新たな問題
あれから数日経ち、時刻は午前6時45分。
京子は本能的に異変を感じ、目を覚まして辺りを見回すと、内臓や骨が捨てられている穴の前で沙樹が四つん這いになっていた。
吐いていたのか、ハンカチで口元を拭っており、目は生理的な涙で濡れている。
「岩下さん!?」
「……あら、起きたの?」
「岩下さんが体調を崩すなんて珍しいわね。何かあった?」
「別に。ただの風邪だと思うわ」
そう言いながらも頭が痛いのか右手でこめかみを押さえ、眉間に皺を寄せている。
いつもと違う様子の沙樹を見て戸惑ったものの、その数秒後に京子はふと思い出した。
沙樹が男性に誘われ、彼の家に付いて行った事を……。
そしてその日を逆算して考え、すぐに結論に至った。
「もしかして、妊娠したんじゃない?」
京子の言葉に、沙樹の眉がピクリと動く。
彼女には流石に想定外だったのだろう。
17歳にして赤ん坊を身籠り、やがて自分達で育てていく事になる。
それに関しては狩りやカニバリズムに支障が出なければそれでもいいと思っているのだが、それより先に脳裏に浮かんだのは、出産するまでの生活の不安だった。
現に沙樹は吐き気と頭痛で山を降りる事すらままならない状態だ。
そして京子は狩りに慣れているといえど、1人だと失敗する可能性もゼロではない。
考えに考えた末、京子はある事を思い付いた。
「そうだわ……産まれた赤ちゃんが女の子だったら育てて、男の子だったら殺して食べるってのはどう?」
「いいけど、京子に子育てができるのかしら?」
「岩下さんのためなら何でも協力するわ。体調が安定するまでは、出来る限り狩りを頑張ってみるから」
京子は満面の笑みを浮かべ、血色の良くない沙樹の頰をそっと撫でた。
子供が産まれて人手が増えれば狩りの効率が上がると考えたのだろう。
2人の食料になるか、子供になるか。
天使のような顔をして、罪のない赤ん坊に残酷な選択肢を背負わせた京子であった。




