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第28話「銀の眼鏡着ぐるみの努力」

我に返ったのは翌日だった。

そう、アレク殿下とうっかり名前呼びの仲にまで発展しルル嬢の壊れっぷりを聞きつつ放置した翌日だ。


「着ぐるみと名前呼び合う仲…だと?!」


やっぱり自分は前世男だったのかもしれない。そう思ってしまうほどには言葉遣いも頭も混乱を極め、一人寮の自室で頭を抱えた。

ルル嬢の騒ぎがなければもっと早く気づけたかもしれないが信じられないほど色々色々色々ありすぎる。


赤着ぐるみには友情を結ばされ、緑着ぐるみには先輩呼び、金着ぐるみに名前呼び…!銀着ぐるみは隣の席…。待てよ。赤着ぐるみのレイトン様もわたしのことユーリアとか呼んでなかった?!


「詰んだ。これ詰んだ。もうわたし着ぐるみに包囲されてる感が半端ない…!」


彼ら的には友情なのだろうが。着ぐるみとの友情という時点で詰んでいる。


ついこの間まではその他大勢に埋もれ遠くから眺めていたはずなのに。

これはあれだ、あれだあれ!前世でよく聞いていたお約束のセリフ―――



「どうしてこうなった!!!」











嫌味も兼ねて席換え以来始業ギリギリに登校してできるだけシルヴィ様から距離をとっている。


わたしはおかしいなぁなんて言いながらすんなり現状を受け入れたりしない。さくっと現状を打破してみせる。ゲームや物語のヒロインには打破する気が本当はないだけである。


「おはようございます、ユーリア嬢。」


「…おはようございます、シルヴィ様」


簡単だ。同じことをすればいい。教師が入ってきたらわたしは颯爽と手をあげ、席替えを申し出るのだ。「近頃目が悪くなったようで黒板の文字が見えにくいのです。」とでも言えば却下されるはずもない。いとも簡単にシルヴィ様から距離を取ることができる。あの時に呆然としてないで動けばよかったんだ。


「………シルヴィ様、それは?」


わたしはたまらず、自分から話しかけた。

聞かずにはいられなかった。

隣の席から少しばかりくぐもった声が返ってくる。


「あなたの恐怖を少しでも和らげる助けになればと思いまして……」


「…嫌味ですの?」


それはわたしへの挑戦と受け取っていいのだな?よし、買ってやろう!表へ出ろ!わたしは出ないが。


「そういうわけでは…ないのですが。」


「先日のわたくしのしたことをからかっていますの?!」


無意味だったあれを!

馬鹿にしているのだな?!からかっているに違いない!


シルヴィ様が()()を脱いだ。

中から大きなアニメ顔が出てきた。


「この顔が怖いのかと思いまして…」


「黒い布袋など被って下着泥棒でもするおつもりですか?」


「した…っ?!」


なんてことを言うんだ、と目をかっぴらぎ口をわななかせるシルヴィ様。


「犯罪者は顔を隠すものなのです。特に下着泥棒というものはそういう格好をして犯行を行うのですよ。」


不審者がここにいますって自分で手をあげているようなものだ。


「…なかなか勇気のいることだったのですが……」


「無意味ですのでおやめください。」


登校早々おかしなものを見た。隣の席の着ぐるみが、顔にだけ黒い布袋をすっぽり被っていたのである。もちろん目の部分はくりぬいてある。大きなお目目が穴から覗いている。


…余計怖いわ!


わたしは溜息をついて着席した。瞬時にシルヴィ様の意図が理解できた故に恐怖よりも馬鹿なの?という想いの方が強い。以前同じことをしておきながらあれだが、わたしは生徒会室という限られた着ぐるみだけの中でやったのであって、このように大勢の生徒達がいる教室などでやってはいない。

ほら見ろ、クラスメイト達ドン引きしてるじゃないか。廊下にまで人が集まって不審者に驚いているのが見えないのだろうか。

けどまあ、これもシルヴィ様の優しさなのだろう。


「申し訳ありません、シルヴィ様。わたくしが悪いのですわ。シルヴィ様には何もされていないというのに…一方的に怖がって。」


「…いえ……それを知りながらこの席に着いたわたしの方こそ。」


「それもわたくしがシルヴィ様を避けるからですわよね。申し訳ありません。」


しかし昨日のアレク殿下の話には考えさせられる部分があったのも確かだ。

わたしは彼らが着ぐるみだからと勝手に一方的に、怖がってばかりいた。ろくに接点もなかった相手から嫌われて傷つかないわけがない。


偏見は駄目よ、ユーリア。


アレク殿下にも着ぐるみとしてではなく中身を見る努力をすると約束したじゃない。


前を向いたまま瞳を閉じて深呼吸を繰り返して、少しでも恐怖を和らげられるよう自分を落ち着かせる。

大丈夫、この着ぐるみは怖くない。怖くない着ぐるみよ。落ち着いて、ユーリア。大丈夫、彼は優しい着ぐるみ。きっと中には人間が入っているのよ…。


わたしはそっと瞳を開けて

ゆっくりと隣へ視線を向けた。


「シルヴィ様はわたくしのためにそんな格好までしてくださった優しい方ですわ。ありがとうございます。怖くなくなるように…わたくしも努力しますね。」


大丈夫、わたし今ちゃんと笑えてる!

笑って着ぐるみを見れてる!!


「っっ……い、いえ………」


シルヴィ様の顔が赤くなる。着ぐるみの布が一瞬にして変色した!…なんてことは思わない、思わない。そんな失礼なことは考えない。着ぐるみではない、人間なのよ!


「ゆ、ユーリア、嬢は…」


「なんでしょう?」


シルヴィ様は熱心にわたしを見つめている。でもわたしは怖れない。前世の知識を思い出したのだ!目を見返さないで鼻の辺りか首の辺りを見ればいいのよ!そうすれば怖くない!または人間じゃなくカボチャとでも思えば……さらに怖くなるのでそれは却下!


「どんな、男性が……好みですか…?マーシャルの、ような…?」


「そうですわねえ…」


第一に人間、第二にイケメン、第三に経済力と思いやり。

でもこれどこまで言って許されるやつ?


「とりあえずわたくし、長髪の男性はあまり…。眼鏡とスーツは大好物なのですけれど。軍服もありですわね。」

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