「銀着ぐるみの失敗」
「スーツと軍服が届いたので見ていただけませんか」、と。
シルヴィ様からお誘いがあった。
スーツも軍服も大好物のわたしは興味をひかれて了承して放課後談話室でシルヴィ様とお会いすることにした。
残念なことにシルヴィ様は着ぐるみなので興奮はできそうにはなかったが、アニメキャラとして見れば充分シルヴィ様はイケメンなので、それがスーツや軍服を着てくれると思うと楽しみではある。
授業が終わり、寮に戻って制服を着替えてから男子寮と女子寮の間にある談話室へ向かう。
「ユーリア嬢!」
シルヴィ様は立ち上がって迎えてくださったけれどそれより。
わたしは入室するなり絶句した。
「シルヴィ様…後ろの大量の荷物は…?」
まさか全部スーツと軍服じゃないですよね?!ここでファッションショーでも始める気ですか?!え、わたしそれに付き合わないといけないの?!
談話室の3分の2がスーツと軍服で占拠されていて思わず仰け反り一歩後退した。
「あ、いや。これは…違うんです。どれにしようか直前まで迷ってて。持ってきてしまっただけで。」
恥ずかしそうにそう言ったシルヴィ様をよく見ればすでにスーツを着ていた。けれどその、色は…
「青、ですか……」
青色だった。
「え、ええ。スーツも迷いまして。自分の瞳の色と同じ色にしてみました。どうですか?」
「……似合ってますわ…」
いや、まあ。似合ってるのは嘘じゃない。アニメキャラ顔の着ぐるみなので、青のスーツも全然ありだと思う。ただ前世の記憶があるわたしには、某漫才師が浮かんでしまうだけで……
「やはり白の方がよかったですかね」
「白も作ってるんですか……?」
「ええ。ユーリア嬢が白がいいと言っていたので。」
言った気はする。
でも確か軍服の話だったはず。
それもリアルにとまでは考えてなかった!
「スーツの白は…ちょっと……」
ホストとかやっぱり某芸人とかが浮かんでしまうから…どうかと……
「そうですか…。」
「い、いえ。あくまでわたくしだけの意見ですので!気に入っていらっしゃるのならかまわず着るべきだと思いますわ!」
おしゃれに目覚めてしまったらしいシルヴィ様、こんなに大量に仕立てて毎日着るつもりなのだろうか。
ハンガーポールのようなものにずらっと横並びに大量のスーツ。色とりどりのスーツが…
色…とりどり……
わたしがガン見していると
「どの色がお好きですか?」
と言うので、近づいて手にとりながら観察した。
今シルヴィ様が着ているスーツは青、ハンガーにかけてあるスーツ群の中にはさっき言っていた白がある。その他の色は…
赤、金、銀、水色、紫、茶、ピンク、オレンジ、黄…―――
などの色がグラデーションで取り揃えられている。
頬をひくつかせるわたしに
シルヴィ様が照れたように聞いてくる。
「同じ色でも濃淡によって違うのですよ。」
そういう問題じゃない。
「あの…」
「はい。ユーリア嬢の好みはどの色ですか?」
「もっと普通の色は…なかったのでしょうか………?」
黒とかグレーとか!せめて紺色とか!
なんでこんなカラフルなの!!
シルヴィ様は首をかしげた。
「普通の色、ですか…?……ああ!もしかして黒系統ですか?いえ、それは地味かと思いまして。」
スーツは地味でいいんだよ!
派手にしてどうすんだよ!!漫才師じゃあるまいし!
「ああ、で、でもですねっ。その…ちゃ、茶系は、仕立てたのですよ。偶然ですね!ユーリア嬢の髪の色と同じです!」
茶色のスーツもわたし的には微妙!
わたしの髪色というのなら瞳の色にすれば黒でよかったのに!なんで茶色を選ぶ?!
ああそうか。
これもこの世界のおかしさなのか。派手な色が尊ばれるこの世界の。黒や茶は地味と好まれない傾向にあるのか。
残念。
非常に残念である。
思ってたのと違う。
「シルヴィ様、わたくしの好みと聞かれるのなら、わたくしは地味な方が好きですわ。スーツなら黒かグレーが好みです。」
溜息をついてからはっきりと告げたわたしの言葉に、シルヴィ様はあきらかにショックを受けた顔になった。
「いえ、あくまでわたくしの好みですので。シルヴィ様がお好きなのであれば止めませんわ。ですが――」
「ですが?」
「ええ、シルヴィ様の髪色をはえさせるには、お洋服は地味な方がいいのではないかと。申し訳ありません。勝手な意見ですが。」
ただでさえシルヴィ様は銀の髪に青の瞳をしている。洋服まで派手にしてしまうより、そこは抑えた方が髪色がより際立って目立ち綺麗に見えるのではないかと思うのだ。
「!!参考になります…」
「いいえ、わたくし個人の意見にすぎませんが。」
「で、ではスーツも黒の方がいいと?」
「そうですわね。」
もともと貴族の普段着は派手な色が多い。刺繍やフリルまであったりと着る人を選ぶものだ。だからこそシルヴィ様も派手な色を仕立てたのだろうけれど前世の記憶が影響しているのだろう。職業服としてこの世界でも着られているスーツの方がほっとするし素敵に見える。キース理事長を始めとする先生方も学院ではスーツを着ている。
「あくまでわたくし個人の意見ですのでお気を落とさないでくださいシルヴィ様…!」
慌ててフォローしようとしたけれど時すでに遅し。
シルヴィ様はすっかり項垂れてしまっている。
「そ、そういえばシルヴィ様!軍服も仕立てたとおっしゃってましたよね?ぜ、ぜひ拝見したいですわ!」
なんだか落ち込むシルヴィ様を見ていると可哀想になってくる。
項垂れる着ぐるみってシュールだ。背中から哀愁が漂っているように見える。
不思議だ。ものすごく励ましたくなってくる。
「軍服は何色にしたのですか?」
わたしもシルヴィ様の傍にしゃがみこみ、そっとその背中に手を当て覗き込んだ。
結局レイトン様には相談したのだろうか?
項垂れたままのシルヴィ様から小さな返事が返ってくる。
「………白と……」
「白と?」
確認しなくても答えはわかる気がしてきた。
シルヴィ様の声が呻くようなそれに変わる。
「……仕立てすぎたようです…」
なるほど。
軍服も全色揃えたのですね。
「はりきりすぎました………」
うん。
「すみません…やっと今、気づいたというか……どうかしてました…」
「……………ふ、」
「…ユーリア嬢?」
「ふ…ふふ……すみません………っあは、あははははは!」
急にこみあげてきた笑いに耐えられなくなって
わたしは声をあげて笑い出した。
もう、無理。
おかしすぎる!
「は、はりきりすぎた、って…はりきりすぎでしょう!なんで全色?!シルヴィ様面白いっおかしすぎですよ!」
「ユーリア嬢…」
項垂れていたシルヴィ様は笑い転げるわたしを見て最初は呆然としていたけれど。
少しするとシルヴィ様も笑顔になって
わたし達は一緒に笑ったのだった。




