1人きりの日 〜前編〜
壁掛け時計の針は7時15分を指している。
スポーティーなTシャツとショートパンツに着替えた京子はリビングへ向かった。
リビングに向かうと、沙樹が外出の支度をしているところだった。
鞄に入れられた持ち物は、書類が入れられた透明なクリアファイルと果物ナイフとロープと鍵。
何の書類なのか見ようと思ったが、遠い位置から見たため、如何せん読めなかった。
(これから狩りに行くのかしら。でも、1日家を空けるほど時間はかからないと思うわ……)
京子の頭の上に疑問符が浮かぶ。
そんな中、準備が整った沙樹は玄関のドアを開けて家を出た。
「念のために戸締まりをお願いね。それと、人肉の調達はあたしがやるから」
「わかった」
「それじゃぁ、行ってくるわ」
玄関のドアが閉まると、家の中が一気に静かになった。
沙樹の家に住むようになってから、1人きりになったのは初めてである。
とりあえず何か食べようと思った京子は、冷蔵庫から武の死体を取り出し、胸の部分を切り取った。
ヌチャヌチャと汚い音がキッチンに響き、血が出るのを楽しむかのように捌いていく彼女の両手が真っ赤に染まっていく。
よほど空腹だったのか、京子は手に付いた血をペロペロ舐めとった。
京子の事をよく知っている人が今の彼女の姿を見ても、京子だとは夢にも思わないだろう。
「うふふ……美味しい」
その後、一口大に切った肉をじっくり焼いていく。
調理の腕前は沙樹より若干劣ってはいるものの、彼女が調理しているところを幾度か見た事があるから大体上手く出来ていた。
血に染まった手を洗い流し、焼いた肉に塩胡椒を振りかけると、京子は心底嬉しそうに笑った。
まるで、武がただの肉に変わり果てた事を喜んでいるかのように……。
あれから数十分経ち、肉を食べ終えた頃。
唐突にメールの着信音が鳴り、ポケットからスマホを取り出す。
差出人は沙樹だった。
『ちゃんと朝食食べたの?
あたしがいなくて寂しいでしょうけど、6時頃には帰るから安心して頂戴。
それと、午後になったら人間を2人狩るつもりよ』
今度は誰が犠牲になるのか。
男の子だったら嬉しいなと思う京子であった。




