魔のクローゼット
沙樹が武の死体を調理している間に、京子は家の中を探索していた。
今まで1階と地下室しか行った事がなかったので2階に行ってみる。
ほとんど行かないからか、床には埃が溜まっており、天井には蜘蛛の巣が張っていた。
せめて掃除機がけぐらいしておいて欲しいなと思いつつ、どれか適当にドアを開けるとそこは前の住人のものとおぼしき広い部屋だった。
沢山の小説や教養本が入れられた本棚、1台のパソコンが乗った豪奢な机、白を基調としたベッド。
まるで外国のような上品な雰囲気があったが、京子はある事に気付いた。
クローゼットの方から、腐ったような臭いがするのだ。
「まさか………」
沙樹の事だから、クローゼットの中に何があるのかは既に予想できている。
京子は咄嗟に鼻をつまむと、勇気を振り絞ってクローゼットを開けた。
すると…………………そこには、喉笛を真一文字に切られた女性、子供であろう小さな骸骨、身体のあちこちに殴られた痕がある男性など、年齢や性別を問わず何体もの死体が乱雑に積まれていた。
ずっと長時間放置されていて、そして夏なのもあって、耐えられないほどの腐乱臭が広がる。
しかもその中に、またしても京子がよく知っている人物がいた。
「か、かず君……よね……?」
目をグジャグジャに潰され、舌と右腕を切断された少年の死体があるが、なんと彼、沢田和義は京子の彼氏なのだ。
血は茶色く変色しており、身体の一部には緑色のカビが生えてしまっている。
何とも汚い姿に変わり果ててしまった彼氏の死体を見て、京子は絶句した。
「そこで何してるの?」
いつの間に来ていたのか、沙樹の声が不意に聞こえる。
「岩下さん……かず君の事も知ってたのね……」
「うふふ、ごめんなさいね。京子といつまでも一緒にいるために、彼は邪魔だと思ったから片付けたのよ。いらない肉はここに入れておくの」
満面の笑みを浮かべる沙樹。
その笑いは不気味な笑いではなく、単純に嬉しい事があった時のような無邪気なものだ。
人を沢山殺しておいて、悪びれた様子が彼女には全くない。
この時、大切な彼氏を失ったショックで、京子の中で溜め込まれていた気持ちが爆発した。
「何が可笑しいのよ………罪のない人達をこんなにしておいて、なんで平気でいられるの? 人を何だと思ってるのよ!」
「そうね……おもちゃとか、食料でしかないわ。あはははは」
沙樹は何ともないかのように笑い飛ばした。
それと相反して、京子は情けない表情を浮かべて震えた。
「ふざけてるの……?」
「私とずっとここにいれば、そのうち慣れるわ。食事のために人を殺すのは私のルールなのよ。それと、私にこんな事をさせたのは誰かしら?」
京子の首に手をあてがい、ガッツリと視線を合わせる。
「そうそう、食事の準備が終わったから降りましょう。新鮮な肉だから、味は最高よ」
時刻が12時を超え、2人は階段を降りていく。
(岩下さんがあんな事に手を染めていなかったら、一緒に暮らしてても悪くないのに……)
京子の顔は、心無しか諦めているように見えた。




