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私だけのモノ  作者: 綾小路隼人
日本編
8/53

ミディアムステーキ

ほんの思いつきです。

あれから30分後。

300グラムほどのステーキが出来上がっていて、皿に綺麗に盛りつけられていた。

切り口は脂でテカテカと光っており、表面には塩胡椒がかかっている。


「やっと出来たわ」


沙樹は額に滲んだ汗をタオルで拭った。

今まで調理せずに生肉のまま齧り付いていたのだ。人肉を調理するのは恐らく初めてだろう。

京子の腹からはグゥという音がハッキリと聞こえ、彼女はよほど空腹なようだった。


「わぁ……」


思わず口から出る、感嘆の声。淡褐色の瞳はキラキラと輝いていた。

何しろ、京子はここ数日まともな食事をしていなかったのだから。

目の前のソレは同じ人肉なのだが、原型を留めた生の肉よりは幾分マシだった。



※ ※ ※ ※ ※



恐る恐る口に運ぶと、その肉は猪のような豚のような、何ともいえない不思議な味がした。

京子の舌はそれを美味しいと感じ取り、流れる川のごとく食が進んだ。

空腹は最高のソースということわざがあるが、今の彼女はまさにその状態である。

味付けされたニンジンやエンドウ豆が肉の味を引き立てていて、人肉だと分かっているのに、なぜだか嫌悪感は感じない。


「岩下さん、すごいわ。食べやすいし、味も最高ね」

「そう? 良かった。頑張って作った甲斐があったわ」


沙樹は心底嬉しそうに、聖母のように微笑んだ。

女優並に整った彼女の顔が更に綺麗に見えた気がして、京子の胸がキュンと高鳴る。


「うふふ……京子のその笑顔、とても素敵よ。あたし、あなたに手料理を食べさせてあげたいわ」

「ふぇっ!? あ、ありがとう」

「そんなに驚かなくてもいいのよ」


沙樹に優しい言葉をかけられ、京子は面食らった。

普段は自己中心的なのに、こんな綺麗な一面があるのを見たのは今日が初めてだろう。

彼女の表情や口調に、軽い冗談などは含まれていない。どこから見ても本気そのものだった。


(岩下さんって、意外といい人なのかもしれないわ。あたしの事を考えてくれてるみたいだし……)


京子の心のどこかに、小さな希望が生まれた瞬間であった。

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