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楔荘 序~七罪と戦争~  作者: 智額 護/作者 字
19/34

第十七話 仕事をしましょう。

「フランのばか!」

「うるちゃい! アランのばーかばか!」

 アランとフランの二人がいがみ合う。

「今、フランがうるちゃい言いおったな……」

「噛んだな」

 アーサーとマーリンの二人は紅茶に口をつけながらその様子を見ていた。

「イタリアのマフィア結構強いんだからな! グスッ」

「な、北欧の家具だって! 頑丈なんだからな! 足の小指ぶつけたらとっても痛いんだからな! うえぇん……」

「いやいや、そりゃ家具の角に小指ぶつけたら痛いわな。なあマーリン」

 アーサーがヘラヘラ笑いながらマーリンに顔を向ける。

 フランとアランは泣きながらお互いの髪を引っ張ったり、頬をつねったりする。

「Excuse me、アイツら何でケンカしてんだい?」

 オースティンがアーサーとマーリンの間から顔を出した。

「なんか、フランが間違えて、アランが作った怨に渡すお菓子を食って、アランが間違えてフランが買ってきた怨に渡すヨッギを飲んだらしいで」

「どっちもどっちだな……」

 マーリンがため息交じりに言った。

 するとオースティンは、どんな悩みも吹き飛ばすヒーローパワーにじみ出る笑顔で、

「じゃあアップルパイだな!」

「いや、どないしたらアップルパイなるん? わけわからんわ」

 アーサーは力なく笑うと否定するように顔の前で手を振った。

「ん、怨にあげるお菓子の話だろ?」

「せやな」

「ダメだこりゃ……」

 マーリンが頭を抱える。

 アランは涙を拭い指をさすと、

「う~! なんなら勝負だ!」

「受けて立つ!」

 フランも涙を拭ってアランを睨み返す。

「勝負って、どうやってやるんだい?」

 オースティンはポップコーンを頬張る。

「ふっふ~ん。僕の能力の前に君は跪く!」

 アランがかっこよくポーズを決めると、体が一瞬光って、怨の姿になった。そしてなぜか羽が生えている。

「ぱ……パパ!?」

「フラン……」

 怨の姿をしたアランがフランの腰に手を回し、顎に指を当て、フランと視線を合わせる。

「今日もかわいいよ……」

「ぱ……パパ……。パパも、かっこいいよ……」

「あ、今フランがキュン……ってなっとるで」

 アーサーは恋する乙女のように両拳を顎の下に添える。

「白いフランが赤くなってる! HAHAHAHAHA!」

 オースティンの笑いと共にポップコーンが床にぶち撒かれる。

「…って! しょ、所詮中身はアラン! どうせ間抜けなんだから! 行け! お化けさん達!」

「オバケー」「オバケダヨー」「ヨッギヲヨコセ!」

 北欧のお化けがふよふよと出てくる。アランは驚きの余り姿が元に戻り、

「ア゛~~~~~~!」

「Oh no~~~~~!」

 アランとオースティンがお化けに追い回される。

「アッハハハハハ! オース、ビビり過ぎ!」

 アーサーはお腹を抱えて笑う。

「アーサー……あぁ、頭痛くなってきた……」

 マーリンはこの上なく深いため息をつき、額に手を当ててやつれた顔をした。

 結局、アランとフランは怨の好きな抹茶のシフォンケーキを作って渡した。

「僕が作ったシフォンケーキの方がおいしいって!」

「いいや! 俺の方が!」

 相も変わらずアランとフランはいがみ合う。

 するとアーサーが怨の肩を指で呼び、振り向いた怨の手にアーサーが作ったシフォンケーキを渡す。

 怨はとりあえずそれを食べ、

「アーサーが作った方が抹茶感が出てて……」

「!?」

「!!」

「なんやめんどくさいなぁ」

 アーサーは肩眉を上げた。



「杏仁! 君ならお化けを倒すことができるだろう!?」

 中国支部支部長室にオースティンが押し掛けた。

「うわうるせぇ! 人が茶飲んでるときに押し掛けてくるな!」

 オースティンは杏仁の肩をつかみ、激しくゆする。

「うわぁあぁあぁ餅食ってる途中なんだよ喉に詰まるわボケ!」

「お化け……お化けだけは!」

「健良に頼めアホォ!!」

「呼びました?」

 健良が息を切らしてやって来る。額の汗を袖で拭いながら眼鏡をかけなおす。

「お化けぇ!」

 健良を見てオースティンが悲鳴を上げた。

「私はお化けじゃありません!」

「お願いだ! フランの白豚野郎が呼び出した北欧のお化けを退治してくれ!」

「貴方、お化けはさほど恐ろしくないのでは……?」

「中にロシア人が混ざってるんだよ! 社会主義者がいるんだよ!」

 オースティンが健良の足にすがりつく。

「一体いつの時代だと思ってるんですか……」

「それもあるけど、ロシア人は色々と大きくて強いから苦手なんだよぉ!」

 健良は少し考えると、何かを思い出したように、

「……あぁ! 大学の頃、ロシア人のイケメンに彼女を取られましたもんね。悔しかったですねぇ」

「ねえ今、俺の事憐れんで見てない?」

「私としてはあれは嬉しかったんですがね。彼女に往復ビンタされる貴方は実に滑稽で素敵でしたよ」

「Humorous!?」

「それより仕事、しません? ホラ見てくださいこのリスト。この表の欄の多さ」

 健良は笑顔でタブレットを突きつける。

「Wow……」

「因みにこれ誰のだと思います?」

「支部全体のかい?」

「貴方のです」

「か……顔が近いよ、You……」

 オースティンは触れそうなほど近い健良の顔を手で押す。

「いいですか!? 私は可愛い可愛いボーカ〇イドたちに背を向けて仕事してるんです! 一緒に遊んでやることも作曲してやることも、世話をすることもできてないんです!!」

「データのバックアップの事かい?」

「お世話と言いなさい!!」

「ピャッ!」

「ここの所、日本の某動画サイトに動画をアップできてなくて不安と苛立ちで胃が痛いんです! 貧乏ゆすりも止まらないんです! あと私が片思いしてた子が昨日結婚した!!」

「お、落ち着こう? リラックス……」

 オースティンはなだめる様に手のひらを見せる。だが健良の暴走はさらに加速を増し、

「シャーラァァップ!! リラックスしてる暇などないのです!! 仕事! さあ仕事です!! この山を片付け終われば有休をたんまり取れるんです! 私は渋谷に行きたいのですよ渋谷に! 秋葉原に!! アニ〇イトに住まわせろぉ!!」

「色々ここで言っちゃいけない単語が聞こえるんだけど!?」

「コミケだって何年行ってないと思ってるんですか!? 3年ですよ3年!! まあ欲しいものは全て円香にお願いして現地直送してもらいましたけどね!!」

「誰か! 誰か助けて!!」

「私がこのように荒ぶる理由がわかりますか!? さあ答えなさい!!」

「Help me~!!」

「全ては貴方々が真面目に仕事をしないからです!! 報告書もまともに出さない!! 器物損害費用もいくらかかってると思ってるんですか!? 特に道路!! 普通に歩くことさえできないのですか!!」

「それは俺じゃなくてジョーだよぉ!」

「報告書くらい書けるでしょう!? 今の小学生の方がよっぽど真面目でいい子です! 近隣の小学校の子供たちがくれた見学会のお礼の作文読みました!? 私たちよりも作文力ありましたよ! 中には英文で書いた子もいましたよ!! 近隣の高校からはドイツ語の作文!! 韓国語まで!! あぁなんて健気で立派なんでしょう!!!!」

 健良のタブレットを持つ手が力み、画面にひびが入る。

「唾が飛ぶって!」

「少しは現代の子供たちを見習いなさい! さあ仕事! 仕事をするのです!! 馬車馬のように働けぇ!!」

「言葉が汚いよ!」

「何故私だけこんなにも働かなきゃならないんです!? 円香なんて支部の仕事に家の宿の仕事、さらにオタクとしての務めもしています!! もしかしたら私と同じくらい、否、私以上に働いているのです!!」

「それは、日本人は働き過ぎなんじゃって思うくらい仕事が好きだから……」

「いいですか仕事! 仕事をしなさい!! 仕事以外を考えるんじゃありません!! それ以外考えたら仕事増やすからね!?」

「怖いよいつからブラック企業になったの組織は!?」

「貴方々が仕事をしないからブラックになったのです! 仕事をすればホワイトになるんです!!」

「キャー!!」

 荒ぶる健良の肩に榊が手を置く。

「会計報告書、出来上がったんすけど」

「あぁ、ありがとうございます。後で申請しておきますね、お疲れ様です」

「あと、前回の報告書に誤りがあったんで書き直しておいたっす」

「あー、アランのやつですね。ありがとうございます」

「お取込み中にスイマセン。失礼します」

 榊は静かにその場を離れる。

「仕事ォォォォォォォ!!!!!!!!」

「胸倉つかまないで! このジャケット気に入ってるんだから!!」

「キエ~~イ!!!!」

 杏仁は何か言いたげに健良を見ていたが、諦めて椅子に深く座ってお茶をすすった。

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