量産
時刻は5時22分。
沙樹は金属バットを片手に持って山を降りていた。
手軽に食べられる塩漬け肉を量産するためにも、人肉を調達しようと狩りの準備をしたのだ。
そして山を降りたところで、美しい顔立ちをした中学生ぐらいの少年を見つけた。
目は宝石のように青く、髪は亜麻色。身長は京子と比べて少し低く、まるで女の子のようだった。
タイミングを計って少しずつ近付くと、沙樹はバットで少年の後頭部を目掛けて思い切り殴打した。
不意を突かれた少年は身動きをとれず、平衡感覚が狂って地面に倒れる。
逃げる隙を与えまいと力任せに何分も殴り続け、呻き声を漏らしていた少年はやがてグッタリして動かなくなった。
彼の頭蓋骨は割れて凹み、更には脳や血管も傷付いていたのだ。
まだ少し体温が残っている少年の身体を背負って京子の元へ戻ると、草の上に死体を乱雑に置いた。
「新しい肉がまた手に入ったのね」
「ええ、割と簡単だったわ。身体が小さい分狩りやすかったのよ」
少年の服を全て剥ぎ取ると、桃のような可愛らしい尻が露わになる。
沙樹は少し考えた後、ナイフを握って刃先を尻の肉に宛てがった。
「岩下さん、まさか……」
「そのまさか、よ。この部分を調理したらどう仕上がるのか試したいじゃない?」
沙樹はズブリと音を立ててナイフの刃を縦に滑らせた。
柔らかい肉が裂け、黄色い脂肪と鮮血がトロトロと溢れ出る。
まるで、桃にカスタードクリームとラズベリーソースがかかっているようだった。
切った肉は水分と脂肪が多く、そのまま食べたらお世辞にも美味しいとは言えない。その部分に沙樹が今まで手をつけなかった理由の一つでもある。
だからと言って塩漬けにするには難易度が高そうに見える。
そこで彼女は、トマトやバジルと一緒に煮込む事にした。
「今夜の夕食はトマト煮込みに決まりね。食材を調達しに行くから、この子の腕とお腹の肉を塩漬けにしておいて頂戴」
沙樹は軽やかな足取りで再び山を降りていった。
久しぶりの下ごしらえに京子の口元が緩む。
彼女は血と脂肪が付いたままのナイフを握ると、慣れた手つきで少年の首と両腕を切断し、腹の肉を半分ほど切り取った。
付着した脂肪を洗い流すかのように大量の血が噴出し、ピンク色の生肉が見え隠れする。
そして血が粗方抜けると、腕と腹の肉を食べやすい大きさに切って塩を擦り込んだ。
沙樹を見て人肉の加工技術を学び、京子のスキルは少しずつ上達していく。
無惨に切られた少年の首は、そんな京子を悲しそうに見つめているように見えた。




