第十四話 ニート
もう少しで期末テストだ。だがさっぱりわからん。
だから俺は、怨さん達の部屋に来た。
――コンコン
ドアをノックする。
「……ん」
ドアの奥から幽かに護さんの返事が聞こえた。そっとドアを開ける。 部屋の中は暗く、パソコンの画面の明かりが眩しい。部屋の明かりをつけると、
「にゃあ゛ぁぁぁぁぁ!!」
護さんがイスと共に後ろに倒れた。
「いっつ……」
後頭部を撫でながら起き上る。
「急に電気つけんな……」
護さんは怪訝そうな顔でこちらを見た。
「あ……すいません、癖で」
「なんの用?」
「あの、勉強教えてほしいのですが……」
「え~ナニソレ寝ちゃいそう……」
「寝ないで!」
横になろうとする護さんを起き上がらせる。
「や~あ~」
「お願いします! 何でもしますから! このテストで赤点取ったらマジで~!!」
護さんが急に起き上がった。
「うおっ!?」
「今……なんでもって……言った……?」
「え? えぇ」
「なんでも……なんでもって……ふふふ」
「なな何考えてんですか!?」
「さあ、何でしょう?」
「怖い!」
ぼちぼち勉強を開始する。
「ここはこの公式を……」
「なるほど!」
「漢字で大体わかるだろ……」
「えーそれは無理」
一通り教えてもらい、ひと段落する。
「お疲れ」
「ふぅ~、これでテストもバッチしっスね!」
「そだねー。あ、アイス食べる?」
「ありがとうございます!」
バニラのアイスキャンディーを渡される。
「いただきます!」
「ん……」
アイスを食べながら雑談をする。
「――それでこの前、そいつが」
「へぇ~。……あ、アイス垂れそうだよ」
「えっ……」
護さんの顔が近づいて、俺のアイスを舐めた。
「ちょ……!」
「ん?」
「人のアイス勝手に舐めないでくださいよ」
「男同士だろ。何もそんなに……あ」
「えっなに?」
「今のシチュエーション、今度の小説に使える……」
「こ、今度の小説って?」
「うん。BL」
「嫌だぁ~~!」
「おいこら逃げんな……」
逃げようとする俺の服を護さんが引っ張った。
「どわっ!」
「わ……」
――ドタッ
「は……床ドン……なるほど、床ドンはこんな感じに起こるのか」
「へ? えっ??」
何が起きたのかわからなかったが、護さんが俺の上に四つん這いになっているのはわかった。
「この次……なにしたい? チューする? それとも……」
――スパコーン!
何かが護さんの頭を叩いた。
よく見ると、護さんの向こう側にスリッパを握りしめている怨さんが見えた。
「護……!」
「あはは……ちょっと小説の取材を……」
――プツン
「あ~~~! ゲームセーブしてないのに! 何で電源切るの!」
「お前が稔にやましい事をするからだ!」
「だからってゲームは関係ないじゃん!」
「そうでもしないとお前は言うことを聞かないだろうが!」
「ゲームは関係ないじゃん!!」
「第一お前はろくに働きもせずゲームやら小説ばかりクドクド……!!」
「うるさい耳にタコができる。はっ……そのタコが怨を襲えば……!」
「聞いてるのかっ!?」
護さんは正座させられ、説教が始まる。
「なになに、面白い事でもあるの?」
嫌好が俺の肩に顎を乗せてきた。
「何も面白くないよ」
「……本当だ、面白くない」
嫌好は不満げにため息をついた。
「幸せが逃げるよ」
癖で注意してしまった。すると嫌好はいつもの涼しげな顔を向け、
「逃げないよ。ため息が出るような下らない呆れる毎日も楽しいから幸せ」
「どうしてそう思えるの?」
「何でだろうね。そう思えるようになった、ここに来てから」
俺には理解できないや。
「遊んでるんじゃない、一応仕事だってしてる!」
護さんが必死に言い訳をする。
「会計報告か? それじゃあ足りん」
怨さんは護さんにタブレットを見せる。
「お前はやらなければならない仕事のたったこれしかやっていない」
「ブラックなんだよ……」
「これでも適切な仕事量だ! 組織内の平均値と同じ! わかるか!?」
「う~る~さ~い~! それ絶対平均値がブラックだよ! 俺は12時間寝ないと死ぬの~」
「寝過ぎだ!!」
嫌好がそそくさとその場を離れようとする。
「どうしたの?」
「墓穴を掘りそうだから、今のうちに避難」
あー、お前もか。
怨さんのお説教は夕飯後も続いていた。




