第23話「着ぐるみ達との逆ハーな甘い日々」
「…リア」
爽やかな朝の光が寝室に差し込み
「ユーリア、起きてください、朝ですよ」
わたしを優しく起こす声にそっと瞼をあける。
「おはよう、ユーリア。よく眠れましたか?」
朝日に溶けてしまいそうな銀の髪がふわりとわたしの頬を掠め
同時に額に甘い朝の挨拶を受ける。
「着替えて朝食にしましょう。皆待っていますよ。」
その声に誘われて身支度を終えたわたしがシルヴィのエスコートで食堂に入ると
「おはよう、ユーリア。今日も可愛らしいな。」
食堂の一番奥の席に座りわたしを待ってくれていたアレクが甘く微笑んでくれた。
「こちらにおいで」
促されるままにアレクの隣の席に腰かければ
「わたしの上に座ればいい。食べさせてあげるよ」
などとアレクはわたしをからかい、手の甲にキスを落とす。
アレクのせいで真っ赤になっていたわたしの後ろから
ドンっと軽い衝撃が起こり
「おはよう、先輩。ねえ、昨夜は僕の夢見てくれた?」
と。悪戯な声で耳元で囁いたミラに驚く。
首に回されたミラの両腕は柔らかくわたしを拘束して
ちゅっと軽いキスを頬にした。
「ミラ、そのままだとユーリアが食べられないだろう」
アレクが咎めても
「このままでも食べられるよね?先輩」
ミラが拗ねたように聞いてくるので
困ったわたしが仕方なく頷くと
「ほらね。先輩大好きっ。ね、じゃあ先輩が僕に食べさせて?」
ミラは花が綻ぶような笑顔でわたしを拘束する腕にさらに力を込めた。
「いい加減にしなさい。さあ、いただきましょう」
シルヴィの呆れたような声がわたし達を食事に促せば
「ユーリアの食事を邪魔するなよ、ミラ。ユーリアはもっと食べないと壊れてしまいそうで俺は心配なんだ」
レイトンがわたし達の横に立って見下ろしていた。
レイトンの大きな手の平が優しくわたしの頭をなで
「おはよう、ユーリア。今朝も君は可愛いな。」
甘く見つめてくる。
「どれが食べたい?俺が取ってやるからな、何でも言ってくれ、ユーリア」
ありがとう、とわたしは微笑み。
そうしてようやくわたし達の朝食が始まる。
ああ、幸せだ。
わたしと彼らの甘く幸せに満ちたこの日々は
これから先もずっと続いていくのだ―――――――
「……んぎゃぁぁぁぁああああ!!!!!続いてたまるか!!!」
夢?!
夢よね?!
今の夢よね??!!
なんて日だ!!!!!
「あ、あ、あ、悪夢…!!」
寮のベッドから飛び起きたわたしは全身にべったりと汗をかいていた。
枕元の時計を見ると起床時間にはまだ早い早朝。ぜいぜいと肩で息をしながら部屋中に視線を彷徨わせ、今のが決して現実ではなく夢であったことを確かめる。
「怖すぎる…なんていう夢を……っ」
夢は自分の望んでることを見るなどと聞いたことがあるがとんでもない。着ぐるみの逆ハーなど誰が望むというのか。悪夢以外の何ものでもない。
大丈夫よ、ユーリア。
わたしにはカミュ先生がいるじゃない。
手ごたえは悪くなかった。
多分きっとカミュ先生はわたしを憎からず想ってくれている…!
わたしと着ぐるみの逆ハーな日々なんて永遠に
絶対に成立することはない!!
「おはようございます、ユーリア様。…隈ができていましてよ?」
「おはようございます、レイチェル様。ちょっと、いえかなり夢見が悪くて。」
教室に入ると自分の席に座り隣の席のレイチェル様と挨拶をする。
1体どころか4体もの着ぐるみに囲まれて朝食とか。
食事なんて喉を通るはずはないしそもそも食べる気がわくはずもない。夢の中の自分は何故あんなにうっとりしていて幸せそうにしていたんだ。あれは本当に自分だったのだろうか。ルル嬢の夢に乗り移ってしまったんじゃないだろうか。
そこまで考えてから、
わたしはやっとルル嬢の現状を知らなかったことに気づいた。
「そういえばレイチェル様、サンチェ子爵令嬢ってどうなったのかご存知ですか?」
隣の席に座っているレイチェル様が驚いた顔になった。
「ご存知ありませんでしたの?今は停学中ですわよ。来週には戻ってくるはずですわ。」
どうやら謝罪も反省文の提出もきちんとしたらしい。
「そうでしたの。それはまあ…」
よかった、のかな?
「職員会議で子爵令嬢の自作自演が証明されたとか。ユーリア様は特にエイレーン様の無罪を信じていらっしゃいましたものね。よかったですわね?」
「え?ええ…そ、そうですわねえ。本当に、よかったですわ」
「噂では、その職員会議で事件の目撃者が証言をされたとか。どなたか存じませんが勇気を持って行動してくださったおかげですわね。」
そっとレイチェル様から視線を逸らす。
「そうなのですね~」
わたしは自慢の演技力でもってさりげなく外を眺めながら相槌をうった。うん、貴族学院らしい花々が豪華絢爛に咲き誇っていて美しい。見事の一言である。
「どうかなさいまして?ユーリア様」
「い、いえ…何もありませんわ?」
ちょっと外の清清しい空気を吸いたくなっただけですわ?ああ、朝日が眩しいですわねえ。
証言をした目撃者がわたしだなんて。
言えない。
言いたくない。
多分すごく面倒なことになる。
しかもわたしギリギリまで黙ってたし。知らん顔する気満々だったし。
食堂でその話になった時も全く知らなかったふりしちゃってるし。
今更実は見てましたなんて言えるはずがない。
「ところでユーリア様?」
「なんでしょう、レイチェル様」
外から視線を戻すとにっこりと、美しい顔で微笑むレイチェル様がいる。
その後ろに何かが見えるのはわたしの目の錯覚でしょうか?気のせいかレイチェル様の微笑みも怖いです。
「いつの間に…エイレーン様と仲良くなられましたの?」
「え…?」
「一緒に登校されてましたわよね?」
ぎくっ
「わたくし、ちっとも知りませんでしたわ。つい先日まで知らない風でしたのに…」
ぎくぎくぎくぎくぅぅぅ!
「お話…聞かせてくださいますわよね?ユーリア様?」
「………ハイ」
マーシャル様のという餌にひっかかって
そういえばわたし、
ほいほい着ぐるみについていってたんだった。
悪夢のせいで飛び起きて、早めに登校していた分時間があった。
わたしはレイチェル様に大体のところをお話しすると、そのことで少しばかり着ぐるみーズと縁ができてしまったことを打ち明けた。
「わたくしは普通の生徒ですし、皆様に勘違いされたくなかったのです。」
わたしが口ごもりながらそう言えば
「そうだったのですか…そうですわね、ユーリア様が心配されるのも無理はありませんわ。子爵令嬢のことが終わったばかりですもの」
レイチェル様は理解を示してくれた。
ルル嬢のように今度はわたしがあの立ち位置を狙っているなどと、緑のヤンデレ着ぐるみのように誤解されてはかなわない。見当違いの嫉妬をされるのもごめんである。
「ですが、ユーリア様は大丈夫だと思いますわよ」
「え?」
レイチェル様がにっこりと微笑んだ。
「ユーリア様ならあの方達のお傍にいても、多少の嫉妬はあっても、嫌われることはないと思いますわ」
意味がわからず、わたしは首をかしげた。
本気で意味がわからない。わたしが自ら着ぐるみの群れの中に身を置きたいなどと自虐行為を望むはずがないじゃないか。とんでもないことである。
「だって、ユーリア様っていつも、わたくし達を褒めてくださるでしょう?」
「…それが何の関係が?」
点と点が繋がらない。繋がって線になった先にあるのが着ぐるみなら、繋がらないままでいいのだが。
「しかも、ユーリア様ってはお世辞などではなくて本気でそう想ってくださるのが伝わるほど熱心で。こんな平凡な容姿でしかないわたくし達を、美人だとか可愛いだとか、何かある度に真剣なお顔で説得するように褒めてくださるわ。」
「…レイチェル様は本当に美人ですわよ?この世界の美の基準がおかしいのです。」
「ありがとう、ユーリア様。」
いまだ理解が追いつかないわたしに、レイチェル様は続けた。
「わたくし達も愚かではないわ。ユーリア様の言葉が上辺だけのものなのか、本気で想ってくれているのかくらいわかります。だから…ユーリア様なら大丈夫ですわ。そうなってもきっと、応援してくれる方々はいらっしゃるはずよ。子爵令嬢のようにはならないわ。」
………はい?
「だから大丈夫。無理に他の方を好きになろうとしなくていいのよ。素直になって、ユーリア様」
「や…あの…レイチェル様?なんかすごく勘違いをされてるみたいな……わたくしは無理なんか全くちっとも全然していませんよ?!」
本気で嫌がってるんですけど?!
なのになんで真逆の勘違いをされている風なの?レイチェル様が菩薩のような目で仕方のない子供みたいにわたしを見てるんだけどちょっと待って!
無理にわたしを着ぐるみーズに押し付けようとするのはやめて?!
レイチェル様ひどい!親友だと思ってたのに!!まさかレイチェル様に背中から撃たれるとは思いませんでした!!
「ええ、わかってますわ。ユーリア様はそういう方ですわよね。ただ覚えておいて。どうなってもわたくしは、ユーリア様の味方ですわ。」
だから何かあったら必ずわたくしにだけは打ち明けてくださいませね?
と――。
レイチェル様がそっと小さな声で
悪戯っ子みたいに微笑みわたしに囁いた。




