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第18話「喧嘩をやめてわたしのために争わないで!」

恋多き女と後ろ指をさされてもいい。

マーシャル様のこともショーン様のことももういい。


わたし、


わたしこれからはカミュ先生一筋でいきます……!!!


「せん、せい……」


潤んだ瞳、誘うようにわずかに開けた唇、小さく震える身体にぎゅっとシーツをつかんだ指…!

さあ先生!!

カモン!!!


思う存分いっちゃってください!!!



「ストップ。そこまでだよ、2人とも。」



けれどその時、



静かな声がわたし達に待ったをかけた――。



「理事長…」


「理事長…?」


振り返ったカミュ先生が呟いた言葉に

わたしも身体を起こし声の主を見た。


いつの間に入ってきていたのだろう、保健室の扉に身体を預けた体勢で腕を組み、微笑みながらその「人間の男の人」はわたし達を見ていた。スーツの腕から覗く高級そうな時計から、なんとなくその人の立場を察する。


「覗き見とは趣味が悪いですね」


カミュ先生が苦々しく言えば


「こんな場所で見られて困るようなことをしようとしている方が悪いと思うけどね」


とその人は答えた。


「理事、長先生…なんですか?」


わたしはカミュ先生の白衣の裾を握って上目遣いで尋ねる。

そうです前世の知識の無双です!まだわたしは諦めていません!!


カミュ先生はわたしに視線を戻すと優しく「そうですよ」と微笑んでくれた。

よし!まだイケる!


「君は昨日証言してくれた子だね?」


理事長、と呼ばれた男性が歩いてくる。


「…はい」


着ぐるみーズといい先生方といいなんでみんな当たり前みたいに知ってるの?わたしの必死の抵抗はなんだったの?大丈夫なの?本当に。ピンクと緑の着ぐるみだけには知られたくないんだけど!

カミュ先生が庇うようにわたしの前に立ち視界をふさいだ。

その向こうで。

理事長がくすりと笑んだ気配がした。


「過保護だね、カミュ先生。わたしが彼女に何かするとでも?」


「…まさか。ただわたしは具合の悪い彼女を案じているだけですよ」


「それは、保険医として?それとも……男として、かな?」


「……………」


ま、


ま、まさかこれって…?!


カミュ先生の背に隠れた後ろから、わたしは両手を口に当ててわなわなと震えていた。


まさかまさかこれは…?!

この状況は?!


「さあ?理事長には関係ないと思いますが?」


「関係ない?本気でそんなことを言ってるのかな?カミュ()()――。」


これはわたしまさかの『喧嘩をやめて2人を止めてわたしのために争わないで!!』ってやつなんじゃないのー?!

わたしの取り合い?!

きた?!きてる?!わたしモテ期到来ーー?!


カミュ先生一筋でいくとか思ったことを綺麗に忘れて

わたしの脳内はまたしてもピンク色に染まっていた。


やっぱりわたし可愛いのよ!

失いかけてた自信が再び…!


理事長、ということは。

あの職員会議の場にもいたのかもしれないし、わたしのことも報告を受けていたのだろう。ああそうだ。あの時聞いた美声の正体は、理事長だったんだ…。


しかし解せぬ。

非常に気になる、ものすごく気になることが、一点。


「あの…っ」


だからわたしはあえて空気を読まず、睨みあう2人に声をあげた。


「ユーリアさん?」


カミュ先生が振り返り、心配気な目でわたしをみつめる。理事長からは、探るような視線が。


「すみません、あの…。理事長先生、ですよね?」


「そうだよ。君達生徒の前にはなかなか出る機会はないけれどね。」


わたしは理事長を見返した。

怖くはない。理事長は「普通の人間」の美形だから。

ただ少々、「普通の人間」と異なる点が――。


「理事長先生は…」


こちらの世界では平凡と評される美形なのに、そのいでたちとは裏腹に違和感ばっちりのその――


「皇族に連なる方、なのですか……?」


そう。理事長は金髪なのだ。目も青い。なのにほりはさほど深くなく西洋人ぽい顔ではない東洋系というアンバランスさ。今になって気づいたけどアレク殿下の着ぐるみもそうだ。アニメ顔だからということで不思議にも思っていなかったけれど普通の人間でそれは少々違和感がある。

普通の人間なのだから、皇族といっても遠い親戚、何代も前の先祖が皇族だったとかその程度だとは思うのだけど。


2人が驚いた顔になった。

え、わたしそんなにおかしなこと言いました??


「驚いたな」


「容姿が違いすぎるから疑う人間は今までいませんでしたからね」


んん?

どういうこと?


急に2人から剣呑さが消え、困った笑みを浮かべて見つめ合う姿は眼福です。あれ、わたしの取り合いはもういいんですか??


「それどころか残念がられることが多かったくらいだよ。せっかくの“色”が勿体無いって目でね。」


「目に見えるものが全てではないと理解できない人は多いですからね」


当たりってことでいいのかな?

理事長の目がわたしを射抜く。


「ルドフォン伯爵家のユーリア嬢」


「は、はい!」


わたしは姿勢をただし、元気よく返事をした。具合が悪い?もうとっくに治ってます!主にカミュ先生を誘惑しようとしてたあたりから!


「このことは誰にも言わないように。秘密だよ――。守れるかな?」


「知られると都合が悪いというのでしたら従いますわ。」


「…そう、できれば知られたくないと考えててね。」


わたしは頷いた。


「わかりました。お約束いたします。理事長が皇族に連なる方だということは誰にも言いません。」


そう答えると、理事長が破顔した。

薄い唇に長くしなやかな指を立て


「いい子だ。いい子にはいつか――ご褒美をあげよう」


とウインクしたのだ!


「っ」


当然わたしは真っ赤になった。

だってだってごめんなさいカミュ先生!理事長先生も美形なんです!決して浮気じゃないんです!条件反射みたいなものなんです!


くすり、と理事長が笑う。


「理事長。ユーリアさんをからかうのはやめてください。」


カミュ先生が咎めた。


「からかってなんかないさ。でも――カミュ先生も人が悪い。こんな()()生徒を独り占めしようなんて、ねえ?」


「……ユーリアさん、具合がよくなったのなら授業に戻りましょうか。」


「は、はい!そうですね!そうします!」


慌ててシーツをはぐとベッドから降り立った。確かにこれ以上居座っては仮病扱いされてしまう。赤着ぐるみとの攻防で悪くなっていた具合もすっかり治っているし仕方ない。学生の本分は勉強!授業に戻らなくては!


ドキドキする胸の余韻を抱きしめながら

カミュ先生にお礼を言うと理事長先生に頭を下げて


ふわふわした心持ちのまま保健室を後にした。

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