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楔荘 序~七罪と戦争~  作者: 智額 護/作者 字
33/34

第三十一話 王の贐

 本支部極機密部「Contradiction of house」――

「……ん、んん……」

 目を覚ました甲殻は寝返りをうつ。我に返って、勢いよく起き上がる。

「どこだここ!?」

 どことなく昔住んでいた王宮に似ていた。

「ちょっと違う……」

「何が違うんだ?」

 枕元に立つ小町を見た甲殻は少し眺めていたが、急に立ち上がり、

「巫女! てんめぇ!」

「お前には裁判に出てもらうぞ、もちろん裏方のな」

「は?」

「お前は犯罪者だ。だから……」

「じゃあ関わっていたお前はどうなるんだよ」

「……私も、一応な」

「なぜ裏切った」

「お前の行動に飽きれたからだ。私は研究のためにお前に手を貸した、だがお前は殲滅しかしなかった」

 甲殻は押し黙って足元に視線を落とす。小町はため息をつき、

「大王。いや、甲殻。お前の名が決まったぞ」

「名前……?」

「矛盾は全員とうの昔に一度死んだ者だ。死んで生き返ったのに、また同じ名前を使うのは契約違反だからな」

「なんの契約だ?」

「覚えてないのか……。矛盾になるための、神との契約」

「はあ」

「今度そのレポートを見せよう。……ちなみにお前の名は禊が考えた」

「は? 今、アイツは口が開けない――」

「お前の存在を知ってから付けた」

「矛盾の俺をか……?」

「あぁ」

「はなから殺すつもりはなく、仲間にするつもりだったのかよ……」

 甲殻は力なく笑う。

「よかったな。人を信じれないお前を誰も信じなかったのに、唯一お前を信じてくれる奴がいて」

「くっ……」

 甲殻は静かに涙を流した。

「お前の名は尊だ」

「尊……」

「由来を聞きたいか?」

「あぁ」

「禊が今はまっている、BL……薄い本のキャラクターからとったそうだ。両生類の忍が、たまたまそのキャラと同じでな。……クスッ」

「おい、びーえるって何だ。薄い本?」

「あぁ……そのうちわかるように……フフックスクス……」

「何がそんなにおかしいのだ!?」

「す、すまない……。本当の意味は本人に聞いてくれ……これから会議が……」

 小町は笑いながら、スマホとタブレットを尊に渡す。

「最新機器だ……取扱い説明書も渡しておこう……頑張れ……」

「お前、大丈夫かよ……」

 小町は部屋を出た。

 窓の外から小町が大笑いする声がした。尊は困った表情で窓の方を見ていた。

 とりあえず説明書を読んで、使いこなしてみる。

「……なるほど、こんな機能も……。俺が使っていたもの以上だな」

 組織のネットワークの個人の業務ボードを見る。

 すでに一つ業務が乗っていた。

「……本支部機内、行動自由。ただし、やたらに機器をいじらない。規則を守る。後は支部内のルールに従う事」

 ベッドから降り、置いてあった服を着た。

 本支部第三ホール――

「うわ、なんだここ……」

 尊は、第三ホール研究機関の第五研究棟、大型保管室に来ていた。

「尊!」

 小町の声が響く。

「巫女、ここはなんだ?」

「巫女と言うな、小町だ。ここは禊の研究をしている」

「禊!?」

「あのでっかい人型がそうだ」

「うわ……臓物が……」

「お前の心臓に触れた衝撃で吹っ飛んでこのざまだ。ったく、お前のせいで大赤字だ」

「んなこと言われたって……」

「今、バラバラになった部分をつなげる作業をしている。大体繋いであとは蘇生液にでも漬けておけば回復する」

「臓物並べただけって感じなんだけど……」

「あれで回復できるそうだ」

「お、おぉ……」

 尊は状況が呑み込めない様子で、窓のうんと下に横たわる巨人を見つめた。

――プシュー、プシュー……

 呼吸機の音が響く。

「でも、禊は力の元の腕を切り取って地球外に追い出したのに、何で戻ってこれたんだ? しかもビーストモードの巨人で」

「お前はタチキリを改造したと言っていたが、タチキリは改造されたふりをしていたんだぞ」

「え!?」

「しかも対矛盾弾を持たせて……あれでは回復して攻撃しに来てくださいって言ってるようなもんだぞ」

「え、対矛盾用って……」

「元は禊の腐敗させた血液等から作っている。それで回復したんだろう」

「え、じゃあ俺は……」

「小町さん、結果出ました」

 研究員が小町を呼ぶ。

「ご苦労。あと何パーセントだ?」

「えぇとですね――」

 小町は実験に戻った。

「そうか……全て読まれていたんだな。全く、駄目な大王だな」

 尊は悔しそうに微笑み、背を丸めてその場を離れた。

 少し歩いて、またスマホを確認する。矛盾メンバー表があったため、中を見てみる。

「へぇ……案外そろってたんだな」

 嫌好に電話を掛ける。

「あ、嫌好か?」

『甲殻か……』

「俺は甲殻ではない、尊だ」

『あー、そっすか。んで?』

「忍は今どうしている?」

『なんだ恋かストライキか?』

「は?」

『……学校だよ、高校は卒業したいんだそうだよ。つか、怪我させた本人が見舞いも謝罪もしないとか、マジありえねぇ』

「あー……すまなかった」

『別にいいよ。禊と仲良くなってくれるなら許す』

「お前……俺のこと覚えてるのか?」

『一応。どういう繋がりだったとか、過去にどんなことしたとかは全く覚えてねぇけど』

「ふ~ん」

『用件はそれだけか?』

「え、あ、うん」

『そう、じゃ眠いから寝る』

「あ、おやすみ……」

 通話が切れた。

 業務ボードを確認してみると、新しい仕事が入っていた。

「亡くなられた名無しの葬儀運行……」

 尊はハッとした。

「そっか……元は俺が原因だもんな。俺がアイツらに出会わなければこんな事にもならなかったし、アイツらもこんな過激な思考にならなかったんだ。……全部、俺の責任だな」

 目に涙が浮かんだ。

「……ごめん……」

 その後、名無しの件は政治的な問題となったため、国連に任せることとなった。

 尊は人間用の牢に入れることはできないため、組織により完全な力の拘束と監視をすることとなった。

 そして、世界各国から本支部機体の修理のために、貴重な物から雑貨まで、様々な資源が贈られた。元通りに本支部を修復し組織もある程度作り変え、組織名を「異能管理平和維持戦争防止組織:Unusual ability management Peacekeeping War prevention Organization」略してUPOと変えた。


――――――。


 矛盾たちは死んだ名無しの墓に来ていた。

「生き返らせることはできなかったのか?」

 尊は申し訳なさそうに禊に尋ねた。

「死んですぐだったならまだ大丈夫だったかもしれないが……すまない」

「俺は無力だな。自分には力があると過信していたが、所詮は一人の人間だ」

 尊は悔しそうに足元に目を落とした。すると小町はいつもの冷ややかな声音で、

「人間は皆、自分を守るのに精いっぱいだ。なのに抱えきれない大事な人を守ろうと自らを犠牲にしようとする。それでいて本能は自分を助けようとする。矛盾で愚かなことだ」

「ふざけんな!」

 尊は小町につかみかかった。

「俺は……アイツらの願いを叶えたかったんだ! ケチで薄汚い富裕層に虐げられて惨めな思いをしているアイツらを救って――!」

 小町は雑魚を見る目で尊を見下す。

「それはお前の思いを押し付けただけなんじゃないのか?」

 尊は思い返したように手を緩める。

「誰かの願いを叶えて幸せにしてやりたいと言っているが、結局は己の願いでしかない。迷惑な事だ。他人の願いだと過信していたんだ」

 尊は足元から崩れていく。

「お前はもう王族ではない、ましてや普通の人間でもない。矛盾に人権などない、半分害獣にしか過ぎないのだから……」

 小町は手に持っていた花を墓に置くと、さっさとその場を離れた。

 禊が心配そうに尊に寄りそう。

「禊、そんな奴に情を移して何になるんだよ」

 嫌好の目もまた、非情だった。

「何でそんなに尊に冷たいんだよ」

「そいつはそれだけの事をしたんだよ。それに情を移して何になる」

 禊は尊の顔をもう一度見る。

「確かにメリットはないかもしれない。それでも、仕方ないじゃないか。同じ仲間を無下にする必要もまた無いだろ……?」

 嫌好は舌打ちをした。

「何で……何でそんなに優しくするんだ」

 尊の声は泣いていた。

「榊、嫌好」

 言葉は榊と嫌好に目くばせすると、三人でその場を後にした。

「……お前、予言を見つけたんだろう? その通りにすれば少しでも世界が良くなるんじゃないかって、そう思ったんだろ?」

 禊の言葉に尊は顔をあげる。

「予言ってのは、時のスタート地点にいるときはその中から正しいと思うものを選んでその通りに事を運んでいたが、ある程度進んでしまうと、過去の選択肢は過去のものにすぎず、今使うべきものじゃないんだ。確かに使えないこともなく、過去のものを元に今のものを作り上げることだって可能だ。……だが、過去は過去に過ぎないんだ。それに、その予言は独りの理想と価値観でしかない。それをこの世の理想と読み取る者もいれば、空虚で無駄な妄想に過ぎないと読み取る者もいる。でも明らかに、お前の拾った予言はもう使い古したものに過ぎないんだ」

「……意味、分かんねぇよ……」

「要するに、予言なんかに頼るな。これだと思ったものを信じろ。失ってからじゃ遅いんだから、失う前に対策を打て。失ったなら悔やむのではなく新しいものを探せ。同等のものじゃなくったっていいんだから」

 禊は尊に手を差し出した。尊は鼻をすすり、

「俺を、許してくれるのか?」

「最初っから恨んでもいないし、許すも許さないも理由が無いよ」

 禊の手を取り立ち上がる。

「強いて言うなら、今後ずっと手伝ってくれるなら許すよ」

「……なんでそう簡単に許してくれるんだよ……」

「お前は泣き虫だな」

「俺はお前の仲間も殺したんだぞ」

「そうだな。悲しいさ、とても。でも、泣いちゃいけないんだ。何かがそれを許さないんだ。それに、もう泣けないんだ」

 禊の悲しそうな顔に、尊は涙を袖で拭う。

「さあ、花を手向けよう。誰の良し悪しなんて決めていたら切りがない、みんなの責任でいいじゃないか」

 二人で墓に花を手向けた。

「……ありがとう……」

 尊は黙祷すると、墓に背を向けてその場を去っていく。

「御神よ、彼等を許したまえ。どうか彼等に安らぎを……」

 禊は空を仰ぎ見て、その場を後にした。

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