表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
楔荘 序~七罪と戦争~  作者: 智額 護/作者 字
12/34

第十話 MerryChristmas!

 雪やこんこん、霰やこんこん――

「琉子」

 廊下の窓から外の雪を眺めていたら、パパりんに声をかけられた。パパりんはいつもの険しい顔でホットミルクを渡してくれた。こんな顔だから冷徹な人だと思われがちだけど、こうやってホットミルクを渡してくれるほどには優しいんだよ。そう、どこかの誰かに向かって言い聞かせる。

 ふと、窓に目を戻す。

「雪……降ってるね」

「あぁ」

 とてもロマンチックな時。

 大好きなパパりんが横にいて、手にはあったかいホットミルク。嬉しくって嬉しくて、思わずにやけそうになる。パパりんがパパじゃなかったら、恋人になれたのかな……。

「あ、あのね、パパりん」

「ん?」

 パパりんが振り向く。顔が近い。ちょっと首を前に伸ばしたら、キスができるくらい。

「わ……私、パパりんの事――」

「ねーねー怨! 雪雪! ねえ雪だよ! 雪! 雪降ってる! 見て! すげえ! 練乳ある!? イチゴのかき氷シロップは!?」

 ケイが割り込んでくる。

「雪を食べようとするな。またお腹下すぞ」

「え~!」

「……んの……」

 怒りで頭が熱くなって、

「クソガキがぁぁぁぁぁ!!」

 無意識に拳がケイに向かっていた。

――ガッ

「ぶぅおぉぉぉぉぉ……!」

 ゆっくりとケイが空中に吹き飛ぶ。

――ドシャ

「痛っだい!! 痛いよ琉子ち……」

「台無しよ! ぶち壊してんじゃねーよクソ!!」

「痛い痛い! 頭踏まないで! 足でグリグリしないで!」

 あぁ、なんか、全てぶち壊したい気分。

 するとパパりんがポンと手を叩き、

「雪合戦でもするか。クリスマスプレゼントを賭けて」

「おうそれいいね!」

「ちょ、ケイ……」

「プレゼントは禊がいい!」

 ひょっこり現れた嫌好が嬉しそうに言った。気に入らなかったので頬をつまみ上げ、

「おいタコ、お前、後で夕飯のおかずにしてやる」

「えぇー」

 そんなわけで……。

「チキチキ! クリプレを賭けてぶつけ合え! 熱さのあまり雪も溶けちゃう!? 雪合戦! 優勝者には欲しいものなんでもゲット権がもらえる!!」

 ケイがラッパを吹き鳴らして開幕させた。

 場所は楔荘の広大な庭。

 やる気のない稔と殺欺、

「クリスマスプレゼントを略してクリプレかぁ」

「なんかケイらしいね」

 なんとなくやる気のある裏拏と表子、

「私、出来るかしら」

「訓練の一つにはなるだろうな」

 やる気満々で怖い嫌好、

「禊禊禊禊禊……!」

「ぷぜれんと! クリプレ!」

 そしてプレゼントの言えてない禊子。

「寒い……あぁ……なんか、眠くなってきた……あれ、走馬灯が……」

 凍死しそうなのが一名、護。

 ケイがルール説明を始める。

「ルールはもう適当! 超簡単! ただ誰でもいいから雪を当てればいい! 一度でも胴体に当たったら失格~。手を盾にするのアリ」

「ケイいい加減だし。マジありえんし~」

 ケイに向かって親指を下に向ける。

 プレゼント、何にしよっかな。

「それではよ~い……」

「え、もう!?」

「僕、最初に脱落しよっかな」

 殺欺は後頭部に手をやって家に戻ろうと足を向けていた。

「――ドンッ!」

 真っ白い空間にて、戦いが始まった。

 プレゼント。ふと思い出した。小さい頃、パパりんから初めてもらったのが、うさぎさんのぬいぐるみ。夜な夜な仕事から帰ってきて、遅くまで作ってたのを覚えてる。お気に入りの、小さくなって着れなくなった私の服から作ってくれた。目がパパりんと私の大好きな色のボタンでできた、少し大きめのピンクのうさぎさん。

 あの時はとてつもなく嬉しかった。

 今度のプレゼントは、何にしよう。

「おぉぉりゃぁぁぁ!!」

 稔めがけて雪玉を投げる。

「へぶしっ」

「稔君脱落~」

 ケイがココアを飲みながら稔を隣に座らせる。

「おつかれ」

「服の中にまで雪が……だから参加したくなかったのに。先輩ったらもう」

 稔はため息をつきながらココアをすする。

 裏拏が高速で移動する。嫌好が触手で雪玉を投げて、防御する。

「はぁっはぁっ……!」

 殺欺が背中を向けた。

 今だっ!

「ふんっ!」

「うわっ」

「殺欺脱落~」

 一息つこうと顔を上げた時、殺欺の向こうから雪玉が飛んでくるのが見えた。

 寸前で避ける。

「あらあら。意外に速いのですね」

 表子が雪を手に取り、雪玉を作りながら言った。

「ったりめーだ、私はパパりんに扱かれてんだ。裏拏程ではないけど、アンタよりかは速いわよ!」

「そう……なら、こっちも本気出させてもらいますわっ!!」

「こっちだって!!」

 走りながら雪を片手に取り、握って玉を作る。手で握ると、ちょうどよく長い玉が出来る。この方が投げた時スピードが出る。

「おりゃ!」

「あいた! ちょっと! 足痛いじゃないの! 反則!」

「別に反則じゃねーぜ! アンタがのろいのがいけない!」

「んだとこのビッチ!」

「おめーもビッチだろーが!」

「はぁぁぁぁぁ!!」

「うおぉぉぉぉ!!」

 雪を投げていく。

「琉子ちんすごいねぇ。さっすが怨の教え子」

 ケイが他人事のように手を叩いて言った。

「毎日鍛えてるからな。私はよく狙われる、琉子はその娘としてもっと狙われるだろう。自分の身は自分で守らねば、私の娘としての資格はない」

「うひゃー、きっびしい」

 表子も私も、息が切れて限界だった。

「はぁ、はぁ……」

「っはぁ……は……」

 最後の力を振り絞って、とどめを刺そうとしたとき、

――バシッ

――ボスッ

 私と表子の体を貫くような勢いで、雪玉が体にぶち当たった。何かと思い振り返ると、

「……隙あり……」

 投げた時の格好のまま、裏拏がそう呟いた。口元の広角が少し上がっていた。

「――よって、勝者は裏拏~!!」

 庭にあるベンチみたいに座れる平たい岩の上で、ケイが裏拏の片手を挙げる。

 嫌好は口をとがらせ、

「あとちょっとだったのに、裏拏が『あ。あそこで禊が全裸に』なんて言うから、思わず振り向いちゃった……。ずるい」

 なんだか味気ない。てか、あんなにムキになって、何やってんだろ、私。

「あ~あ、負けちゃった!」

 なんとなく物寂しくて、わざと声を大きくして言ってみた。

「でも楽しかったわ」

 表子が私に微笑みかけてきた。

「なかなかやるじゃん、ビッチ」

「あら。貴女も、人間のくせにやるじゃないビッチ」

 私と表子は顔を見合わせて大笑いした。


 その日の夕飯は豪華だった。

「おおおおターキーじゃん!!」

 ケイが大皿を覗き込む。

「オースティンが狩ったんだって。現地直送」

 殺欺がお皿を並べながら言った。

「ケーキはアランからだ。オーストリアのケーキ職人に頼んだようだな」

 パパりんがケーキについていたメモを見て言うと、

「オ……オーストリアから……」

「き、規模が世界……」

 稔と七穂ちゃんの開いた口が塞がらない。するとケイが得意げに流暢に、

「これぞまさに“Around the world”! テスト範囲だったよな?」

 殺欺が別の箱を開け、

「シャンパンはフランスだってよ。これは……フランからだな」

「でも今回、ゲテモノなくてよかったね」

 禊子ちゃんが安心したように笑う。

「いや、今回もあるみたいだよ」

 殺欺が死んだ目で包みから出す。

 それを見た全員の目から正気が消えた。

 ……豚の頭……。

 大体犯人はわかっていた。

『ニーハオ!』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ