お誘い
ラインを交換してからというもの毎日のようにくみこちゃんからラインが届くようになった。その内容は「今日は体操服いりますか?」や「ティッシュは持たせた方がいいですか?」や「今日のランチはなんですか?」などなど……全て自分で調べられるような事ばかりだった。そして決まってキラキラした目の可愛いクマちゃんのスタンプがついてくる。
「こんなことでラインしてくるなーッ!!」私は思わず自分のスマホをソファに投げつけた。画面が割れたら嫌なので優しいところに投げた。
本当に面倒な人……いや、熊と友だちになってしまった。
毎日毎日、後悔が止まらない。千夏が帰ってくるとお決まりの質問「今日は誰と遊んだの?」をした。その答えはもちろん「くみこちゃん!」と返ってきた。
私はキッチンの陰に隠れて「はぁーっ」と一つ大きなため息をついた。千夏がくみこちゃんのどこがそんなに好きなのかが謎だった。今日はその疑問を投げかけてみる事にした。
「千夏はくみこちゃんのどこが好きなの?」と聞くと「だってやさしいもーん」と答える。優しい人なら世の中には沢山いる。なぜ、その沢山いる優しい人たちの中からそこを選んだ。「他には?ねぇ!他には何かないの?」私は食い気味にまた質問した。
「うーん。えっとねぇ……ふわふわなところ」
ふわふわは確かに唯一無二だ。
それ以上何も聞けなくなった。私は少し黙った。
千夏がおもちゃの車を畳みの上でブーンと走らせながら沈黙を破った。「こんどねぇくみこちゃんのおうちにあそびにいくことになったよー!」
私は自分の耳を疑った。
「うっうそでしょ? いつ? いつそんな約束したの?」
私の知らないところでまさかそんな約束が決まっていたなんて!「えっとねぇ。きょうくみこちゃんがこんどのにちようびおうちにあそびにきてねっていってたよー」
なんということだ。親のいないところで勝手に子どもと約束するなんて! これが事実なら少し不躾ではないか? ……というかどうして千夏はくみこちゃんの言葉がわかるんだろう? ラインではあんなにもまめにくだらない事ばかりを送ってくるくみこちゃんだが、私と会った時はひと言も話さない。ただ頷くだけだ。素朴な疑問が浮かんだが、今はそれどころではない。
すぐさま私は投げ捨てたスマホを手に取り、くみこちゃんにラインした。「今日、千夏が今度の日曜日にくみこちゃんのおうちに遊びに行くという約束をしたみたいなのですが…本当にお邪魔しても大丈夫なのでしようか?ご迷惑じゃないですか?」と聞いた。
子どもとの口約束はこういう場合だと嘘である可能性が高い。まさか本当に約束が成立しているという訳はないだろう。そんなことを考えていたらすぐさまラインが既読になった。くみこちゃんはいつも反応が早い。そして返信も早い。くみこちゃんとのトーク画面を開いた。
「ぜひぜひ(ハート)(ハート)いらっしゃってください(ハート)(ハート)(ハート)(ハート)お待ちしています(キラキラ)」
画面の中で例の熊のスタンプがこっちに向かって「come on!」 と手招きしていた。
その画面を見て思考が3秒ほど停止した……。
今度の日曜日に不本意な予定ができてしまった。
スマホを握ったままの手を机上に勢いよく付いて机に向かってうなだれた。
どうしよう……。お土産何持っていこう?
こうしてくみこちゃんのお家に遊びに行くことが正式に決定した。