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LC-1-01





それほど沢山の経験が無いにしても、近代社会ではそれほどつまらないと感じるような生活を送るのは難しいだろう。

それが、楽しいと人生の中で生き続けることができないとすればそれは社会か本人に原因がある。

かなり両極端な話だが、日本にかぎって言えば安全に優れた社会では根本的に経験が不足しがちだ。脳の、頭の中や意識で捉えた情報だけではそれは経験と呼ぶにはあまりにも薄弱すぎる。

本来意識とは頭脳労働以上のことはできず、現実に直接影響を及ぼすような事はできない。

しかし、現在の社会は非常に科学が発達したため、肉体的な経験を積む必要性はなくなってきた。

極端な話、肉体的な経験を積まなくとも生きていけるのが今の社会であり、頭脳労働あるいは馬鹿にでもできる単純労働以外の仕事は極力省かれてしまう。

脳化社会というのもそれほど間違った答えではなく、ただ人間は画面に映し出されるあまりにも都合のいい幻想に意識をコントロールされるのが精一杯だ。

むしろ見なければいいだろうというが、それもそうはいかない。何せ、肉体的な経験を省かれた都市社会では歩く、走る、手を動かす以上の行動は難しい。

都市社会の思考体系は基本的に肉体を過保護し、経験を限定する物なのだとしたら・・僕は頭脳は大人でも体は下手をすれば江戸時代の人間より弱いだろう。

かなり極端な話だが、脳や意識ばかり偏った社会で生きている以上は僕はその社会についていくしかない。

人間一人の力は無力であり、歯車と呼ぶには後100人は必要だから。



電車の中、東京の学校から下校している牧野リオはつまらなそうに窓の外を見ていた。

大量のコンクリート建造物は見慣れているのだが、ある意味東京に集中しすぎのため30分も電車の中に居ると突然景色が変わったりする。

どうしてこんな極端な都市になっているのかは全く知らないが、多分無計画故に東京にばかり建造物を増やしてしまったのだろう。

東京にばかり物が集まるというわけでもないが、人があまりにも多すぎる以上はどうすることもできない。

人間の生活を直接コントロールするほどの国ではないので、基本的には国民の自由は守られている。結果的には人間の習性の一つである集団化が遠因となってこういう状態になったのかもしれない。

ただの憶測だけれど、しかし人間が多いということは自分が行動できる選択肢は極端に絞られる。

人間によっては日本は規則に厳しい社会と見えるが、ただ惰性の性格といい加減過ぎる思考法を持つ人間にとってはどうでもいい構造だった。

ただ何もしなければいい、という考えで言えば行動しないという行為は日本に限ってメリットがあり過ぎるようだ。

常に行動選択カーソルを待機に絞って丸ボタンを押すような自滅的な行動を日本社会が許容しているというのは、少し皮肉過ぎていて笑えなかった。

「ん?」

電車の中が少し空いてくると、目立つ格好をした女の子が僕の隣に座った。

どれぐらい目立つかというと、殆どコスプレ衣装だったからだ。

水色の派手な髪、機能性が乏しい甲冑?とミニスカート。そして長いブーツ。無料のオンラインゲームに良く出てくるような意味不明な騎士の恰好をする少女だ。

今、僕はコスプレ会場からはかなり遠い場所に居るのだが、何かこの辺りに新しいイベントが発生したのだろうか。

それはよく分からないが、彼女は当然のようにただ座っていた。周りの人間もどういうわけか彼女のことを完全に無視している。

「あ、あの。何かのイベントですか?」

つい、声に出してしまった。

ありえないことだ、普通なら逃げるはずの状況なのに。

少女は僕に気づいてふりむく。目も青い、完璧すぎるコスプレではあるのだが。あまりにも完璧すぎるというのには少し違和感があった。

「イベント?」

「えぇと、何かのコスプレ、ですよね?」

「こす・・ぷれ?」

「あの」

それ以前に周囲がおかしい。

どうしてこんな少女に誰も見向きしないのか。余計不安になってくる。

「貴方は、私が見える」

「え?」

「私が、見えている。貴方は、私を観測できる。貴方の意識は私を捉えらえている。だから、大丈夫」

何が大丈夫なんだ?と、意味不明な事に心の中で突っ込んでいると電車が止まった。

そして、ぞろぞろと人が出ていく。

「私はレーヴァテイン」

突然挨拶をされた。

「私は、持ち主を失って以来放浪している。正直、これで7つ目の世界を渡り歩いた」

「何の話ですか?」

「独り言」

つまり、今僕は突然しゃべりだした女の子に反応してしまった人なんだろうか。

いや違う。

「君は、どうしてそんな恰好してるんだ?」

「これは私が生まれた後に与えられた正式な聖剣用のアーマープレート。ただし、聖剣を形成するための術式をコアに刻んでいるため、殆ど儀礼的な機能しかない。今は、ただの飾りでしかない」

「飾り?」

「持ち主が居ないから私は本来の能力を発揮できない。持ち主が居ないから私はただ居るしかない。でも、今はどうでもいい。」

とりあえず、どうしたらいいんだろうか。僕が下りる駅はあと一つ先なのだが。

「第一フェイズ、といったところね」

突然、また意味不明なことを口走った時だ。

電車が突然急停止してしまう。その出来事で混乱するというのに、その電車の外は何かおかしかった。

全く別の場所に居るのだが、その場所が妙に抽象的で理解がしにくかった。

「何だ、ここは!?」

「貴方、巻き込まれ体質なのね」

「君、一体何を・・!?」

「このラノベ主人公」

何故か少女は立ち上がるなりに僕に罵倒してきた。

僕は一体何かしたのだろうか。

「って・・」

向こう側から何かが電車に向かってやってくる。その速度は速く、その向かってくる物が何か分かる前に悲劇が起きた。

電車が突然やってきた何かによって真っ二つに両断された。

僕とレーヴァテインは無事だったが、ただあまりにも理不尽な暴力にはどうしようもできない。

「お久しぶりじゃないかしら、聖剣娘」

聖剣娘という謎の呼び方はともかく、破壊した電車の上に乗っているのはドレスと甲冑をあわせたような服をした少女だった。

右手には、普通の少女が持つには大きすぎる斧だった。

「誰?」

知らないのかよ、とレーヴァテインに対して心の中で叫ぶ。

斧を持った少女は頬をぴく、と上げただけだったが。多分、かなり怒っているだろう?

「その男は新しい貴方の持ち主じゃないの?」

「いいえ。ただの通りすがりよ。」

「通りすがり?通りすがりが偶然力を持ったソーサラーだと思ってるの?」

「えぇ。偶然力を持った人の隣に座ったら、突然話しかけられたのよ」

「ナンパ?うわ、きも」

突然いわれなき中傷を受けた気がする。

「まぁ、そこの変な学生はともかく、貴方はここで長い旅行生活は終わりよ。ミッドガルドへ帰りなさい、でなければ、ここで殴ってでも連行するわ」

「お断りするわ。どのみち、そのミッドガルドも興味は無い」

「戦闘能力が無いくせになにいきりあがってるのかしら。本当、貴方は馬鹿で最低のクズね」

「全く、過去を知っている人間ほど節操がないのね。ねぇ貴方、そんな人の持ち主がいいと思う?」

突然誰かに話しかけた。僕は少し妙に思ったが、その話した相手は大体察しがつく。

彼女が持っている斧だ。

「興味・・ない。暴力女は、暴行女・・・」

「なるほど」

「貴方たち、意味不明な会話をするのもいい加減にしたらどう?」

斧少女の方はあきれた様子だった。意味不明なのは僕も同感なのだが。

「結界の中から出しなさい」

「はぁ?」

「彼は関係ない。少なくとも、私の持ち主には相応しくない」

「何言ってるのよ。貴方もそいつもそう簡単に手放すわけがない。その学生が貴方を視認できる以上、それは既に運命共同体に相応しい。そうでしょう?」

「貴方は何を言っているの?」

「そいつを殺されたくなかったら私に従いなさい。さもなくば・・」

突然、レーヴァテインは空中に出てきた光、その中に手を突っ込んだ直後に走り出す。レーヴァテインが握っているものは剣だった。それもかなり重量があるはずが、彼女は一瞬にして斧少女の前に突っ込む。

剣を少女へ振り回す。それを回避され、逃げるまでもない斧少女が持つ獲物でつばぜり合いに持ち込まれた。

「一応言っておくけれど、前にも言ったわよね。本来、宝具である少女らに戦闘能力は無い」

斧少女の左手がレーヴァテインの腹にくいこむ。その衝撃で一気に数メートルも吹っ飛んでいった。

「おやめください。ミランダお嬢様。彼女を倒してしまうと、目的が達成できません。」

「そうね。じゃぁ、こうしましょうか。そこの貴方」

突然、少女は僕に斧で指す。

「レーヴァテインと契約なさい。そうすれば、彼女は本来の能力を発揮する。もし嫌であれば、貴方はここで死ぬ事になるかもしれないけど」

「いきなり何の冗談だ」

「冗談じゃないし。そもそも貴方の巻き込まれ方は運命じゃない?」

「意味不明なこと言うな!」

「そうかしら。でも、いい?この結界から出たいのなら、私を倒さないと無理よ」

そう言って、彼女は突然消えてしまった。


レーヴァテインは軽症だったようだが、無表情なせいで何を思っているかは分からない。

ただ、自分が結界を出る方法が分かるわけないので、彼女に頼るしかない。

「あいつが君と契約したらとか言っていたけど。どういう意味なんだ?」

「貴方が知る必要はない」

「・・あのさ、僕も一応人間だから、理不尽な行為で殺されるのは嫌なんだよ」

「だからといって貴方をマスターに選ぶ理由にはならない。もしそうすれば、間違いなく貴方を危険にさらす。だから、これは持久戦にするしかない」

「持久戦・・?」

「私をミッドガルドへ連れていくのが彼女の目的だとしても、今の私には本気を出せない。それに、彼女が今この世界に来た理由が分からない」

「話が見えないんだけど・・」

「要するに、私に構わないで。もしこれ以上話しかけた場合セクハラと判断して攻撃するわ」

「・・・・」

女の暴力だった。

それはともかく、これではどうしようもない。というより、何をしたらいいのか全く分からなくなった。

話しかけようとしてもセクハラとして判断されるのだから、下手をすれば前科持ちになる。

「面倒くさい」

人生最大の悲劇に見舞われた気はするが、今は何も行動しないほうがいいのだろうか。

しかし、行動しなかったとしたらいつまでもこのままの状態だ。

あの変な斧の少女も、そう簡単に平和的な手段を取りそうには感じない。



それから一時間超が経過した。全く喋らず、ただ座ってその場を過ごしていた。

この世界は妙な形をした生き物や自然物がたくさんあるのだが、落書きにしか見えず見ているとただ病んでしまいそうだった。

レーヴァテインの方は何ともなさそうだが、全く行動する気配がない。

このまま体育座りをして、本当にこの世界を脱出できるのだろうか。

「あの、もうそろそろ帰りたいんだけど」

「じゃぁ死ねば?」

「お前・・」

もはや誰も味方じゃない気がしてきた。

レーヴァテインは多分、頭がかなり駄目な子なんだろう。

「もう一時間も経って居る。このまま何もしないでどうするつもりなんだよ」

「なら永年ここに居なさい。どうせ、彼女と何も接点を持つ必要もない。貴方に、何も説明する気も無い。喋れば喋るほど事態が進行して結局、貴方を巻き込む。」

「俺はもう関係者みたいなもんだんだけど」

「違う。貴方は事故に巻き込まれただけ。電車の事故に遭って、偶然私に助けられたと思えばいい」

「事故っていうかテロみたいなものなんだけど」

「同じよ」

全然ちがうだろう。この娘は一体どういう生活をしたらこういう事を言うんだろうか。

「何もしなければいいっていうけど、あいつが行動に移さない理由はなんだ・・?」

冷静に考えたら、一時間も経ってどうして彼女はなにもしない、してこないのだろうか。

「私を壊したくないから。彼女はただ脅すしかない。結界の中に監禁して、私をミッドガルドに帰還させたいのよ」

「ミッドガルドって?」

「いうわけ無いでしょう?状況説明以外する必要はない。貴方はただの被害者であって、関係者ではないわ」

関係者以外立ち入り禁止みたいなものなんだろうか。

それにしたって拒まれ過ぎにも程があるんだが。

しかし、今以上何もしないでいるにはちょっと問題がある気がする。

「あの、レーヴァテインさん」

聞いても無言だった。

「もしこのままいつまでも居たら僕はどうなるんですか?」

「死ぬわ」

「っておい!?」

「このまま一週間もすれば貴方は栄養失調で確実に死ぬでしょう。私は聖剣だから、魔力で生きている以上問題はない・・」

「お前、実はかなり馬鹿だろう・・?」

「貴方が死ぬとすると・・私の目的は達成できるけれど、貴方は生きていけない・・??」

「く、どういう人生を歩んだらお前みたいなアホな子が出来上がるんだ!?」

「煩いわね。どのみち貴方が悪いのよ。しかし、困ったわね、この結界にある物を食べて、大丈夫かしら?」

「死ぬよ間違いなく!」

「まだ食べた事ないんでしょう?もしかしたら美味かもしれないわ」

そう言って彼女はその場にあったきのこをむしり取る。

「これとか、ちょっと禍々しいけどおいしそうじゃない」

「毒キノコだよなそれ」

「・・・・図ったなあの根暗ブス」

うわ、この子性格悪い。そして馬鹿過ぎる。

「あの、結界ってあいつを倒す以外に脱出する方法ってないのか?」

「無い。少なくとも、貴方と契約する以外は」

「契約してどうなるの?」

「私は貴方の所有物になる」

「所有物?」

「はっきり言うけれど、ミランダの言う運命共同体というのはあながち嘘じゃない。貴方は私を観測した以上、それは意図的に仕組まれたようなものだから。」

「誰が仕組んだんだ?」

「分からない。私たちはアカシックコレードと呼んでいるけれど、強く相性がいいソーサラーと宝具は非常に強い運命を定められる。だから、必然的な偶然が多発する」

「意味不明だな・・」

「えぇ。だから、私は意図的に貴方と組まない。何があっても、貴方を許せば運命は更に加速する。」

「じゃぁどうしろと?」

「そうね・・ミランダ・・あの斧女に対して貴方が言いくるめればいいんじゃないかしら」

「僕をどんな人間だと思ってるんだ・・?」

「・・・ミランダは貴方を殺そうとはしない」

「お前今無理やり納得させようとしてないか?」

「馬鹿な事を言わないでくれる?ミランダは実際、かなり男に弱い生き物だから」

「電車を横に真っ二つにしてるけど」

「あれが宝具の力だから。でもミランダ自身はただの女よ」

「お前はどうなんだ・・?」

「は?」

「お前は女だろ」

「一応言っておくけれど、私が彼女に対する一定の意識はかなり低いから。貴方たち一般男性の保有する同性同士の恋愛は不可能よ」

そういう意味じゃなくて、お前は女の子だから何かミランダの気持ちぐらい分かるだろうと言いたかったのだが。

何か悪かったんだろうか。

「それに、彼女はか弱い女だから」

「何処が!?」

「言ったでしょう?宝具の力だって。暴力女に見えるけれど、実質彼女は温室育ちのお嬢様だから、戦闘力は皆無。宝具がある限りはそうは見えないけど、中身は単純な女なのよ」

「お前、さっき根暗とか言わなかったか?」

「影の薄そうな令嬢ね。さっさと嫌な男に押し倒されればいいのよ」

うぐぅ、この子性格が悪すぎるよ。

と、時代遅れの喋り方したところで何か変わるわけないのだが。

「で、どうすればいいんだっけ」

「貴方、ミランダに対してこうすればいいのよ。突然彼女に出会って、乙女ゲーばりのセリフをいくつか」

「お前、それを普通の男子ができると思ってるのか?」

「大丈夫よ。ミランダは単純だから」

「お前はミランダに対して何か恨みでもあるのか・・?」

「無いわ。私怨はあるけれど、本当であれば普通の女の子として生きてほしいと思っていた。私が恨んでいるのはミランダが持っている根暗ブスの方よ」

「え?あ、あぁ。」

そういえば、あと一人登場人物がいたな。ミランダの事ばかり話していると思っていた。

ていうか、それにしても根暗ブスは酷いぞ。

「いつも包帯を顔に巻いているから、10年経っても素顔を見た事ないんだけれど。そういえば彼女自身は何処に居るのかしら」

「え?」

「私のように、宝具の鞘の役割をしている存在が居るのだけれど、彼女も私もその鞘として生きている存在はソーサラーの所有物となることで本来の能力を発揮する。この結界も、彼女の能力の一つにすぎない」

「じゃぁ、そいつを探し出せばいいんじゃないか?」

「・・・無理ね。彼女は私には合わない。きっと、かのうな限り遠ざかる」

「何で?」

「以前、私の元持ち主はミランダより前と契約したあいつと戦ったことがあって」

「名前を言えよ分からない」

「確か、原罪斧解現(テルテュリアヌス・カルマアックス)だったわね。久しぶりだから本当に忘れてたんだけど。別の名前もあるはずなんだけれど、人理系統の宝具は私には門外漢だから名前以外はよく知らないのよ。」

「じんり・・?」

「人間に関係する武器が昇華された宝具のことよ。私のような伝説に関係する武器と違って、威力には劣るけれどその代わり無数にあってね・・。人理、伝説、神代、この三つのどれかに宝具は区別できて、彼女はその人理の中でも非常に力が強く、神代に近づくことが出来る数少ない名品。テルテュリアヌスは人理系統の武器でありながら、伝説系統の武器と渡り合えるから私の前の持ち主は苦手意識を持っていたのよ。ただ、テルテュリアヌスの所有者がミランダに変わったおかげで、ある程度威力が抑えられているようだけど。油断はできないわ」

「レーヴァテインは、そのテルテュリアヌスに苦手意識を持っているのか?」

「前の持ち主がへっぽこなだけで私は彼女を圧倒できる余裕はあった。ただ、前の持ち主がね・・」

どうも、彼女自身の前の持ち主とやらはあまり戦闘が得意ではなかったようだ。

「でもあいつが死んで以来、居場所を無くした私は世界をさまよう事になった。一周して戻ってきて、私はこの世界にとどまっていた。最終的に誰かが追ってくるとは思っていたけれど、でもその時私は貴方に出会った。どういうわけか分からないけれど、貴方は私を所有する資格を持つほどの力があった。それは否定できない事実だけれど、それがある意味私には重荷になっている。

私はまた自分の所有者を殺すのか、そう思ってしまう」

「君の前の持ち主って、一体どうしたんだ?」

「レーヴァテインのような力は今の人よりもかなり昔に出来たものだから、過去に進めば進むほど力が増幅されるのよ。伝説系統の武器は元々過去に存在した人の武器で、それが文献なりに形を変えて力が増幅され、信仰されることでより力が定着化する。そして、その力が魔術回路として形成され、四次元を逆方向に突き進む事で回路が大型化されていく。時間が古くなれば古くなるほど、回路は巨大化され伝説系統の武器は何もしなくとも自動的に力が強くなっていく。但し、所有者にかかる負担も大きく、信仰を持たない場合は回路が所有者を殺すことになる。伝説系統は人理、神代よりかなり権限に厳しいから、所有者は武器を信仰しない場合、より強い呪いを引き起こすこともある。運命がより悪い方向へ進むことも少なくない。ある意味、人理系統の武器のほうがまだ優秀で使い勝手がいいのよ。」

大体、彼女がどういう存在なのかはよく分かってきたけれど、それが今の状況を解決するものではない。

ただ分かっただけで、解決に至ることができないのだ。

「だから、貴方は私と契約するべきではない。運命が要求するのだとしても、それを拒むことを選択することで得られる幸福もあるはず。だから貴方は、絶対に戦わせられない」

そう、彼女は言った。

レーヴァテインは自分の力を与えるには毒が強すぎるからと、最善手を自ら放棄したのだ。

分からないわけではない。しかし、それがある意味ミランダに勝つこともできなくなる理由にもなっていた。

このまま解決する手段があるとすれば、それはミランダに降伏することだが。

「私がミッドガルドへ大人しく行けばいいだけの事。それは分かっている。」

「ミッドガルドってどういう所なんだ?」

「・・宝具の管理会社みたいなものよ。ただ、その派閥もより多く、時に争いを引き起こす。」

そう言った直後、何か足音が聞こえてきた。

その重い金属の音がする方向、そこから出てきたのはミランダではない。

「随分時間がかかっているな。レーヴァテイン」

「貴方は・・」

双剣を持った男だった。レーヴァテインの関係者、なのだろうか。

「その男と契約するのだと思っていたが、何故こうも時間がかかるのか。まだ前任者の事を気に病んでいるのか?」

「前任者を殺したのは私だ」

「違うな。そもそも貴様は剣の鞘であり、宝具をより安全に格納するために生まれたホムルンクスだ。」

「黙って!それ以上は・・!」

「そこの学生にも教えてやろう。その少女はただ契約した相手に大いなる力を与えるだけの存在ではない。過去、あるいは現在、または未来に製造されたアーティファクト、錬金術によって作られた武器を取り込んだ精霊だ。その精霊はホムルンクスとして再生成され、今に至る。」

その男の背後から、また一人現れた。赤い髪の少女だが、彼女もレーヴァテインのような子なのだろうか。

「彼女を捕まえるのが重要。学生は無視してもいいから」

「何?いいのか?あいつは一応ソーサラー、精霊と契約できるレベルの魔術回路持ちだぞ」

「だから困るんだよ。ミランダには悪いけれど、学生の方は殺しても構わないわ」

「怖いやつだな。悪いな少年、大人の都合に巻き込んで」

そう言って、双剣を構える。

炎のようにギラギラとした剣に圧倒されるが、そもそも逃げ場などあるのだろうか。

「レーヴァテイン、どうする?」

「・・ふふ、あはははははは」

何で笑ったのか分からなかった。

ただ、突然の行動で向こうの男女も固まっている。

「そう、どうあっても私をミッドガルドへ連れ戻したいのね。いいわ、ここまでするのなら、私は運命に従う。ただし、最悪な方向へ引きずり込んであげる!!」

そうして、レーヴァテインの足元から剣が現れる。

「取って」

「え?」

「これはもう貴方も物よ。そういえば、名前を聞いてなかったわね」

「牧野、リオ」

「牧野リオ、覚えたわ」

向こう側から静止の声が聞こえたが、僕自身はどうにもならなかった。

正直、こっちにも意地がある。こんな意味不明な所にいつまでもいるよりは、行動したほうが自然ではないか。

右手で剣を取る。その剣の柄を握った直後、右手から全身にかけて電撃のようなものが走った。

これが契約なのだろうか。まるで剣と体が一体化したような感覚が起きて、何か大切な物までも繋がれたような気がした。

「あーあ。やっちまった。殺された方がマシなんじゃないかあいつ」

「あんたの行動が遅すぎるからでしょうが。さっさと攻撃すればよかったのよ」

「あのさ。俺はただの通り魔か?」

残念というか、どうにもならない状況ではあるが、僕自身は引かないことにする。

「これで、一応対等な関係だね」

「馬鹿を言え。場数という格差があるだろうが!」

右手の剣を振った。それにともない、赤く形成された魔力の衝撃破が発生する。

それを僕は見切り、何とか防いだがその男の突撃も止まず冷や汗をかく。

ある意味、むしろ戦わない方がマシだったのかもしれないが。しかし、この場合何をしても僕は死ぬのではないか?

この状況で一番の最善手があるのだとすれば、それは・・。

「いいから僕を結界から出せ!!」

剣に力を籠める。光が生まれ、その力場自体が振れれば大抵の物を一瞬で破壊する威力に達する。

自分が思った以上に強く、男は2、3回ほどその剣を受けた後に後退した。

「何だあの威力!?」

「チート・・」

今変な罵倒が聞こえたが、聞こえなかったことにした。

「威力だけなら貴方の双剣では勝ち目はない。命が欲しくなければ去りなさい」

レーヴァテインはそう言ったのだが・・。

「お前、あれだけ言っておきながら何で契約する方を選んだんだ?」

「気が変わったわ。」

そのレーヴァテインの表情を見た双剣を持った男と赤い少女の方はやっと理解した。

こいつは牧野リオを人質に取ったようだと。

「お前心変わり早すぎるんだよ!」

「最悪なホムルンクスだな・・」

どういうことなのか僕は一瞬分からなかったが、僕はどうも失敗を犯したようだ。

彼女レーヴァテインは最初から契約する気が無かったが、それはただ過去に引け目を感じていただけで最初から僕には眼中が無かったようだ。

つまり・・どういうことだ?

「黙りなさい。私はそもそも自由を謳歌したいだけです。誰にも束縛されたくないからここまで誰にも見つからず来たのに、どうしてほっといてくれないの!?」

「いや、殆ど兵器みたいなやつを自由に歩かせるほど世の中甘くないだろうが。おい学生、こいつ頭おかしいぞ?」

僕にまで非難が上がりそうな雰囲気だった。

「つまりレーヴァテイン、単純に聞くけれど、もしかしてあいつらは元仲間だったりする?」

僕はそう言うと、レーヴァテインは肩をびく、と震わせた。

「私は何にも束縛されないんだから!だから貴方は黙ってて私の言う事聞いてればいいのよ!前の人はそうだったのに、どうして皆を追ってくるわけ!?」

「えー」

つまり、こいつは・・。

「ニート志望の宝具ホムルンクスとかむしろ潰したいぐらいなんだが。でもレーヴァテイン、お前を自由にするには力があまりにも強すぎる。管理されるされない以前に、そんな核兵器級の危険物を自由にできる奴がわけないでしょ?」

赤い少女は諭すように言った。

しかし、だ。

「リオ、この人たちを殺りなさい」

「うぐぅ」

「何?返事が聞こえないんだけど?」

「お前、ようするに働きたくないから逃げてたんだよな」

「要約しすぎよ。私は世界の束縛から解放される道を選んだの」

「同じだ!」

馬鹿だとは思っていたがまさかここまで馬鹿だとは思っていなかった。

「いい?ミッドガルドは悪の手先だと思っておけばいいのよ」

「おいそこ、人を悪人にしてまでやることか!?」

「リオ!聖剣を最大魔力で展開して!この結界ごと奴らを吹き飛ばすのよ!」

「この馬鹿ホムルンクス!!何血迷った事ほざいてるのよ止めなさい!!」

そうは言ったものの、何故か意識してもいないのに勝手に剣に光がともった。

激しい振動が生まれ、魔力による暴風が吹き荒れる。

「な、勝手に、なにこれ!?」

「早くしなさいリオ!!自爆したいの!?」

脅迫以外なんでもなかった。

「くそ、どうにでもなれぇぇ!!!」

「退避するぞ!」

「いやぁあああ!?」

どっちが悪者なのか分からなくなってきた。

光の発光量も凄まじい事になり、その光景は幻想的ではあった。

両手に握っている剣の許容魔力が最大値に達した後、僕はできるだけ逃げる二人に直撃しないように、結界に向けてその力を発射した。

ごめんなさい、悪気な無いんです。と言いながら、彼の言う核兵器級の力を自分の手で実感したのだった。



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