天国への赤い道
時刻は9時7分。
二度寝から目が覚めた京子は、黒いワンピースに着替えてリビングに向かった。
朝食にチーズとバジルのパンを食べていると、窓から話し声が聞こえる。
カーテンを開けて窓の外を見ると、風紀委員長の綾小路隼人が何やら沙樹と言い争っているようだ。
心優しい隼人は京子に好意を抱いており、内気な彼女を妹のように気に掛けていた。
京子が学校に来なくなり、最初は体調不良で休んでると思って心配していたのだが、ある時彼女が沙樹に外へ連れられているのを見て違和感を覚え、気付かれないように後を付けて沙樹の家を突き止めたという。
そして、京子が学校に来ない本当の理由が分かってここに来たのだ。
「罪のない京子ちゃんにそんな事をしておいて、よくそんな態度でいられるな。さあ、京子ちゃんを返せ」
「誰に何と言われても、京子はもうあたしだけのモノだから無駄よ」
「っ、ふざけんなよ!!」
隼人は声を荒げると沙樹に掴み掛かり、その様子を見ていた京子は目を丸くした。
普段は穏やかな隼人が激怒した事よりも、自分の居場所を取られそうになっている事に驚いたのだ。
このままでは沙樹がやられてしまう。そして、この家に二度と居られなくなるかもしれない。
そう思った京子は、金属バットを手に取って玄関を出た。
「あ、京子ちゃん。今、沙樹と話を___」
「委員長……あたしの岩下さんに何するのよ!!!」
なんと京子は、隼人の言葉を無視して金属バットで彼の頭部を激しく殴ったのだ。
突然の出来事で言葉を失った隼人はゆっくりと京子を見上げた。
「京子ちゃん、なんで……?」
「ごめんなさいね、委員長。あたし、もう元の場所には戻らないと決めたのよ」
「何を言ってるんだ……?」
「これからはずっと、岩下さんと暮らすの。あなたはもう、いらないわ!」
そう言い終わると、京子は隼人の腹を蹴って地面に倒し、一心不乱にバットで殴打し続けた。
隼人は身を守ろうと腕で頭を庇うが、その腕は足で強く踏み付けられて損傷した。
もう、相手が先輩だろうと容赦は無い。
何度も何度も殴られた彼の身体には鮮やかな血が所々滲んでおり、更には手足を傷めているから動けそうにない。
京子は隼人の耳元に顔を近づけると、優しい声でこう囁いた。
「うふふ……自由に動けなくて辛いでしょう。でも、安心して。もうすぐ楽になるから……」
隼人は気力も体力も消耗され、眠るように意識を失った。
彼の身体をズルズルと引きずり、家の中へ戻っていく京子。
目当ての場所は、キッチンだった……。




