます…」


ルルの方を伺い見れば、着ぐるみ様と見つめ合って?いた。よかった、やっぱりセーフ!あ、ルルがこっち見た。睨んでる。どうしてバレたんだろう。


「殿下方の叔父上といえば医師としても有名なあのカミュ皇弟殿下だろうか?残念だ、ぜひお会いしてみたかったのだが。」


着ぐるみ様の目線がこっちに移動する。

コッチミナイデ。

ルルってば口パクでざまあみろってひどい!


「叔父上にお会いする機会ならまたすぐあるだろう。それより、」


「失礼。わたしから話をしても?」


着ぐるみ様が皇太子殿下に目線で問い、頷いたのを確認して話し始めたことには――




「魔王が復活する兆しがある」




空気が、凍った。



「正確には、魔王が人間界に出てこようとしている気配があるのだ。理由は不明だ。調べたところによると、すでに魔族が定期的にこちらに現れているようだ。しかし人間に危害を加える様子はなく、姿を隠して行動しているのが謎だが…魔王がこちらに来る準備をしているのかもしれない。」


え、なにこの展開。


「魔族が…すでに人間界に?!」


「魔王が……まさか…」


いやいやいやいや!

魔族とかそんな設定あったっけ?なかったよね?!ちょっと唐突すぎない?!展開に無理アルヨ!!


「君達に集まってもらったのは、魔族が最初に現れた場所が―――…君達が卒業した学院だったからだ。」



―――――あ。



「何か知っていることはないだろうか?同じ学院にいて、思い当たることはなかったか。誰か…行方不明になった生徒や、人格が変わった人間はいなかったか。」


………マズイ。

身に覚えがあるようなないような!!ないと思いたい覚えがあるような…!!


気づかれないよう、こっそりルルを見る。ルルもこっちを見ていた。

“あれ”?もしかしなくても“あれ”のことなの?

いやでも、“あれ”は確か悪魔さんだし…っ


「気をつけてほしい。魔王は、魔族の長。どの魔族より力も魔力も……そして美しさも、桁違いだ。魅入られれば願いを叶えずとも魂をもっていかれる。魔族の誘惑に勝つには、強い意志が必要だが、わたし達人間の容姿など魔王とは比べものにならない。」



その着ぐるみ何メートルあるの??!!

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