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うさぎの家族

作者: クロユリ

「ねえお父さん、お母さんまだ帰ってこないの?」

  子供は父親に問いかける。

「ああ、まだ帰ってこないんだ」

  父親は少し寂しそうに答える。そして、こう続けた。

「母さんはまだ帰ってこない。だから先にご飯を食べてしまおう」

  そうして、2匹はその場を離れた。


  しっかり腹を満たすと、住処に戻る。子供はまた父親に問いかける。

「ねえお父さん、お母さんはまだ帰ってこないの?」

  子供はとても心配そうにしている。そんな子供を安心させるかのように父親は言った。

「まだ帰ってこない。だけど、いつかちゃんと戻ってくるよ。お前が立派になった頃にはきっと帰ってくる」

「ほんと?嘘じゃないよね!」

  子供は嬉しそうに聞き返す。父親は何も言わず、静かに子供を見つめる。

「早く立派になって、またみんなで暮らしたいな!」

  無邪気にいう子供に対し、父親は複雑そうだった。


  それから1週間ほど経った頃、父親に異変が起き始めていた。

「お父さん、もう食べないの?まだまだご飯はいっぱいあるよ?」

「ああ、もう腹いっぱいなんだ。お前は好きなだけ食べていなさい。先に戻っているよ」

  心配そうに声をかける子供に、父親はそう答え、住処に向かう。そんな父親の背中に子供は言った。

「ううん、僕も一緒に帰る!草はもう今日はいいんだ」

  そうして父親の後に続き、住処に戻った。


  子供が成長するにつれ、父親は弱っていった。さらに1週間が過ぎた頃には食欲も減り、住処から出ることさえ難しくなっていた。

「お父さん、今日はご飯食べられそう?いっぱいあるよ!」

「…そうだね、今日は食べられそうだ」

「じゃあ、一緒に食べよう!ゆっくりでいいからね!」

 子供は嬉しそうに父親と食べ始める。

 子供はいそいそと食べているが、父親は一口一口を味わっているかの様なはやさで食べている。

 父親はまた、子供よりも先に食べ終わってしまった。

「お父さん?もういいの?まだいっぱいあるよ?」

「もういいんだ。先に寝ているよ」

 父親は力なく言った。そして、子供も食べ終わると、父親の隣へ行き、そこで眠った。


 夜が明け、住処に日が差し始めた頃に子供は目が覚めた。そうしていつものように父親に声を掛ける。

「お父さん、おはよおー…」

 寝ぼけ眼でふわふわとそう言う。しばらくしても返事が返ってこない。そこで子供は隣に目を向ける。そこには、父親の姿はなかった。

「お父さん…?どこにいるの…?お父さん?お父さん!?」

  子供は慌ててあたりを見渡す。しかし、父親の姿は見えない。子供は急いでいつもの餌場へ向かう。

  餌場に着いても父親の姿は見えなかった。右を見ても左を見てもどこにも見当たらず、不安になった子供は、森に入り、さらに奥深くまで進んでいった。

「お父さん!どこ!?どこにいるの!?早く出てきてよ!お父さん!!」

  何度も何度も叫ぶ。すると、少し離れたところからガサガサと草が踏まれる音が聞こえた。そして子供はそこへ駆け寄る。

「お父さん!探したんだよ!!早く帰……」

  しかし、視線の先には父親ではなく、飢えた獣がそこにいた。獣の口には赤い液体が大量についていた。

  子供は怖くなり、必死で逃げた。獣が追いかけてくる音、獣の飢えた息遣い、木々が風に揺れる音、鳥たちの声…すべてが恐ろしいものにしか感じなくなった。


  どこをどう走ったのかわからなくなるほど必死で逃げた甲斐あってか、獣をまくことが出来ていた。振り返って、耳をすませて、獣が近くにいないことを確認する。安心から、大量の涙が溢れてくる。

「お父さん…お父さん…!どこにいるの…!怖いよ…ひとりはやだ……」

  子供はもう、叫ぶ気力もなくなっていた。暫く、ただじっと固まっていた。身じろぎひとつせず、静かに涙を流していた。


  涙が止まり、落ち着いた頃、子供は改めて周りを見渡した。するとそこは、父親と2匹で来ていた餌場だった。子供は住処に帰ろうと、そう思った。もしかしたら住処に帰ってきているかもしれないと、そう思った。しかし、どんなに早く帰りたいと思っても、体がいうことを聞かず、歩く速度でしか、帰路につくことが出来なかった。


  住処に着いて子供が思ったのは、『やっぱり居ない』 だった。父親も、もちろん母親も…帰ってきた形跡はなかった。

  それからの子供は、住処に引きこもり、餌場にすら行かなくなった。ただひたすら、親の帰りを待った。どれくらいの時が経ったのかわからなくなった頃、子供は体をピクリとも動かせなくなっていた。今の自分が父親と似ているとぼんやりと考えながら、ずっと帰りを待っていた。いつしかまぶたが重くなり、ゆっくり、ゆっくりと閉じていく。

  視界が真っ暗になる中、子供は心の中で謝っていた。

『お父さん…お母さん…待っていられなくて、ごめんね…』

  すると、途端に体が軽くなったような気がした。思わず上を見上げると、そこには父親と母親の姿があった。

『お父さん…お母さんも…?……そっか、待ってたのは僕じゃなくて、お父さんたちだったんだね…』

  そして、子供は涙を流しながらこう言って父親と母親へ駆け寄る。


「お父さん、お母さん、ただいま!!」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] お母さんも、お父さんも、食べられちゃったのかな・・・・ [一言] 面白い・・・・って言っていいのかわかりませんが、よかったです。
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