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楔荘 序~七罪と戦争~  作者: 智額 護/作者 字
28/34

第二十六話 お茶目

 コンビニのバイトから帰ってきた時だ。

「ただいまー……」

「七穂ちゃーん!」

 突然誰かが私に抱き付いた。

「え!?」

「助けて!」

 顔を見て驚いた。髪は怨さんの様に黒くて、ケイと目元が似ていて、顔の形が禊子ちゃんに似てかわいらしくて……。

「禊! さあこのメイド服を着て!」

 身長は168センチくらいで……。

「やだ! 絶対いやだ! バカ! 変態!」

 まるで、あの七人全員が、この一人から見えるような。

 嫌好がこの子のお腹に腕を回し、私から引きはがそうとする。

「お願いだよねえってば! ゲームに勝ったらいう事聞いてくれるって言ってたじゃん!」

「お前にそんな性癖が出来上がってたなんて聞いてねぇよ嫌だよ!」

「性癖だなんてそんな卑猥な言い方しないで! 愛と呼んで!!」

「愛じゃない! 絶対愛じゃない! ねえ嫌好お前何でそんなに怖いの!? 怖いよ!! 笑顔が怖い!! 可愛い昔のお前はどこ行った!?」

「大丈夫怖くないから! ねっ? だから七穂から手を放して! ほぉら全然怖くなぁ~い! 怖くなぁ~い!! 今も俺は十分可愛いから! ほら言って! 嫌好可愛い! 大好き! 可愛いって言えェェ!!」

「それが怖いんだって! 嫌だ女装の趣味なんて持ってねぇよ!」

「禊なら絶対似合うから! 大丈夫! 俺が保証する!」

「お前の保証なんていらねぇよ!! うわぁぁ~!!」

 お尻をフリフリさせながら暴れる二人が可愛いです……。神様、罪な私に罰と褒美をください。

「こんのエロダコ! パパりんから離れろぉ!」

 騒ぎを聞きつけた琉子ちゃんが走って来て、回し蹴りで嫌好の頭を蹴った。


 今日の晩御飯は琉子ちゃんとあの子が作った。

「ん! パパりん料理上手!」

「琉子も腕が上がったじゃん~」

「あ、あの、この方は……」

 恐る恐る成則さんに問うと、

「あぁ、そうでした。この方が本支部長で組織長の、五月雨 禊さんです」

 ……え!? じゃあ、戻ってきたってこと?

「お、お歳は……」

「約2000歳。でもさあ、色々計算していくうちに1500歳くらいらしくて……」

 禊さんが口を尖らせる。

「……あ、俺の事は禊で構わねぇぞ。今ならさらに、女性限定でちゃん付けを許可する!」

「あ……えぇ……」

 稔が困惑していると、

「みのっち、アンタは様付けしなさいよ」

「せ、先輩!?」

「いや、稔は呼び捨てで構わないよ」

 禊さん……呼び捨てでいっか。禊がじゃがいも料理を頬張る。

「まんべもひふもんうへうへうお。まあ、ほひいぬごくひほうほうはいえまんごふぁっ、ゴクン。いいな?」

「何言ってるかわかんないです!」

 稔の眼鏡が吹き飛ぶ。

「『何でも質問受け付けるよ。まあ、本部の極秘情報は言えないんゴフッ、ゴクン。いいな?』だって」

 さすが琉子ちゃん、人の思考を読める能力。

 晩御飯が終わって、杏仁さんからもらったお茶を飲みながら、屋上にみんな集まって話をした。


 朝――。

 目覚まし時計の絶叫を止めて、顔を洗い、ダイニングに向かうため階段を下りていく。

 ダイニングのドアを開けると、

「おはようございまー……うっ」

 目の前の光景に、思わず引いた。

「禊~」

「あぁもう! くっつくな! 邪魔! 鬱陶しい! お前凄い鬱陶しい!」

 キッチンで料理をしている禊に抱き付く嫌好。

「いいじゃん。だって俺、禊の奥さんだもん」

「だったら家事手伝えや」

 奥さん!?

「そういえば、もう一人の奥さんは?」

 嫌好が鍋の中を覗き込みながら訪ねると、

「俺には一人しかいないぞ」

「え、それって俺……」

「お前じゃねぇバカ」

 一夫多妻……? いや、一夫多夫? え……。

「って嫌好バカ! お前どこに手ぇ突っ込んでんだよ!?」

「えぇ~、いいじゃんいいじゃん」

 嫌好は嬉しそうに手をモゾモゾと動かした。

「も~やだ~! 琉子助けて~!」

 すると、私の後ろから何かが颯爽と飛び出した。

――コォォォン!

 琉子ちゃんがフライパンで嫌好の頭を叩いた。

「パパりんから離れろタコ!」

「痛! やめろ! あたりめにする気か!」

「バカバカバカバカバカバカ!!」

 琉子ちゃんはボコボコと叩く。


「――あ、パパりん、ジャム取って」

「ん」

「俺の朝飯は……?」

「んなもんねぇよ。お前が邪魔するから、一人分作り損ねた」

 嫌好は膝を抱えて、部屋の隅で小さくなって座っている。なにかブツブツ言ってる。

 琉子ちゃんが嫌好に向かって舌を突き出す。

「ベーーっだ!」

 そういえば、禊は七人が一つになったけど、何がどう変わったのかな。

 ちょっと観察してみることにした。

 朝ご飯が終わると、洗濯物を畳む。

 怨さんと変わらない……あ、嫌好が背後に。琉子ちゃんに凹されてる。

 掃除。これも怨さんと変わら……

――カッ

 足の小指をぶつけたらしく、足を抱えて苦しんでる。

 昼食の準備。皿を並べ……

――ゴッ

 腰の横を机の角にぶつけた。震える手で皿を机に置いて、腰を押さえる。

 洗濯機を回す。洗濯物を取り出し、入れ……

――カンッ

 頭を洗濯機にぶつける。ハゲると言いながら頭をさする。

 新聞の広告を切ろうとして……

――サキッ

 指を切って、床に血が垂れる。

 雑誌のページをめくろうとして……

――スッ

 指を切る。

 榊の部屋、地下の入り口のドアをくぐろうとして……

――ガッ

 額をぶつける。かがんで行きなよ……。

 移動すれば、低い机にスネをぶつける。花瓶を足に落とす。花瓶は無事、足は負傷。

 結果。

 注意力が散漫になった事が分かった。それから、私がちょっと部屋に行って帰って来た時だった。

 禊が縛られてる。いや、意味深な事じゃなくて。

 腕を後ろにまわされ、手には手錠が掛けられて椅子に座っている。

「お゛い嫌好! このバカ! なんだよこれ! 外せっ!」

 椅子ごとガタガタと暴れる。

「ごめんね、禊。禊が今まで以上に弱いから、ちょっと鍛えてあげようかと……」

「超迷惑!」

「だって、猫とケンカして負けてるんだもん」

 あぁ、あれか。さっき見たわ。

 嫌好が麻縄を両手で持ち、怪しい笑みを浮かべる。

「え……ちょ、嫌好、ま、待て。は、話し合おう! うん。穏便に、な?」

 禊が焦りだす。

「じっくりと……ね?」

 ガスマスクをかぶせられた禊が、椅子に縛り付けられガタガタと震える。

「ふぅ……」

 嫌好は清々しい表情で額の汗を拭った。ふぅ、じゃないよ!

「どうしよう、琉子ちゃんは買い物でいないし……」

「だからこそだよ」

 ガッツポーズをするなっ。

「ねえ禊、今どんな気持ち? ねえ、どんな気持ち?」

 笑みがこぼれてるよ。大丈夫かよこれ。

「だ、大丈夫なの?」

 恐る恐る嫌好に聞いてみると、

「ダメだと思う」

 えぇぇ……。

「……俺が」

 君かよ!

「叫んだりしてないけど、息できてるの?」

「多分できてない」

「え!?」

「禊の手首、手錠と麻縄で縛ってあるでしょ。あれのおかげで恐怖のあまり声が出ない状態」

「大丈夫なの!?」

「知らね」

「あと何で首輪ついてんの?」

 嫌好はニヤリと笑って、

「俺の趣味」

 うわぁ、なんて嫌な趣味。

 一時間くらいして嫌好がアイスキャンディーを持ってきた。

「ヒッヒヒヒ……」

 もう笑い方が……。

「さぁて、この半分溶けたアイスを食べてもらおうか……」

 ガスマスクを外す。

「嫌……こ、う……」

 禊の顎はガチガチ言って、何も話せない状態。

 ……ってそのアイスキャンディー、ミルク味!

 ダメ! 意味深すぎるよ! 腐女子の私にはこの後の展開がすべてわかる! やめてあげて!

 だが嫌好は何の躊躇もなく、そのアイスキャンディーを禊の口に突っ込んだ。

「ん゛!?」

 もう、嫌好の顔には影がかかって表情がうまく読み取れない。

 アイスを抜き差しする。

「かわいいよ~、禊ぃ……!」

 この上なく嬉しそうな声だ……。

 禊の膝の上に溶けた白いアイスが垂れる。顎から首筋にアイスが伝う。

 その時、フッと嫌好の上に影がかかった。

「――琉子~! 怖かったよぉぉ!」

「よしよし、かわいそうなパパりん。怖かったねぇ」

 禊は琉子ちゃんに抱きしめられ慰められる。大きな胸に顔をうずめて……。

「あぁ、パパりんが……パパりんが泣いてる……かわいいよぉ……」

 琉子ちゃんは顔を赤らめ、嬉しそうに禊の頭を撫でる。

 ここにも危ない人がいる!

 その後、嫌好はプリズンと言う名の本支部へ護送された。

「何で! うおお離せ!」

 アーサーさんに抑えられ、嫌好は叫ぶ。

「離さねぇよ。よくも僕らの父さんに手ぇ出したな」

「出したな」

 アランさんとフラン君がサングラスをかけてガムを噛んで、拳銃を突きつけていた。

「向こう着いたらどないなるかわかっとんのかアァン!?」

 アーサーさんのヤクザ感半端ない。

「まあいいさ、これで貴様の研究が進む……」

 マーリンさんが注射器を取り出す。顔が怖い……。嫌好に謎の薬品を打ち込むと大人しくなった。

「な、何を注射したんですか?」

 気になって訪ねると、

「麻酔だ。運んでいる間は大人しくしてくれるだろう」

 アランさんとフラン君は嫌好の顔に落書きをし始めた。

「おでこに肉って書いてやる!」

「鼻にリコリスキャンディー通しとこう」

 子供っぽい悪戯だなぁ……可愛い。

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