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楔荘 序~七罪と戦争~  作者: 智額 護/作者 字
20/34

第十八話 Hero in the Poor!!!!

「プール!」

 夕飯時だった。急に禊子ちゃんが立ち上がり、そう叫んだ。

「おぉう禊子、ほ、発作か?」

 ケイは思わず投げてしまったフォークを拾いながら言った。

「違う違う! ボク、一度もプール行ったことないもん!」

「そっか……禊子、人苦手だもんね」

「うん……」

 禊子ちゃんはしゅんと下を向いた。

 するとどこからともなくオースティンさんが現れ、

「それならこの俺、アメリカンヒーローに任せたまえぇぇ!!」

「うわうっさいウザい引っ込め……」

 フランが耳を押さえてオースティンのスネを蹴ったが、かゆがる様子もない。オースティンさんは自慢げな顔で自分自身を親指で指し、

「俺んトコのプール使う?」

「いいの!?」

 禊子ちゃんの顔が明るくなる。

「明日は日曜だし、行くか」

 そう言って怨さんが腕を組んで頷いた。

「え!?」

「本支部経由で行くか」

「じゃ上で待ってるね!」

 オースティンさんは怨さんに向かって親指を立てた。

「まじありえない……」

 フランがポカポカ叩くが、全く微動だにしないオースティンさん。

 アメリカ&北欧退場。


 翌日――

「わぁぁぁぁお!!」

 アメリカ支部のプールに禊子ちゃんが興奮する。

 アメリカ支部は五大湖の中の特にヒューロン湖の水中にあり、たまに水上に上がるようだ。

「おっきい!」

「Welcome! ようこそアメリカ支部自慢のプールへ!」

「オースティン。感謝する」

 怨さんが手を差し出す。するとオースティンさんは少し照れた様子で、

「父さん、そんな固い言葉はやめてくれ」

「父さんと言うなと言っただろう。もうお前の上司なんだぞ」

「別に良いじゃないか!」

 太くたくましい手で、比べてしまえば細い怨さんの手を強く握った。

「禊!」

 嫌好が怨さんに飛びつく。

「うぉっ……嫌好、急になんだ」

「ほら、ウォータースライダー。早く」

「あ、ちょ、引っ張るな……!」

「あ~ん、パパりん拉致られたぁ! せっかくのおニューの水着なのに……」

 先輩がこちらを見つめる。

「な、なんですか……?」

「べ、別にアンタにほめられたいとか、見てほしいとかボッ……」

 わかりやすいな~。

「みのるみのる!」

 禊子ちゃんが俺に駆け寄る。

「ん。どうした?」

「ボクの水着……どうかな。かわいい?」

「うん。かわいいよぉ」

 やばいマジでかわ……

「禊子を性的な目で見てんじゃねぇよ」

 表子さんがゴミ虫を見るような目で俺を睨んだ。

「みみみ見てませんよ!?」

「え……見ないの……? グスン」

「ほーら、稔が禊子泣かした~」

 理不尽!

「この水着ね、りゅーこが昔使ってたのなんだって」

「へー」

「名前はね、裏拏が書いてくれたの!」

「そうなんだ」

 禊子ちゃんの胸には、墨文字のひらがなで書かれた白い布があった。

 字体が……。

「か、かっこいいね……」

「吾輩の自信作だ」

 裏拏さんが腰に手を当て、相変わらずの真顔だが少しうれしそうな顔をして立っていた。

 すると先輩が小馬鹿にするように笑い、

「裏拏ー、アンタ、ウェットスーツって……ダサ」

「この方が防御力もあるし、動きやすいぞ」

 さすが裏拏さんです。

「防御も何も、誰もアンタを襲いはしないわよ」

 表子さんが高らかに笑い、

「まあスク水よりは似合ってるんじゃないかしら?」

 豊かな胸を重そうに腕で支えて見せた。裏拏さんがめちゃくちゃ怒ってるのが表情ですぐわかった。

「わ~ぁ!」

 禊子ちゃんがウォータースライダーを滑走と滑る。

「ふぅはははは! 榊! これでも食らいやがれ!」

 ケイが水鉄砲で榊を攻撃。

「ぎゃー! やーらーれーたー」

 見た目は大人でも、中身がガキのケイ……。

「よいしょ」

 嫌好の背中から触手がヌヌヌと出てくる。

「うおー! 嫌好嫌好! でっけぇ波でも起こしてくれ!」

「ちょうどそのつもりだった」

「おい、嫌好、止めとけ……」

「大丈夫だよ、禊!」

 嫌好の変わらない表情は自信に満ち溢れていた。

「その自信はなんだ」

 怨さんがザブザブと水をかき分け嫌好に近づく。

 嫌好が触手を伸ばし、プールのはじからはじまで伸びる。

「おい、嫌好、ちょ……」

 嫌好の左目が光る。

「よっ!」

 大きな波が襲い掛かった。

「フリーダーーーームッ!」

 オースティンさんが波に乗って叫んだ。


 プールサイドで嫌好が正座させられ、髪から水の滴る怨さんが説教をする。

「ガミガミ……」

 嫌好が小さくなってる……。

「全く、君たちはとっても面白いね!」

「そんなことな――」

 振り返ると、オースティンさんがふよふよと浮いていた。

「え゛っ!?」

「ん。なんだい? あぁ、これな。大したことないから。気にしないで」

 大してるよ!!

「え、え、え、宙……え、浮いてる?」

 オースティンさんの下に手をやる。

「何もならないぞ」

「え、えぇえ?」

「これは能力なんだよ」

 なぁんだ、そんなことか。なんか慣れちゃって、驚かなくなっちまったな……。

「重力を自在に操れるんだ」

「へぇー」

「ヒーローみたいでカッコイイだろう!?」

 オースティンさんが宙を飛び回る。

「え、えぇ」

 何とも言えない……。

「宙返りだってできるのさ!」

 オースティンさんが泳ぐように宙を飛ぶ。

「あ、あまり調子に乗ると怨さんに怒られますよ!」

「ハッハァ! 大丈夫! なんたって俺はヒーローなんだから!! 新聞に載ったこともある!」

 でも活躍してるところ見たことないよ……?

 するとケイが鼻で笑いながら、

「器物損害で掲載されたの間違いじゃねぇの?」

「シャーラァップ!!」

 オースティンさんが親指を下に向ける。ケイは中指を立てる。

 とそこで、オースティンさんの背後に窓が迫っているのが見えた。

「オースティンさん! 後ろ!」

 だが間に合わず、オースティンさんはガラス窓に突っ込んだ。ガラスは大きく割れ、警報が鳴り響いた。

「不法侵入者か!?」「何だ!?」

 支部の職員が飛んでくる。

「大丈夫! ヒーローがいるさ!」

 顔から血を流したオースティンさんが現れた。そして笑顔を全く変えずに、顔に刺さったガラスの破片をポリポリ食べ始めた。

「……姉ちゃん、俺、何があってももう驚かないって今決心したよ」

「あぁ、私も肝に銘じたよ」

 二人で広くて青いプールを見つめる。

 今日も平和だなぁ……。

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