第二十三話 どうしたの、お菓子食べる? それともお酒?
夏休みになりました、七穂です。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。
楔荘の住人が減りましたが、減った分二倍になってやってきました。
「ちゃおちゃおちゃおちゃおちゃお~~~!!」
「アランうっざ……」
フラン君は座布団でアランさんを叩いた。
「Hello! Summerだねぇ! 今日はホラー映画のDVDを持ってきたよ!」
オースティンさんがDVDを机に広げた。
「夏言うたら海や海! いや、肝試し……」
アーサーさんが懐中電灯で顔を下から照らす。
「うるせえ! おめぇらうるせえ!」
杏仁さんが湯のみを持ったまま怒鳴る。
……この通りです。各支部の皆さんが遊びに来てくれました。
――数時間後。
「ね~ひまだよぉ。……あ、ねぇねぇフラン、アルプスイチマンジャクやろ!」
「え~、アランとぉ?」
「ね~ぇ~やろぉよぉ~。ねぇ~!」
「うるさいなぁ! ……わかったよ……」
「わ~い! いっくよー。セッセーノ、ヨイヨイヨイ……」
―― 1時間後。
「近所のおばさんから野菜もらったんだけど、どう調理しよっ……えぇ!? まだアルプスやってたの!?」
稔が驚きの余り手に持っていた袋を足の上に落とし、足を抱えて床にうずくまる。
「ゼー、ゼー、これ、意外と体力使……ウップ……」
「ぁ……ぁぁぁ……」
アランさんとフラン君が苦しそうに横たわっている。
「いやもう止めよ!?」
「てか、アンタらいつまでウチにいる気? さっさと帰って」
琉子ちゃんはなんだかご機嫌斜めです。
「えぇ~」
アランさんは悔しそうに声を上げた。
「マジ迷惑」
「Oh……」
オースティンさんは悲しそうに肩を落とす。
「ほら! 帰った帰った!」
「ほな、俺帰るな~」
アーサーさんは嬉しそうに立ち上がる。
「マカロニコンビもよ!」
「琉子怖い……」
フラン君は座布団を頭にかぶせて小さくなる。
アランさんがヘラヘラ笑いながら、
「あんまり怒ってばかりだと、小じわ増え――」
「――あれ、アラン大佐、どうしたんですかその傷?」
「え? あぁ部下Aくんか。うん、ちょっとね……」
アランは頬の大きな絆創膏をそっと撫でながら、死んだ目でウサギ小屋にエサを撒いていた。
「フラン大佐、どうかしましたか?」
「もぉやだ……お嬢怖すぎ……」
組織で強いヤツ順
・怨たち七名とか
・琉子
・マーリンとかマカロニコンビ以外の各支部長。>>>>>>>>>>マカロニコンビ
つまり、マカロニコンビはマカロニのようにもろく、弱いということ。
「うわぁぁぁん! たんこぶいたいよぉぉぉ!!」
「はいはい大人しくしろ。動いたら薬が塗れないだろうが」
大泣きするアランにマーリンはため息をついた。
――――――。
――ピンポーン
インターホンの音が楔荘に響く。
「はーい」
玄関を開けると、もの凄い形相の外人さんの男の人がこちらを睨んで立っていた。
「あ、あぁぁ……あのぉ……」
私は身を縮めて顔を見上げた。
「……おんまえはJapaneseか。なんら、ここは日本か」
「え……?」
「ボスはどこだ!?」
「ひぃぃぃぃ!!」
急に怒鳴られた。
「んも~、うっさいでー。なんやねん……」
私の後ろからアーサーさんが出てくる。
「お」
「あ」
外人さんとアーサーさんの目が合う。
すると、アーサーさんと外人さんは地面にうつぶせになり、いきなり腕相撲を始めた。
「久しぶりやないかアフリカ支部長エジプト担ジョー!」
「こっちこそ! 久しぶりにおんまえに会えてえがったけ! 文化研究委員会委員さんよぉ!」
な、何なのこの人……。
外人さんがアーサーさんの腕を一気に地面に叩きつける。
「かぁぁ!」
「わしの勝やぁ!」
「おっさん、あんま若ぁないんやから無理せんといてやぁ」
「こんなもん、序の口じゃけぇ」
外人さんが歯をむき出して笑う。その歯は全部キンキラ金だった。
「……あ、七穂ちゃん。こんおっさんはアフリカ支部長のジョーや」
「お嬢ちゃん、さっきは驚かせちまったけぇ。ゆるしてぇや」
ジョーさんは二カッと笑う。
「お、そうじゃけぇ。ボスに頼まれてぇ、エジプトのお菓子持てこい言われっとげ」
ジョーさんがクシャクシャになった紙袋を差し出した。
「あ……ありがとうございます……」
「んじゃ、けぇるかぁ」
「え、もう!?」
「わしゃまだ仕事残っでんげぇ。てて棒になっけくんだいねびねび、夜更けまでめめこすっでパソコンにらめっこしぢゃ、あっだまふみづげっどぐれぇいだぐっで、もう、ねぶうのなんのごっだい、ふあぁぁ……んだ、口あぎすぎて、顎はずれっがおぼうげっちょ……」
「ジョー、なに言ってっかわからんわ。なまり過ぎやで~」
えぇと……。
「つまり、仕事が終わらなくて残業ばっかで眠くてしょうがない、ってことけ?」
「んだ」
一体どこの言葉を話してたんだろう……日本語のはず……。
しばらくして、ジョーさんは帰って行った。
紙袋の中を覗くと、
「お、バスブーサやん。これあっま甘いで」
アーサーさんが紙袋の中を覗きながら言った。
「そうなんですか?」
「エジプトの伝統お菓子らしい。あんまようわからんが」
「ふ~ん」
「俺、チュロスしか知らんし」
アーサーさんが緩く笑う。
各支部の皆さんのおかげで、たくさんの世界のお菓子や料理やお酒を知ることができた。
「なんだか世界旅行にでも行った気分です」
「旅行?」
「皆さんのおかげですね。美味しいお菓子に、珍しいお酒。不思議な料理もたくさん食べました。なんかもう、今更留学とか海外旅行とか行く気になりませんね」
「そうか? 世界には案外知らないことだらけだったりするぞ」
アーサーさんは元気に笑った。
「七穂、お前はもっと世界を見ろ! お前にはもっと見てもらいたいんだ。もっと知っててほしいんだ。だから、その……ガンバレ!」
不器用ながらも、アーサーさんの言いたいことがなんとなくわかった気がした。
「そうですね。こんなところで終わった気になってちゃダメですね!」
「おう!」
二人でグータッチをすると、思わず笑い合ってしまった。
ところで、ジョーさんの日本語が大変なまってたけど、どこの方言なのかな……。




