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最終話「さらば愛しき着ぐるみ世界よ」

嫌な予感がした。

ものすごく嫌な予感が。


「……………っルル!待ちなさい!!!」


「リア?!」


わたしが駆け出すと同時に身を翻し、笑いながら駆けていくルルを追いかけた。カミュ先生の驚いた声にもかまわず、わたしはルルを捕まえるべく中庭へ飛び込んでひたすら走った。


「…っ待ち、なさいって………言ってるでしょうがぁぁぁあああルル!!!」


淑女としてだの周りの目がだのかまっていられない。ルルをとっ捕まえて笑顔の意味を問いたださないとものすごくヤバい気がした。足元からひしひしと恐怖が忍び寄ってきているような、じわじわと何かに侵食されてしまうような危機感が。わたしの本能が警鐘を鳴らしている。


「ルル!!!」


なんで笑ってたの?!

わたしがカミュ先生と話してるのがルルにとって嬉しいことだっていうの?!


なんでよ!!!

カミュ先生は普通の人間なのに!!


ルルもカミュ先生に目をつけて狙おうとしているのならまだいい。まだその方が怖くない気がするのは何故なのか。ルルの笑顔の意味がそんなものではない気がするのはどうして。

短すぎる付き合いだけどルルは友達の恋人を奪うような子ではないと確信できるからなのか。


ルルは走る。わたしは追いかける。わたし達は中庭から校舎内を駆けぬける。


「ユーリア?どうした?追いかけっこか?」


すれ違ったレイトン様が不思議そうに聞いてくるのも無視をして。


「相変わらず先輩足遅いねー。それで走ってるつもり?」


「うるさい!!ルルは?!ルル見なかった?!」


「ルル…?なんで先輩がルルと?」


「いいから答えて!!!」


笑うミラ様をぜいぜいと肩で息をしたまま睨みつける。

けれど答えを待つ間も惜しくてまた走りだした。


「ルルーーー!!!出てきなさい!!…そこかぁ!!!」


視界の端にピンクが見えた気がして階段を駆け上がる。

2階から顔だけ覗かせたルルがわたしを見てにんまりと笑う。


「ルル!!!」


「あんたさ~、乙女ゲーム、詳しくないでしょ。」


それがどうしたっていうのよ!

体力も限界だったわたしはしゃべる体力もなくて心の中だけで答えてルルを睨みつけた。

確かに記憶は曖昧だし、そんなゲームだったな程度にしか覚えていない。でもそれがどうしたっていうんだ。大体は合ってるはずだしどれも似たようなものなんじゃないの?!


「乙女ゲームには必須の()()の存在を忘れてるんじゃない~?」


あれ?

存在?


「ってルル!!待ちなさい!その話詳しく……っっ!」


ルルが再び走り出した。


「こんの…っ疑惑だけ残して逃げるのはやめろぉぉぉぉぉぉおおおおお!!!」


「あっはっははは~嫌よぉ。わたし、あんたの邪魔する気はないもの~」


「だから!その意味を言えっていってるでしょう!!」


ルルを追いかけて駆け上がった階段、そこにいたのはルルではなくアレク様で。


「びっくりした。ユーリアか。わたしに会いにきたのか?」


「違う!!!…あ、でも先日はお見舞いをありがとうございました!では!」


「ユーリア?!」


こんなことならさっきすれ違ったレイトン様にルルを捕まえてくれるように頼めばよかったと歯軋りしながらまた走る。あの時ならルルもすぐ前を走ってたのに!!


「キース理事長!!ルル見ませんでした?!」


「ルル?誰だい?」


出くわしたキース先生に尋ねるけれど成果はなく。


「鬼ごっこかい?楽しそうだね。わたしも混ぜてもらおうかな?―――捕まえたら……何をしてもいい?」


「…ルル!!いた!また笑ってる!だから何でよ!!!」


「ユーリアくん?!」


キース先生の向こう側、廊下の一番端で笑いながらルルが踊っている。

くるくるくるくる、わたしを馬鹿にしてるのかそれはもう楽し気にプリマドンナの如く踊ってる。何かの歌を歌うふりをした後は、持っていた風のマイクを置くジェスチャーをする。そして叫んだ。


「ありがとう!!わたし、普通の女の子に戻ります!」


アイドルの引退コンサートか!!











この世界は不思議に溢れている。


普通の人間がいたり着ぐるみがいたり、それをおかしいと思わない常識がある。

皇族がいて貴族がいて庶民がいて身分階級があるのに垣根は低い。

貴族なのに学院があって普段はドレスなのに制服がある。身分社会なのに恋愛結婚も多い。


ルルの言う通りにここがゲームを元にした世界ならば納得できる不思議の数々だけど

本当にシナリオを逸脱することで着ぐるみが人間の姿に戻れるのかはわからない。そのうち魔法とか魔物とかファンタジーなものまで登場してきそうで怖いくらいに未来は未知数だ。


着ぐるみが解ければ全ては普通に戻り、不思議がなくなるのだろうか。

その場合この世界の美はどうなるのだろうか。

着ぐるみでなくなった彼らは、一体どんな姿で、またその姿はどう評されることになるのか。


全てはまだこれからで。

ただひとつ、わかっていることは


この不思議な世界に生まれ変わってしまったわたし達の戦いは始まったばかりだということ。


この世界を生きるわたし達の人生が、この先どうなっていくのかはわたし達次第であるということ。


ルルは人間の姿になるために、わたしは着ぐるみを産まないために。

押し付けあって大騒ぎしながらも協力して全力で戦っていく。


「ヒントあげようか~。“皇弟”よ。」


「だから誰が?!カミュ先生じゃないわよね!?そうだとしても先生は人間なんでしょう!?それともキース理事長?!」


「知らない~」


「ルル!!!」


…多分、きっと。


「記憶を取り戻したのもキーポイントだと思うのよね。ヒロインだったわたしがこうなったんだから絶対にズレは生じてるはずだもの。」


「身体に変化は?」


「バストがFからEになった?」


「………喧嘩売ってる?」


「いやこれも人間化への一歩かもしれないじゃない!」


「なんで胸からだよ!!」


だからそう遠くない未来、わたし達はできるはずだ。


着ぐるみからの、




完全解放宣言を―――――!






終わり

ご愛読ありがとうございました。



今後は番外編などを公開予定です。

引き続き、着ぐるみ迷宮をお楽しみください(*^_^*)

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