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第14話「着ぐるみ報告会」

「これでよかったのですわ」


エイレーン様が優雅な仕草で紅茶をすすりながらおっしゃった。


「あのままわたくしに罪が着せられていれば学院内のことですまなくなっていました。リガール公爵家として父も黙っていなかったでしょう。」


それはルル嬢が消されていたと受け止めていいのでしょうか?


「ミラのことだが。ミラは…元々庶子だったらしい。わたし達も知らなかったことだが…メイドの産んだミラを、当時子のいなかったオルガ公爵家に正妻の子として入れたようだ。」


なんと!

ではルル嬢と同じ境遇だったということですね!


「わたくしも知りませんでしたわ。父達は知っていたのかもしれませんがオルガ公爵家としてはミラ様を正式な嫡男として発表していますものね。」


「ああ、だがミラを迎えて五年後に正妻から弟が生まれている。公爵家としては本当の嫡男だ。そのことでミラは自分の立場を憂いていたようだ。」


「ですがオルガ公爵がミラを疎外しているように感じたことはありません。」


「ああ、わたしの方も同じ印象だ。少なくとも公爵は本当の嫡男が生まれたからと言ってミラを邪魔にしているようには思えなかった。」


「公爵夫人もですわよ。何度かお茶会でご一緒しましたけど、ミラ様のお話も度々窺いましたし、弟君と差別しているようには見えませんでした。困った子を愛しく想っているのが伝わってくるような話し方だったのを覚えていますわ。」


「優しくされているからこそ、ミラ様は申し訳なく感じていたのかもしれませんわね。」


優しくされるからこそ辛い、申し訳ない。

そう感じてしまうこともあるのだ。とはいえ、まさに中二病ここに極めり!な展開じゃないか。自分がこの世で一番不幸みたいに思い込んじゃってたんじゃないのー?青いね~

ミラ様はレイトン様が付き添って公爵家の家族とじっくりゆっくりお話し合いだそうです。


「ところで、ユーリア嬢は一体どうしたんだ?」


「どうぞお気になさらず」


「いや、気になるだろう」


「急な呼び出し…お誘いで仮面も着ぐるみも手に入らなかっただけです。」


「ますます意味がわからない……」


わからなくてけっこうです。

とは心の中でだけに留め、わたしはエイレーン様を見習って淑女の仕草で紅茶を飲もうとした。


「…カップに手が届いていないぞ。」


思わず舌打ちしそうになる。

距離感が上手くつかめなかった。


「紅茶はけっこうですわ」


「いや今飲もうとしてたぞ?」


「気が変わったのです」


「ユーリア様、その…大変聞きにくいのですが、それは……?」


運命の職員会議が終わり、その日はそのままお開きとなった翌日。

午後になってアレク殿下という名の着ぐるみから結果報告がしたいと呼び出しを受けた。もちろん聞かなかったことにして帰宅することも考えたが、証言した身としてはどうなったか知りたいところである。

そこで考えたのが、コレだった。


「試してみたいことがあったのですが…効果はないようです」


「はあ……」


職員会議の時、わたしは着ぐるみーズが怖くなかった。むしろイケイケGOGOなアゲアゲな気分であった。それは何故か!

着ぐるみが見えなかったからである!

けれどあの衝立を常に持って移動するわけにはいかない。この生徒会室に用意するように要求するわけには……すればよかったな。何を遠慮してたんだろう、わたし。わたしにはそれくらいの権利はあってもいいはずじゃないか!

しかし咄嗟にそうは思えなかったわたしは身近な物であの日の再現をすることを試みた。衝立の代わりになるものを欲したのである。


「仮面がほしいのか…?」


「あるんですか?!」


「ない、ことはないが……」


「ユーリア様、仮面は正体を隠した状態で楽しむ夜会で身につけるものですわよ?」


「夜会に行きたいのか?」


「そんなものに興味はありません」


わけがわからない…と殿下な金着ぐるみが頭を抱えている。できるだけ視界から排除したいのだが存在を主張しすぎる彼らは嫌でも視界に入ってしまう。見たくないはずなのについつい見ちゃうし!


それよりやっぱりこの世界に着ぐるみは存在しないのか。さっき、さりげなくワードを出してみたのだけどごく自然にスルーされた。まあ、着ぐるみが着ぐるみを知っていたらゲシュタルトの崩壊だが。


「仮面をつけても視覚がふさがるわけではないので意味ありませんよ?」


ぐっ…

シルヴィ様にはわたしの狙いが筒抜けだった。


「なるほど…それでその……紙袋を?」


「手元にこれしかなかったので。」


被ってみました。頭からすっぽりと。目の部分には穴が開いているので視界は良好です。ありがとうございます。非常に残念な大失敗です。見えないから怖くない、見えたら怖い。なのにしっかり見えてます意味ありません!!


「泣きそう…」


「ゆ、ユーリア様っ?!」


「ユーリア嬢、しっかりしろ!」


「わたし達は近づきませんので泣かないでいいのですよ!!」


なんでわたし、こんな当たり前のことに気づかなかったんだろう?そもそももう何も見えなくってもよかったんじゃない?わざわざ目のところに穴開けなくたってよかったんじゃないのわたし?!

震えが止まらない!!

着ぐるみの檻の中に武器も持たず入るなんてわたしどうかしてた!こんなもので大丈夫とか信じた数時間前の自分を殴りたい!正気に返れ!お前には無理だ!!


「め……そうだわ、ユーリア様!そのまま目を閉じればいいのではなくて?!」


「そ、そうだユーリア嬢!視界をふさいで話そう!」


「殿下、落ち着いてください。わたし達が目を閉じてもユーリア嬢の恐怖には関係ありません。」


着ぐるみーズが騒いでいる。

わかってるけどつい見ちゃうんだもん!視線がいっちゃうんだもん!着ぐるみのインパクト舐めないで?!


「申し訳ありませんわ、ユーリア様……まさかユーリア様が殿下方を怖がっていたとはわたくし存じ上げなくて…」


エイレーン様、あなたもです。

とは言えないわたしである。

だってエイレーン様って中身は優しい着ぐるみなんだもん。

それよりどうしてわたしが証言者だって殿下達にばれてるんですかね?!声ですか?!声なんですか?!鼻つまんでたわたしの努力は無駄だったってことですか??!!


「サンチェ子爵令嬢はどうなりましたの?」


もうさっさと報告を聞いて帰りたい。この間は2体で今度は3体とかどんどん増えてるんだけど!


「あ、ああ…」


「ルルには3日以内のエイレーン嬢への謝罪と反省文の提出が義務づけられました。それができれば、1週間の謹慎です。」


甘くない?


「ふふ、本日のところはまだ、わたくしは謝罪を受けていませんわ?」


「それが成されなかった場合、事は学院内ではすまなくなる。ルルはもちろん、サンチェ子爵家にも責を問うことになる。」


「そうなったらルル嬢はどうなるのですか?」


着ぐるみーズが沈黙した。


「…学院の退学は当然として、後は陛下の判断だろうな。」


「陛下はリガール公爵家(うち)の要求を聞いてくださるでしょう」


「公爵家としてはどうするおつもりで?」


さあ?と

エイレーン様が可愛らしく首をかしげた。

可愛いです、可愛らしいですよ、着ぐるみでさえなければ!!


「父に任せますわ。ユーリア様がしっかりわたくしの冤罪は証明してくださいましたし殿下方の目も覚めたようですのでわたくしとしてはあの方がどうなろうとどうでも。」


エイレーン様、かっこいいです!


「殿下方こそ、サンチェ子爵令嬢と話はしたのですか?」


そういえば。

話し合うとか言ってたね。

引導渡すんでしょ?なんて言うの?「悪いけど君にはもう飽きたんだ」「もう俺には近づかないでくれ」「君との関係はなかったことにしたい」とかそんな感じ?


「……ユーリア嬢、何か失礼なこと考えてませんか?」


「…何故わたくしが?まさか。」


それともあれかな。「本当に好きな人ができたんだ。別れてくれ。」「すでに彼女のお腹には僕の子がいるんだ」「責任とって結婚するつもりだ。だから君とはもう…これきりにしたい」とかとか?!そんな感じ?!


「ユーリア嬢」


「冤罪です」


なんでシルヴィ様って時々鋭いんだろう?シルヴィ様の場合中身も怖そうだよね!


「ところで!!大事なことなのですけれど!!!」


わたしはバーン!と机を叩いて立ち上がった。


「事件は解決しました。報告も聞きました。なら、今度はわたくしの番ですわよね?!約束、覚えてます?!今度こそお願いしますよシルヴィ様!!!」


マーシャル様への橋渡しを!紹介を!

明日にでも!すぐに!!!

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