第3話「眼鏡の銀着ぐるみの恋愛相談」
「ではさっそくですが…」
シルヴィ様が「かけませんか?」と椅子を勧めてきたので大人しく座った。
「…遠くありませんか?」
「そうでしょうか?」
わたしが選んだ椅子はシルヴィ様が座る椅子から五席ほど離れた机の椅子。窓際の椅子に座ったシルヴィ様からはほどよい距離感だ。
シルヴィ様が溜息をついた。
「まあ聞こえるならいいんですがね…」
「充分聴こえますからご心配なさらず。」
むしろまだ近いくらいですから!
1.5倍大きなあなたの圧に逃げ出すのを我慢するのにはこのくらいが限界です!
シルヴィ様は複雑そうなお顔で見ていたけれどわたしは移動する気はさらさらなかった。
「……話を始めましょうか」
「どうぞ」
諦めたようだ。
「ルルのことなのですが」
「お待ちくださいませ」
話を遮られたことが不快だったのかシルヴィ様は一瞬だけ眉をひそめた。
…その作り物にしか見えない眉毛、動くんですね…。
「その前にまずマーシャル様のことですわ。ご紹介いただけるんでしょう?」
先にこっちの詳しい話を詰めていかなきゃ!
「…しっかりしてますね」
「当然ですわ」
じゃなきゃなんでこんな怖い思いしてまでここに留まっているかわからないじゃない!
できるならすぐに逃げ出したいくらいなんだから!
見なくていいけどあなたに掴まれた腕!まだ鳥肌たってるんだからね!?
「……あなた、わたしがあなたをとって食うとでも思ってませんか?さっきから…」
「なにかおっしゃいまして?」
「いえ…。マーシャルのことでしたね。あなたさえ真摯に私の相談にのってくだされば明日にでも紹介しますよ。素直で優しい素晴らしい令嬢だとね。」
「ありがとうございます!!」
「ではいいですか?わたしの話に戻っても。」
「どうぞ!」
マーシャル様はひとつ上の学年で来年には卒業してしまわれる。最終学年の彼にまだ婚約者がいないことは奇跡なのだ。とても大人びた顔立ちイケメンのマーシャル様。フリュエ侯爵家の嫡男ということも考えれば卒業したらすぐに誰かと婚約してしまうかもしれない。会う機会もなくなるし…急がないと!
「ルルのことなのですが…」
「シルヴィ様達が侍ってらっしゃる子爵令嬢ですわね」
「侍って…」
わたしは先を促すためにわざと首をかしげてみせた。
心の声としては「自覚ないの?」である。
「…ルル嬢は、あなたからはどう見えますか?」
「容姿は大変お可愛らしい方だと聞いておりますわ。」
アニメとしては可愛いキャラとして登場しそうだよね?
「中身は違うと?」
シルヴィ様に睨まれる。
「…帰ってもよろしいかしら?」
これ以上怖がらせるなら問答無用で帰るけど?!
その姿で凄まれたらほらせっかくおさまってきた鳥肌がまた!!!
「……失礼しました。」
「わたくしはルル嬢とお話したことはございませんので中身までは存じ上げません。」
「…わたしは、ルルに求愛しているのです」
「存じ上げておりますわ」
全校生徒が知ってるんじゃない?
「まあ…隠すことはしていませんからね。」
「ええ。堂々としていらっしゃいますからね。シルヴィ様達は目立ちますし。」
「しかしルルは……彼女はわたしの気持ちは嬉しいと。自分もわたしのことが好きだけど今は選べないと言うのです」
「まあ」
ルル嬢、自分で望んでハーレム作ってたのか。やるな。
「シルヴィ様は理由を聞かなかったのですか?」
「もちろん聞きました。しかし…どうやらルルはアレク殿下にも…その…」
「シルヴィ様だけでなく皆様に愛を囁かれていますのね」
それも全校生徒知ってると思いますけど。
「…だからルルは、選べないと。誰かを選んでしまうとわたし達の絆が壊れてしまうことをルルは心配しているのです。ルルは誰よりも優しいから……」
優しい?黒いの間違いじゃなく?
「けれどわたしは選んでほしい。ルルに、わたしだけを選びとってほしいのです。殿下達との友情が壊れるのは苦しいけれど、彼らもいずれわかってくれるはずです。」
シルヴィ様は熱く語った。
時には拳をふりあげて、およそクールとは言いがたい熱量で情熱的にルル嬢への愛を語る。
「わたしはもう、これ以上…っルルに他の男がふれるのを見たくない……っっ」
どう説得すればルルはわたしの気持ちに応えて選んでくれるのでしょうか、と。
シルヴィ様は最後に締めくくった。
「シルヴィ様……本音を申し上げても、よろしいでしょうか?」
ゆるゆると、演説の如き語りの最後に下に向けていた視線がわたしへ戻ってくる。
「お怒りになりませんか?」
「…どうぞ。」
では遠慮なく、と。
わたしはシルヴィ様を見つめた。
「シルヴィ様、あなた……いえ、皆様。キープされてますわね。」
「……キープ?」
わたしは頷く。
「はい、キープ君です。ルル嬢は、あなた方からの愛を受け取りながらあえて待ったをかけている。皆様に愛される今をこのままずっと、維持することを望んでらっしゃるのですわ。」
いわゆる逆ハーレムだね。
シルヴィ様達以外の皆がわかってるしヒソヒソしてるよ。だからこそ、シルヴィ様達が白い目で見られてる。これが一対一の恋愛だったらここまで遠巻きにされていない。
「ルルは…っっ選べないだけです!」
「何故でしょうか?本当にシルヴィ様がお好きなら、両思いとわかっていて友人のままなんていられるものではありませんわ。恋人同士になりたいと、願うものではありませんか?」
選ぼうとしないだけだってば。
「だからっわたし達の…関係が壊れるのを、気にして……っっ」
「本当に好きな方の前で他の殿方にふれられる姿を見られるのは辛いはずですけれど。」
それとも嫌がるそぶりをしているのかしら?
そう聞けば、シルヴィ様は黙り込む。
「全くその気がないのならはっきりとお断りして距離を置くものです。期待も誤解もさせないために。シルヴィ様も他の令嬢にそうしていらっしゃいますよね?」
「ああ…」
「ですがルル嬢はそうはしていない。なら皆様を等しく好いていらっしゃるのでしょうか?今のままの関係維持を望んでいるということですのでそうなのでしょうね。」
考え込むシルヴィ様のお姿に
わたしは少しだけ、優しい気持ちになる。
「一度しっかりとお話し合いをされてみてはいかがでしょうか?ルル嬢にはルル嬢のお考えがあるのかもしれませんし。」
わたしが穿った見方をしてるだけで、実際にはルル嬢も望んでいないという可能性もないとは言えない。
もしそうなら、ルル嬢は自分より高位の子息達に遠慮して断れず困っているのかもしれない。
「………」
「でもその前にまず、殿下達と先に話し合ってみてはいかがですか?それぞれのルル嬢への想いと現状を把握しあうことも大事ですわ。その上で、今後のことを相談されてはどうでしょう。ルル嬢がわたくしの言うような方ではないなら、現状に困っているはずですから。殿方同士で話し合った結論を持ってルル嬢にお話をされるのも一つの手かもしれませんわ。」
ルル嬢にうまくごまかされないようにね。証言は得てからの方がいいかも。
「……わかりました、そうしてみましょう。」
「ええ」
特にアレク皇子殿下は婚約者がいる状態での不貞だからねー。
そこのところ、ルル嬢はどう思ってるんでしょうね?
「ルル嬢がシルヴィ様を選んでくださるといいですわね」
わたしは心からの言葉で
シルヴィ様の背中を押した。