極上の人肉
またしても短い話ですが。
「さあ、出来たわ」
あれから30分が経ち、ピーマンの肉詰めが完成した。
肉は、もちろん武の肉である。
付け合わせにニンジンとエンドウ豆が添えられ、表面に掛けられたケチャップが、茶色く焼けた肉を赤く彩っていた。
「岩下さんって、料理上手ね。お店のものみたいだわ」
「そう? 嬉しい事言ってくれるじゃない」
いつも以上にご機嫌な沙樹。
それは京子も同じようで、動きが心無しか軽やかだ。
肉詰めを口にすると、目をピエロのように丸くして、「んー♪」と気持ち良さそうな声を発した。
「今まで食べた中で最高の肉ね。世界一美味しいわ」
流れる川の如く、京子の口からスラスラと褒め言葉が出てくる。
沙樹は「そんな事ないわよ」と誤摩化すように言ったが、京子にしてみればお世辞でも何でもなく、本当に極上の肉なのだ。
味も食感も、最初の頃に食べていた肉とは比べ物にならなくて、いつしか彼女は武の肉の味が忘れられなくなっていた。
もっとも、彼の肉はもう3分の1しか残っていないのだが。
(河本君の肉が、こんなに美味しいなんて………)
淡褐色の瞳をキラキラ輝かせている京子を見て、沙樹は我が子を見つめる母親のように笑った。
「よっぽど美味しかったみたいね。やりがいを感じるわ」
肉詰めをまた作ってあげたい。
河本君の肉をまた食べてみたい。
2人のそれぞれの考えがダイニングテーブルの上を交差した瞬間であった。




