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楔荘 序~七罪と戦争~  作者: 智額 護/作者 字
11/34

第九話 新キャラ登場!! ダス!!

 朝。時刻は五時。

 ついこの間の出来事が忘れられない。指令室のモニターいっぱいに映った赤黒い血と絶叫。

 その時、俺の部屋のドアからノックが聞こえた。返事をすると、ドアの向こうから禊子ちゃんの声が返ってきた。

「あ、あの、稔……。榊から、伝言。み、禊さんは損傷率が約90%。その他の……あ、私たちは、10%。報告は以上」

「あ、わかりました……」

 その時、重く冷たい俺の部屋に、携帯の軽い音が響いた。第一本支部へ集合がかかった。

 タチキリに乗せられ、楔荘の住人全員が集合し、特殊治療室に集められる。

 護さんは頭に包帯を巻いていて、裏拏さんは松葉づえをついており、、表子さんは見える限りでは首に包帯、ケイは胴体包帯だらけでシャツだけを羽織っていて、禊子ちゃんは全身包帯で白いワンピース姿で、姉さんは顔に絆創膏が数枚貼ってあるだけだった。

 それぞれがお互いの姿を痛々しいものを見るように見つめ合う。

「こっち……」

 榊に案内され、奥の部屋に行く。

 そこには、縦状の大きなカプセルがあり、人一人が楽に入れる大きさだった。中は液体で満たされており、頭と両腕、胴体が所々と足が途中までだけの禊さんがいた。

「み、禊さん……」

「なにこれ……」

 俺と姉さんは言葉を失った。

「何とか頭だけは安定したけど、他が不安定で……特に内臓は再生が難しくて、完璧に再生しても前のように丈夫にはならないかも……」

 榊は不安そうに言った。

「極秘って、ここに居るんですよね」

「あ……うん。専用の牢があって……」

「タチキリ、俺をそこに連れてけ!」

 押さえていた怒りに小さな穴が空いて飛び出た。

「あああだ、ダメだよ! 禊があまり近づくなって……!」

 榊が止めようとするが、それを押し切って、

「了解しました稔様! 稔様御一行ご案内~!」

「えええ!?」

「榊は乗らないでね☆」

「タチキリぃ……」

 タチキリに極秘の所まで連れて行ってもらい、壁がコンクリート張りの大きな部屋に着いた。真ん中に鳥かご型の縦五メートル、幅三メートルほどの檻があり、そこに病衣を着た極秘がいた。

 口に金属のマスクがされホースで機械と繋がっており、ちぎられた触手には大量の管が通っていた。手足と首は鎖で繋がれていて、簡単には身動きができなさそうだった。

「これが極秘。何か話してみます?」

 タチキリが俺に寄りそう。

「え、できるんですか?」

「私を使えば」

 なぜかタチキリの声は自慢げだった。

「お願いできますか?」

「了解」

 タチキリは檻の隙間から中に入り、極秘のマスクとコードをつなげる。

 ノイズが部屋中に響き渡る。

「ザザ……あ、あー。マイ……クテストー。……オッケー」

「タ、タチキリ……」

「おい極秘、なんかしゃべれやオラァ!」

 えぇぇ!? タチキリ怖っ!

「わ、私、タチキリさんがそんな怖い方だったとは……」

 姉さんが青ざめる。

「私の御主人様をあんだけボロクソにしたんだから、必ず答えろよ。拒否権は無いからな」

「こ、怖ぇ……」

 俺まで青ざめた気がした。

『……野次馬が……』

 極秘の声は意外にも若く、柔らかく、冷たかった。

「な、何で禊さんを殺そうとしたんですか」

 俺は一歩踏み出す。

「稔……」

 姉さんは固唾をのんで俺を見る。

『……矛盾……』

「矛盾?」

『全てにおいての矛盾の答えがわかる気がして……』

「そんな……そんな事で……!」

「稔、やめとけ」

 護さんが俺の肩に手を置く。

「そんな事の為に禊さんを……! 禊さんを!」

「稔、ダメ! 落ち着いて!」

 姉さんと禊子ちゃんが俺を抑える。

『……怨んで良いよ。禊も俺も、矛盾した存在だから、何かしたら何かわかるんじゃないかと思って。……あと、そこにいる青いつなぎの赤髪の少年。そいつも矛盾した存在』

 極秘はゆっくり榊を指さす。

 後ろからゆっくりと榊が歩み寄り、

「……そうだよ。俺もその、矛盾した存在なんだ」

 榊の目は不安そうに俺と床を行き来する。

「矛盾した存在って?」

『俺とか、そいつとか禊みたいなバケモノの事。死ぬときに何か強い思いを残した奴が、死後人でなく生き返る。それで誕生したヤツが矛盾した存在。でもそんなの仕組みに過ぎない。じゃあさ、君はこの世に人がはびこる理由がわかる?』

 人がこの世にいるわけ……?

 俺は少し考えてみるが、それ以上考えてはいけないような、恐怖が後ろから首を絞めるような気がして答えられなかった。

「みなさーん、そろそろ戻りましょうか。このクソも疲れてきたっぽいんで」

「クソって……名前は極秘じゃないの?」

 そう言った姉さんは何かに気づき、俺と顔を見合わせる。

「姉さん」

「うん。……あの、極秘。貴方の名前は何ですか?」

 極秘は姉さんの顔をうかがうように見ると、肩眉を上げ、小さくため息をつくとふてぶてしく、

『嫌好……俺の持ってる唯一』


 姉さんは楔荘のリビングで抹茶アイスを食べていた。

「昼間からアイスとか、太るわよ」

「あ、琉子ちゃん……」

 琉子先輩は姉さんからアイスを奪うと一口食べる。

「ん~! やっぱ抹茶はおいしいね! パパりん、抹茶アイス大好きなんだ。帰ってきたら手作りのをご馳走しなきゃ」

「禊さん、いつ帰ってくるかな」

「う~ん……来週には帰ってくるっしょ。今超超高速で回復中だから」

「そっか……」

「あ。パパりんの事好きなんでしょ。七穂っちは私のお母さんには無理だな~」

「そ、そんなんじゃないよ!」

 姉さんが焦りだす。

「ふふふっ、わかってるよ。だって皆、パパりんの事大好きだもん」

 先輩はアイスを返す。

「そうだ。近々、パパりんの子供が遊びに来ると思う」

「子供?」

「うん。外人さんばっかだけど」

 先輩は得意げに斜め上の方に目をやる。

「え、待って。子供? 隠し子? えっえっ、あの人一体仕事で海外に行って……え、やばくない?」

「七穂ちゃん、早とちりやめようか。妄想が激しすぎるよ」

 琉子先輩は姉さんの額にデコピンした。


「ただいまー……」

 リビングに禊さんが急に現れた。急な帰還にその場にいた全員が言葉を失っていた。だって、いつものように、仕事から帰って来るように現れたから……。

「パパりぃん!」

 先輩が禊さんに抱き付く。

「おっとっと……。今日はお客さんを連れてきたよ」

「あ、禊さん、お帰りなさい。体は大丈夫ですか?」

 禊さんに声をかける。

「あぁ。心配かけたな、稔。それと、客が来てんだ。客間に通してくれ。おーい、入ってくれ!」

 どやどやと外人が入ってくる。

「邪魔する」

「ここが禊の家かぁ!」

「おしゃれな家やんなぁ」

 いきなりの外人に、体が力む。

「こっこちらです……!」

 客間は和室となっていて、約80畳。でけぇ……。

「稔、差し入れだ。スィローク」

 ロシア人の方が紙袋を差し出す。

「あ、ありがとうございます……」

「みのっち~、これ座布団」

 先輩が座布団の束を抱えてやって来る。

「あ、じゃあここにこう並べて……」

 ゴタゴタしていたが、何とか一段落着く。

 真ん中に四角いちゃぶ台をいくつかつなげて、その周りに客人が座っている。

「しかし、何で急に私の家なんかに遊びに来たいと……」

 禊さんは座椅子にもたれかかり、怪訝そうな顔で一同を見回した。

「パパ……じゃなくて、禊が帰ってきたって聞いたし、久々に顔を見たくなったし……色々ね」

 “ほくおう”の文字が胸にプリントされた服の青年がにっこり笑う。

「それより、ここの住人は我々を知らないだろう。自己紹介してはどうだろうか」

「あ、それいいね~マーリン! ヨーロッパ賛成!」

「アメリカもだ! 賛成は挙手!」

 一同が挙手する。

 黒髪で鼻筋の通った、紅い唇が特徴の女性が口を開く。

「じゃあ私から。ロシア担当、ロシア支部長マーリンだ」

「日系スペイン人のアーサーやで。また関西に遊びに行きたいわぁ」

 褐色の青年が嬉しそうに頬杖をついた。

「ヨーロッパ担当、ヨーロッパ支部長のアランだよぉ! イタリア人だから女の子に弱いよ!」

「北欧地域担当、ヨーロッパ支部副長、フラン」

 “ほくおう”シャツの白髪の少年が肩をすぼめて恥ずかしげに言った。

「アジア担当、アジア支部長、[[rb:健良 > ケンリョウ]]と言います」

 公務員、という文字が似合いそうな眼鏡の男性が丁寧に頭を下げた。

「中国担当、アジア支部副長、杏仁だよ~」

 狐目で片耳のピアスが印象的な青年が手を振った。

「アフリカ大陸担当、エジプト支部長のジョーだで!!」

 体格の良い男性で、笑ったときの大きな口からこぼれる前歯が印象的で、それ全てが金ぴかに輝いていた。

「オーストラリア担当オーストラリア支部長のラクランだす。ラッキーと皆から呼ばれてるだす」

 おおらかな少年に見えるが、よく見ると腕が逞しい。

「韓国支部長の[[rb:久美子 > グミジャ]]よ。なんか知らないけど‶クミコ‟って呼ばれてるわ」

 整形でもしたように整った綺麗な顔の女性。後付けのように整形はしてない、と言われ睨まれた。

「北アメリカ地方担当、アメリカ支部長のオースティンだゼ!」

 アメリカ国民を一つにしたような、全身からアメリカ感あふれる男性。

「南アメリカ地方担当、アメリカ支部副長のアルベルトだ」

 南の黒い肌は蛍光灯でもつややかに輝いていて、大きく全身についた筋肉が何とも言えない威圧感を出していた。

「アルベルトっていかついよね~」

 アランさんがヘラヘラ笑う。

「そうでんね、オースティンの旦那。あぁ。日本支部長の円香、言います。関西出身なんどすえ」

 笑っていても黙っていても目を閉じているかのように目の細い円香さん。頭の後ろで結われた髪に刺さるかんざしが彼女の動きに合わせて揺れる。

「どうだ。私の子供だ、多いだろう」

「多いわ!」

「あっしらは禊はんに拾われた孤児でんね。第二本支部の子供の棟、あそこで育ったんでぇ」

「なつかしいなぁ。あん頃アランはよう泣いとってぇ」

 アーサーさんがからかう。

「だって、アル怖いんだもん」

「そうか! アルベルトは昔から変わっていないな!」

 オースティンさんは笑いながらアルベルトさんの肩を叩く。

「クミコの笑顔の方が怖いぞ」

 そう言うとアルベルトさんはジトリと久美子さんを見た。

「私はクミコの笑顔を一度も見たことないですね」

「ダブルアジアでお願いするよ~」

 杏仁さんが手を振る。

「私だって笑うわよ。……ニコリ……」

「ひぃぃ! こここ怖っ! クミコ……悪魔なの…!? エ……エクソシスト! 誰かエクソシスト呼んでぇ!!」

「失礼ね! そこは妖精って言いなさいよ。アンタんトコ妖精いっぱいいるでしょ、フラン」

「フランは人見知りがね~。じゃけん妖精見え、妖精の友達多いんけ?」

 そう言い、ジョーさんがフランさんの肩に腕を回す。

「違うし……人間とか面倒くさいだけだし……禊と一緒に居たいだけだし……。ていうか妖精じゃなくって聖霊」

「え。何々~? き~こ~え~な~いい~♪」

 アランさんがフランさんの頬を触る。

「んん……ほっぺプニプニすんな」

 フランさんはアランさんの手をはたく。

「欲張りでわがまま言うが、隊長、良いか」

 アルベルトさんが禊さんに言った。

「なんだ」

「今日ここ泊まりたい。とても」

「うん。アルベルト、言う割に顔がピクリとも変化しとらんで。怖いで。ほでほで」

「やめろアーサー。頬を引っ張るな」

 アーサーさんはアルベルトさんの鉄仮面をつついて遊ぶ。

「まあ良いだろう。ただしこの部屋しか泊まれないが……」

「まじで!?」「本当ですか!」「あっし禊の部屋に!」「ロハス!」

 おい、なんか今全然違うの聞こえたぞ。

「お……おぉ。別に構わんが、布団足りるか?」

「大丈夫! 寝袋持ってきた!」

 机の上に折りたたまれたテントと大きなリュックを出す杏仁さん。

「キャンプか!」

「じゃあアーサーは何持ってきたんだよ」

 杏仁さんが見下すように笑うと、

「寝袋」

「真似すんな! バカ!」

「真似しとらんし! お前今日の遠足のしおり見てねぇの?」

「は?」

 全員が懐から中学校以来の懐かしい遠征のしおりを出す。ツッコミどころ満載なんだけど。


「かんぱぁーい!」

 大人たちがそれぞれの酒を手に、グラスを鳴らしあう。

「マーリン、差し入れ……食べていい……? いい……!?」

「好きにしろ」

「フランは甘いものとお酒のコンボ好きだよねぇ。未成年だから[[rb:日本 > ココ]]では飲んじゃだめだけど」

 アランさんがフランさんの肩に腕を回す。

「ビールも良いぞ! アラン、飲むがいい!」

「あ……僕はワインでいいよ、オースティン」

「南米の酒、カシャッサ飲め」

「えぇぇやだああ」

「マッコリどうだ。トックとハングァも忘れんな。ヒック!」

「クミコもう酔ってるで。口調が……シェリーどうや。ポルボロンも一緒に!」

 アーサーさんが口に薔薇を銜える。

「ウォッカにはスィロークだ。どうだ」

 マーリンさんが真顔だが得意げにお菓子を勧める。

「アメリカはチョコチップクッキーだぞ! 南はどうなんだい?」

「ブラジルのだが、ブリガデイロは一口サイズで良い。子供向けのお菓子だが」

 アルベルトさんは大きな体を小さく丸めてお菓子を眺める。

「白酒いいよ~。月餅は誰にも負けないよ!」

 杏仁さんがアーサーさんの口に月餅を押し込んだ。

「オーストラリアのワインはヨーロッパには負けないだす! あとラミントン!」

「こっちだって! フランスはマカロン、ドイツのバウムクーヘン、イタリアのズコット、オーストリアのキプフェル、ポルトガルのパンデロー、イギリスのレモンタルトとかいっぱい……あとイタリアンジェラートぉぉぉぉぉ!!」

 アランさんが息を切らせてどんどんお菓子を出す。

「デンマークのエーブレスキーバ! スウェーデンのヨッギ!」

「なんや。フラン、お菓子の事なると気合入るなあ」

「日本やったら日本酒ねんで。あと和菓子やな」

「ワガシ! いいよねぇ……味も見た目もビューティフル!」

 アランさんが手を叩く。

 何で酒とお菓子の話になったんだろう。

「まじわけわからん。稔、なんでうちらここにいるんだろ……」

 先輩が俺の肩に手を置いた。

「さぁ。確か、禊さんに言われて……」

 辺りを見回したとき姉さんが目に入り、

「……ぷっはぁぁぁぁ!! くぅぅぅぅ! やっぱビール最高!」

 オイ姉貴ぃ……。

「Oh! YOUもアメリカンだねえ! 名前は?」

「七穂です。みなさん日本語お上手なんですね」

「そりゃね! 禊に、世界の言葉を知れ! って言われて。物心ついたときから、英語、日本語、イタリア語、アラビア語……6ヵ国語は話せたな!」

「そんなに!」

「オースティンは一番多くの言葉を覚えてたよね。すごいなあ。僕は中国語と日本語とイタリア語しか話せないや」

 アランさんがオースティンさんの頬を触る。

「おい、料理ができたぞ!」

 禊さんが榊と成則さんと共に、両手いっぱいに料理を持ってくる。

「Yeah! pizza!」

 オースティンさんがはしゃぐ。

「ボロネーゼ!」

 アランさんが目を輝かせる。

「ビビンバまで……!」

 久美子さんが嬉しさの余りしゃがみこんだ。ビビンバごときそんなに喜ぶかなぁ……。

「炒飯に腐豆腐、パエリア、チェットブラー! 流石旦那や~」

 アーサーさんが禊さんの肩を叩いた。

「オーストラリアのチキンパームですよ!」

「ボルシチ……!」

 マーリンさんが目を輝かせると、

「これは護が作った。弟によく作っていたそうだ」

 禊さんは少し嬉しそうに答えた。

「フェイジョアーダ。おいしそう……」

 アルベルトさんが強面を料理に近づける。

「アル、顔、顔。怖いで」

 アーサーさんがアルベルトさんの口にチュロスを差し込む。

「禊さんが一人でこれを?」

「いいや。殺欺と表子と裏拏に手伝わせた」

「ケイは……」

「アイツに手伝わせたらキッチンが吹き飛ぶだろうが」

 やっぱり……予想通り。

「禊! ほらほらこっち!」

「アラン、引っ張るなって」

「ハイっあ~ん♡」

「あ、あー……」

 禊さんが困ったように口を開ける。

「おいしいでしょボロネーゼ! っても、作ったの禊か!」

「正確には殺欺だが……」

 禊さんは満更でもなさそうな顔して口を動かす。

「禊はん、お酒注ぎましょうか?」

「いや、私は……」

「遠慮するなって! な?」

「じゃあウォッカは!?」

「だ~め! ワイン!」

「マッコリぃ……!」

「ノンノンノン。ここはビールで!」

「カシャッサ~……」

「ほんなら禊はん……全部飲んでもらいまひょか……」

「え、ちょ……円香、ろれつ……」

「禊、これは義務」

 榊が禊さんの肩に手を置く。

「おい、榊! あ、あ、あ……」

 禊さんに酒が迫る。

「~~~~~~~~~~~~!!」


 客間からの声は、月が高く高く上がってもしばらく続いていた。

「意外に声響かないんだ……。防音スゲーな」

 なかなか眠れないのと、一階にある客間が気になり下に降りてみる。

 客間には寝間着姿で散らばって寝る人たちが見えた。トランプが散らばってたり、酒の瓶が倒れてたり……。まるで修学旅行だな。

 軒下を覗くと禊さんが椅子に座って夜風に当たっていた。

「……起こしてしまったか?」

 こちらの存在に気付いた禊さんが振り返った。

「いえ。ちょっと下が気になって……」

「飲むか?」

「え、お酒は……」

「安心しろ、水だ」

「なんで水」

「酒にはめっぽう弱くてな」

「じゃ、あの時……」

「あぁ、死ぬかと思った……」

 禊さんは額に手を当てて大きくため息をつく。

 苦笑いしかできなかった。

 庭の真っ赤に染まった木の葉も、残りわずかしか枝に残っていない。すると、

「あ、雪……」

 にわか雨の様に、月は出ているのに雪が降る。

「珍しいな」

 禊さんが立ち上がり空中に手を伸ばす。

「もうそんな時期か。ここに来て二年経つんですね」

「そうだな。……そうだ、今年の年越しは去年より一人多くなるぞ」

「どういう事ですか?」

「住人が増えるんだ」

 禊さんはにっこりとほほ笑んだ。


 次の日の事だった。

 冷や汗が止まらない。

「――して、なので……」

 禊さんが説明する。

「ん、なんだ。嫌好が住人になるのがそんなに嫌か? どうしたその汗」

 俺は思いっきり首を左右に振る。

「……という訳だ。皆、仲良くするように」

 無理だよ!

辛楽つららく 嫌好けんこうです。よろしくお願いします……」

 嫌好は嫌々ぶっきらぼうにそう言うと、会釈程度に頭を下げた。

 絶対ムリィィィ!! 殺されるぅぅぅ!!

「では、嫌好の部屋は私の隣の……」

「ヤダ、一緒がいい。じゃないと寝れない」

 見た目と裏腹な答え! 子供か!

「お前は餓鬼か」

「餓鬼とはうるさいヤツを指して言う」

 凄い、この人、表情が全く変わらない。

「でもなんでこんなやつ住ませんの?」

 ごもっともだ殺欺。

「一緒に住んでくれないと暴れてやるって脅された」

「なにそれメンドクサっ!」

 殺欺が口をとがらせる。

「さてと……まずはこいつの日用品を買いに行くか」

 禊さんが立ち上がる。

「買い物!? でも今の禊は怨だしな……やだなぁ……」

 一瞬、嫌好の顔が輝いたように見えたのは錯覚か……?

「文句を言うな。ケイ、護、稔、ついてこい」

「たっくんトコ行くん!?」

 ケイが嬉しそうに両手を顔の横で組んだ。

「あぁ」

「え、何で俺? てか、たっくんて何」

「いいから来いや!」

 ケイに手を引かれて立ち上がる。

 やってきたのは、車で1時間ほどのところにあるショッピングモール。

 中に入り、少し歩く。

「禊さんはよくここに来るんですか? なんか、足取りが慣れているというか……」

「まあな」

「俺の方がよく来るぞ!」

 ケイが自慢げに答えた。

「稔、着いた……」

 護さんが服屋を指さす。

 いたってありがちなブランドの店だった。俺らは中へ入っていく。

「あらぁ、いらっしゃぁい!」

 奥から出てきたのは……オカマ……。男性らしい体格の良い、紫のショートボブヘアのオカマが小走りでやって来る。近づくにつれて化粧の濃さが分かった。するとケイは嬉しそうに両手を広げて前に出ると、

「たっくん!」

「あらケイ! 久しぶりじゃなァい。アンタなかなか来てくれないから、アタシ寂しくって」

「ははは!」

「相変わらず小さくてかわいいわね。身長いくつだっけ?」

「168」

「あ~ら、前よりも1センチ伸びてる!」

「フッフ~ン♪」

 ケイは嬉しそうに鼻を高くする。

 禊さんは二人の間に入り、

「邪魔するぞ、武」

「あら怨ちゃん。今日はどうしたの?」

「こいつの服を揃えたくてな」

 禊さんが嫌好を見ると、禊さんの後ろに隠れた。

「あらあら、綺麗な顔じゃない。そんなに恥ずかしがらないで、もっと見せて」

 嫌好は青ざめた顔でガッシリと禊さんに抱き付く。今度は俺の方にも気づき、

「あら……こっちの子は?」

「あぁ、同じ住人の稔だ」

「あら、この子もかわいい。アタシは藁科 武。よろしく」

「よ、よろしくお願いします……」

 がっちりと力強く握手をされる。手が痛い。

 藁科さんは背が高い。護さんと並んでもあんまり変わらないから、175~85㎝はあるんだろう。

「そうね……こっちなんかはどうかしら」

「こいつは背中から触手が出るから、なるべく締め付けない――」

「じゃあこっちは?」

「これ良くね? あと俺これ欲しい!」

「お前は後回し」

「そうよケイちゃん。あ、じゃあこれ――」

 かれこれ三時間ほどして、買い物が済んだ。

 俺達はモール内のフードコートに入った。

「俺を荷物持ちにすんな……」

 護さんが禊さんを睨む。

「仕方ないだろう」

「禊さん、殺欺くんの方が力持ちなんじゃないんですか?」

「アイツはナンパばっかりしてまともに働かないからダメだ」

「オレは!?」

 ケイが身を乗り出す。

「特になし」

「えぇ~」

 肩を落とした。

「あの、辛楽……さんは矛盾した存在なんですよね。禊さんとかは一体、何ていうか……動物で例えると……っていうか……」

「嫌好でいいよ。俺は軟体動物らしい。禊は確か哺乳類……」

「え、なにそれ」

「榊は爬虫類」

 何それカッコイイ!

 その時、ケイの携帯が鳴る。

「あん? オレだぁ、なんだ?」

『ちょっと! ごはんまだ!? 早くしなさいよ!』

 表子さんの声だ。

「薔薇でも食ってろ」

『ハァ!? ざけんじゃねぇ!!』

「禊ぃ、表子のババアがうるせぇぞ」

 ば、ババア……。

「もうすぐ帰る」

「了解。おいババア、今帰るって」

『誰がババアだこのクソガキ!!』

「しらねー。腐って土に還れ」

 ケイが馬鹿にするように笑う。

「じゃあ帰るか」

「あ、今気づいたんだけど……」

 護さんが少しにやけながら言った。

「なんだ」

「禊って、車運転出来たんだね。お歳だから、機械は無理かと……」

「お前殺されたいのか」

「プププ……怨、ジジイ扱い……! じ、ジジジジ……!」

 嫌好が腹を抱えて笑う。

「黙れ」

――ゴッ

 嫌好の頭から煙が出る。

「ううぅ……い、痛いぃ……うあぁぁ……」

 自業自得だよ、嫌好。

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