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題36話「ピンクの着ぐるみは人間になりたい」

プロ侍女さんにちゃんと説明してから来ればよかった…。

つい気持ちがはやってろくな説明もせずに2人を頼んでルル嬢と出てきたから…。


目を覚ました2人からどんな風に聞いたのか大体想像はつく。プロ侍女さんは多分、狂ったルル嬢に脅されてわたしがついていったとでも勘違いしたのだろう。

3人はわたしの救出をとルル嬢の部屋まで駆け込んでくれたらしい。


「……………その、」


「………し、失礼…しました、わ…の、ノックも…せず、に……」


「…申し訳ございませんでした。では、ご無事なようですのでわたくし達は失礼させていただきます。」


「ちょっと待って行かないで!今行かれるととんでもない誤解を生む気がする!!!」


このまま帰られたら3人の中でわたしはルル嬢を襲った痴女である微妙に距離を置かれてしまう気がする!!


「…邪魔しないでくれる?これから、いいところだったのに」


ルル嬢が裸のままわたしの後ろにまわりこみ

後ろからべったり抱きついてきた。


「ルルルルルル嬢??!!」


何故誤解を増長するようなことをする?!


「それとも―――…混ざりたいの?」


わざとらしいまでにねっとり。挑発するかのような口ぶりで。

言葉に色気をのせたルル嬢はわたしを抱きしめたまま言い放った。


エイレーン様は赤面、レイチェル様は「今度はそちらに?」ってその呟き、しっかり聞こえてますから!プロ侍女さんは…


「お着替えならお手伝いいたします。」


といつの間にかルル嬢の制服を手にわたし達のすぐ傍に立っていた。

驚いたわたしと目が合うと


「…っそうでございました。本日は休校でございました。制服ではありませんでしたね。…では、どちらのお召し物をお持ちしましょうか?」


などとそうだけどそうじゃない、なことを言って慌てている。

プロ侍女さんも無表情だけど混乱しているらしい。


後ろから溜息が聞こえて


「着替えは自分でするからいいわ。この子も元気みたいだし、あなたはもういいんじゃない?」


とルル嬢。

待ってこのままプロ侍女さんを帰したらわたしの名誉が!


「身体のことで悩みがあったのよ。それをこの子に見てもらってたの。相談できる人を探してたけど…この子しかいなかった。」


「っそうでございましたか……」


「ルル様…」


「そうでしたの…」


「デリケートな問題だから誰にも言わないでよ。」


「ええ」


「もちろんですわ。」


「守秘義務がございますから当然のことでございます。」


なんとか3人を納得させてくれたルル嬢の言い訳にほっと息をつく。

なるほど、ルル嬢上手い。嘘は全く言っていないのに真実でもない言い訳だ。これなら誰もそれ以上を追求してくることもできない。


「だからさっさと出て行ってくれる?まだ相談があるのよ。この子にしかできない相談なの!」


「わかりました」


「わかりましたわ、あの、ユーリア様…」


それでも不安気にわたしを窺うレイチェル様に

わたしはにっこりと微笑んで頷いてみせる。


「大丈夫ですわ。ルル様ももう落ち着いていますし、お話するだけです。」


そうしてようやく、3人が部屋から出て行って


「…あの子は自分がおかしいってことにちっとも気づいてないのね」


出て行くエイレーン様を見送りながら聞こえた呟きに

はっと振り返ったわたしが見たのは


「気づかないままでいれば…幸せだったのかな」


ルル嬢の、


寂しくて、哀しそうな顔だった。











「さてと。で、どうだったの?わたしの背中にチャックはあった?」


「……なかったわ」


わたしは少し躊躇い、けれどはっきりと返事をした。


「そう…やっぱりそうなのね」


ルル嬢の声は落胆はあるもののやはり、と納得しているようなものに聞こえた。

つまりルル嬢だけではなく、アレク様達全員、チャックなどは存在せずあのままあの姿が本来の姿であるということだ。


「自分でも何度も探してたし、わかってたわ。この姿も、物心ついた時からだったしね。」


「ルル嬢…」


「ルルでいいわよ。嬢ってつけられるとなんかキャバ嬢時代思い出すから。」


なんと!

ルルはキャバ嬢だったのか!


わたし達は一度落ち着くために服を着なおしたルルと、

部屋に置かれた椅子に小さめなテーブルを挟んで向かい合っている。

俯いていたルルがわたしを見る。


「あんたも前世の記憶があるんでしょう?」


だからこの姿が着ぐるみだとかコスプレだとかってわかったんでしょ?と。

ルルが聞く。


「……ええ。あるわ。」


「そう…。いいわね、あんたは。普通の人間で。」


「ルル…」


わたしは転生して初めて記憶持ちの仲間と出逢えた喜びと、その仲間が自分の姿に苦悩している姿に感じる罪悪感とで

何を言えばいいのかわからなくて黙り込んだ。


「いいわよ、そんな顔しなくて。思い出すまではこの姿も気に入ってたし充分楽しんでたんだから。」


わたしはどんな顔をしていたのだろうか。

けれどそんな風にわざと明るく言ってくれるルルは、とても優しい子なのではないかと思った。


「信じられる?両親は普通の人間なのよ。」


「遺伝子おかしくないそれ?!」


ルルはテーブルに肘をつき、ふてくされたような表情でわたしを睨み。


「知らないわよ。そんな細かい()()までしてないんじゃない。攻略簡単だったもの、このゲーム」

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