血液ドリンク
福沢京子は、男なら誰もが一目惚れするほどの美少女だった。
陶器のような白い肌、フワフワした栗色の髪、キラキラした淡褐色の瞳。
そして、モデルのようにスッキリした体型。
その美貌は、知らない人が見たら外国人かと思うほどだった。
だが今の京子は、僅かながら美しさを失いつつあった。
腕はカッターで切り裂かれて包帯が巻かれており、目は充血して赤くなっている。
そして、身だしなみも何処となくだらしなくなってしまっていた。
京子を変えてしまったのは、彼女のクラスメイト・岩下沙樹である。
沙樹はいわゆるレズビアンで、京子と同じく誰もが羨む美少女だ。
彼女は京子に恋心を抱いていたのだが振り向いてもらえず、腹いせに京子を家に連れて暴力したのだ。
京子の身体を刃物で切り刻んだり、食事は人肉しか食べさせなかったりと、それはもう残酷極まりないものだった……。
※ ※ ※
「さあ、京子。さっきは沢山吐いたから水分摂らないとね」
沙樹は水を入れたグラスを京子に差し出した。
水は赤みがかっていて、沙樹の左腕にはナイフで切ったような傷跡がある。
………そう、その水は沙樹の血が混入しているのだ。
グラスからは腐った魚のような生臭い臭いが広がり、京子は思わず顔をしかめた。
だが、逆らうと何をされるか分からないため、覚悟を決めて飲み始めた。
口内に広がる、鉄の味。
しばらくすると京子は、血を飲んで気持ち悪くなったのか、口元を右手で押さえて小さく呻いた。
(吐いちゃだめ、吐いちゃだめ、吐いちゃだめ……)
そう自分に言い聞かせ、吐かずにひたすら耐えた。
喉にせり上がってくるものを何度も飲み込み、こめかみには生理的な汗が流れた。
「偉いわね、あたしがさっき言ったことを守ってくれて」
沙樹は上品な魔女のように静かに笑みを浮かべ、京子の頬に軽くキスをした。
京子は無言でこくりと頷き、沙樹の背中に腕を回したのだった。