知られざる過去
時刻は12時15分。
ダイニングテーブルの上には武の肉の唐揚げが盛りつけられた皿とフォーク、りんごジュースが入ったグラスが並べられている。
京子は、沙樹がどうして殺人とカニバリズムに手を染めているのかが今更ながら気になり始めていた。
確かに、人を沢山殺している事は分かっても、やり始めた動機までは分かっていない。
遂に京子は核心をついたのだ。
「ねぇ、岩下さん。一つ聞いていい? いつから人を殺して食べるようになったの?」
「んー、そうね。高校生になって間もない頃だったかしら。ちょっと長くなるけど、今から話すわね」
※ ※ ※
話によると、こうだ。
今から1年半前の事。
当時の彼女は、残酷なほど厳しかった母親を憎んでいた。
門限があるのはもちろん、友達の家に行く事は禁止、恋愛も禁止、漫画や雑誌も禁止、テレビは1日1時間など制限が多く、それを1つでも破ろうものなら殴られたり、外に閉め出されたりしたという。
ストレスで雁字搦めとなった沙樹は、次第に『殺したい』という邪な思いが芽生えた。
そして、高校生になって3ヶ月が経ったある日。
堪り兼ねた沙樹は、寝ている母親の喉を包丁で掻き切ったのだ!!
小さな呻き声と共にルビーのように赤黒い血が流れ、ジワジワと布団に染み込んでいく。
この時、人生初の殺人を犯した沙樹は何とも言えない高揚感を覚えた。
(人を殺すのって、こんなに気持ちいいのね………こんな面白い事は、他にないわ)
一度覚えてしまった事はなかなか忘れられるものではない。
人を殺した達成感と興奮が脳にこびり付き、もっとやりたいと思った沙樹は母親の死体を庭に埋め、何も言わずに家を出た。
そして住宅街の中を彷徨っているうちに、金のある1人の男性に目を付けた。
まだ学生で経済面に多少不自由があった沙樹だが、彼を殺せば金を奪えるし、家の方はこれから住む場所として最適だ。
色々な考えが浮かび、彼女は男性の背中と左胸をナイフで刺した。都合の良い事に、周りに人はいない。
男性の死体を引きずりながら家の中に入り、住む所が決まったのはいいが、死体が見つかってしまっては元も子もない。
それならどうすればいいのだろうか。
色々考えた結果、ある究極のアイデアを思い付いた。
どこかに埋めるよりも、食べた方が綺麗に片付けられるんじゃないか………と。
※ ※ ※
「その日を境にカニバリズムを行うようになったのよ。食費が浮くし、一石二鳥よ」
得意げな顔で長々と話す沙樹。
京子は唐揚げを食べながら、相槌を打って話を聞いていた。
「そういう事だったの……だとしたら、クローゼットの中の死体はどうするのよ」
「燃やして骨だけにする事にしたわ。もう流石に片付けた方がいいもの」
沙樹の過去話を聞いて、少し納得がいった京子であった。




