「着ぐるみ界の女王」
「ねぇルル…」
いよいよ卒業を間近に控えた冬。
わたしは寮のルルの部屋でおそるおそる、自分の疑念を口にした。
「わたしの勘違いだったら恥ずかしいんだけど……自意識過剰でものすごく恥なんだけど…」
もしかしてもしかしてとは思っていた。
けっこう前から疑ってはいた。
そういうものは積極的に受けとめていきたい派のわたしだから気づいたかもしれない疑惑。
だけど万が一間違っていたら、わたしの思いすごしならめちゃくちゃ恥ずかしいやつ。
わたしはごくりと唾を飲み込むと
目の前に座るルルに真剣に問いかけた。
「もしかしてわたし………」
ああ、でも!
だとしても素直に喜べない不思議!
ここが普通の世界なら絶対にわたし、狂喜乱舞して躍り狂っていたと確信できるのに……!
「何よ」
ルルは相変わらず冷静で冷たい。
安定のツンデレぶりだ。
だからこそわたしはルルに問いたい。
「わたし……もしかして………めちゃくちゃモテモテ…??!!っ痛い!痛い痛い痛い!!」
ルルに思いっきり、腕をつねられた。
着ぐるみルルの力、すごい強かった真面目に痛かった!
「いやだってルル!カミュ先生とキース先生だけじゃなくてアレク様達もわたしに気があるっぽいのよ気のせいじゃなければ!」
「だとしてもムカつくのよあんたの言い方。」
「ひどい…ルルだって逆ハーしてたくせに。」
わたしはルルにつねられた腕をさすりながら涙目で睨む。
けれどルルはちっとも悪びれない。
ルルは肘とつくと鼻で笑う。
「じゃああんたのそれはわたしのお下がりね。着ぐるみの逆ハー継承おめでとう。」
わたしはムッとしてさらに睨んだ。
「そんな言い方ないと思う。アレク様達だって人間なのよ。」
例え外見が着ぐるみであろうとも。
中身は優しい人間なのだ。
わたしとルルにだけ着ぐるみに見えるというだけで、身体的にも全て、普通の人間と同じことはもうわかっている。
ならば、わたしとルルの視覚がおかしいだけという可能性もある。
「そんなこと知ってるわよ。あんた時々素で忘れてるみたいだけどわたしも着ぐるみなのよ?」
視線を逸らす。
本気でよく忘れてることがある。
バレバレだったんだね…。
でも着ぐるみだろうと人間だろうとルルはルルっていうか…と言おうとしてルルの顔を見て一瞬で言葉をひっこめた。これ言ったら怒られるやつっぽい。
「まあわたしが望んだ結果でもあるからいいんだけどね…」
「ルル…?」
言葉とは裏腹に、
ルルはまたいやぁな笑い方をしてわたしを見ていた。
何かある何かある何かある……!
ルルがそういう笑い方してる時は何かある時だ…!
ルルはふっと笑うと言った。
「ごめん、ユーリア。モテモテとか逆ハーとか言うんならそれわたしの足元にも及ばないから。わたし今あんた以上にモテモテだから。ちゃんと人間イケメンの逆ハーもってるから!」
なっ?!
「非道ルル!!いつの間に?!誰と誰?!まさかマーシャル様とかショーン様とかじゃないわよね?!」
そんなことになってたら泣くから!
わたしマジ泣きするから!
でもマーシャル様はエイレーン様が好きだったはずだしショーン様には可愛らしい幼馴染の女の子がいたはず…っっ
「さあ?教えてあげない~」
「ルル!!」
「いいじゃない。これは本当にあんたには関係ないんだから。わたしに片思いしてる男の情報がそんなに知りたい?」
「っぐ……っっ」
悔しい!!!
そりゃ元キャバ嬢のテクなんてわたしにはないけれど…!
美少女着ぐるみのルルにはかなわないけれど……!
「でもあんたのそれは本当にモテてると言えるのかしらね?」
「…どういう意味?」
「わたしから見るとあんたの場合、」
「わたしの場合…?」
またルルがにやりと嫌な笑顔になって。
「アレク達は珍獣ハンターやってるだけよ。」
「なにそれ!!全く意味わからないよルル!!!」
わたしが珍獣だって意味なの?!
失礼にもほどがある!!
「要はモテてるってのはあんたの勘違いってこと。」
「…っまたわたし中2病発症してた?!」
よ、よかったルルに聞いてみて!
うっかり勘違いしたまま調子にのるところだった…!とんでもなく恥ずかしい奴になるところだった!!
ルルにならいいけど他の人に知られたらものすごく恥ずかしかった!
「ほら、時々いるじゃない。現実は全然そんなことないのに何故か自分はモテるんだって自信満々な奴。あれね。」
「一番嫌なパターン!」
そっちか!!
まさか自分がそうなりかけてたとは!
「……あんたは面白いからそのままでいいわよ。」
「嫌だよ!!それは面白いんじゃなくて痛いだけじゃない!」
「そうだけどあんたの場合はそのままの方がいいのよ。気づかない方が。」
「もう気づいちゃったよ!勘違いしてたとかものすごいわたし恥ずかしいんだけど今!!」
「…そうね、いいんじゃない。勘違いってことで。」
最後のルルの呟きは小さすぎて
この時のわたしには全く聞こえていなかった。
そんなルルの姿が一回り小さくなっていたことにも、
毎日傍にいるわたしは
気がついていなかった。




