上京(situation)5 \(`^´)/!
「よし、いいな?」「うん」「うん」「はい」
「“サーチ【探索・調査】”」
カハヤが索敵コマンドを行う。
パーティとして、この中で一番の経験者であるカハヤが当然リーダーだ。
すぐに僕のモニターにも索敵結果が反映されて近い敵から離れた敵まで色分けの矢印で方向が指示される。接近の度合いはわかりやすく、矢印の大きさの変化(遠いと小さく、近いと大きい)と信号の色と同じで遠いと青、中距離で黄色、近いと赤が移動によって次第にじわーっと変わる感じ。索敵範囲の指定ができるのでその割合で色が決まってる。カハヤが今行ったのは最大100mだね。
「手近なのからいこう」「うん」
青が2つ、黄色のものがひとつあったのでそれに向かう。
緊張感はなく、さっきまで歩いていたのと変わらないペースで歩き出す。
一番初級の場所だ。やられる方がまずおかしいエリア、自分も何度かこの辺のモンスターとは戦って勝っている。気負うことはない。
そんなわけで思考はまた逸れる。このサーチだが、オプションでまた色々ある。矢印でなくビーコンで点滅仕様にしたり、色を好みのものに変えられもする。ヘッドディスプレイが振動したり音で知らせたり(接近の度合いでそれらを組み合わせて切り替わるのも当然)等、この辺なら設定操作で気軽に変えられるが、購入項目もある。
それはマップ情報が投影されてそこに詳しくモンスター・各施設の配置図、何のモンスターがいるか、そのパラメータまで載ったものが売られていたりする。
マップ事態(モンスター等配置図抜き)はダンジョン内を冒険していればモンスターのドロップ品や街でダンジョン内通貨を使ってそんなに高くない値段で購入して手に入れられるのであくまでプレイヤーのプレイ環境のストレスレス【快適さ】追究、スポーツエンターテイメント施設ダンジョンの行き届いたサービス提供の一環だろう。僕もカハヤも、普通にモンスターを倒して得たお金で街で購入した。
閑話休題。
草むらがもぞもぞ動いてる。モンスターが見えてきた。
「あれかな?」「あれだな」
少し遠くにラットがいた。
普通の野生のネズミだ、1体全長約60cm程、それが3体固まってる。
「距離21m。ドブネズミですね。ネズミ目ネズミ科クマネズミ属。学名 Rattus norvegicus。茶色気味の灰色の体毛が特徴的です。耳がイエネズミの中では比較的小さく、性格が獰猛です。ネズミの脅威は攻撃力でなく、その繁殖力と雑食性、そしてネズミ自身の生命力の強さにあります。下水やゴミ捨て場、劣悪な衛生環境下でも問題なく生きて繁殖し、ゴミや死肉等見境なく食物として摂取でき、あらゆるものをかじる習性は建築に対して建材や配線コード、プラスチック類も問題なくかじることで破壊まで追い込み、建築物の早期老朽化・場合によっては火災や事故を招くことがあります。何より人間にとって一番問題視される脅威は伝染病の媒体となっていることでしょうか。サルモネラ菌、レプトスピラ菌、ペスト菌……人類史にも残る程、数多くの人々の命を奪った病原菌を保持しており、家屋に潜んで自身もしくはその老廃物の風化→空気中浮遊から人と接触することで移されるケースがあります。ネズミ自身もダニやノミに寄生されており、これらの存在によって家屋内の衛生環境をより劣悪にさせていく厄介な生物としてカテゴライズされています。戦闘において弱点は、全体的に体構造は他のモンスターと比較し弱いのでどこを攻撃しても一定のダメージを見込めます」
「う、うん…………ありがと」
「………………シェ、スピの解説、ありがたいがもう少し…」
「ごめん、わかってる……わかってるから」
「スピ、難しい…」
「………………」
最後の一言だけで正直よかったな…。まだまだ勉強することいっぱいあるね…。メモリーとCPUのバランスが合ってないよなぁ……。
スピが敵の情報を澱みなくくれたけど……要するに、害獣だ。
それに、いくらその手の情報が緻密でも、ここダンジョンに生物としてのモンスターは“いない”。
全てFiペット召喚同様のナノマシンで構成され、生物のあくまで形と性格だけの特徴が反映された無生物だ。衛生面なんてまず問題ない。触感はある程度の柔軟さがあり、色はこちらの戦闘能力をある程度加味された形でディスプレイ上で倒しやすさから色分けされてる。今、目の前のネズミの色は灰色でも茶色でもなく、マッピング表示と同様に薄い色付けがされてて青色だ。
攻撃を当てて倒しやすいようにこういう本来小さいモンスターはちょっと大きくもなっている(元は大きくても30cm位じゃなかったっけ?二倍のデカさて…)。なので、倒すのにためらいはないし、設定としても害獣だ、実家でも時々見たことがあって母さんを困らせてた。
倒す。
「気づいてない。じゃ、右お前、真ん中フロン、残りオレで」
「わかった」
先制攻撃だね。
僕はBボールの感触を改めて右手で確かめ、準備をする。
シャッ……シャッ……シャッ……シャッ……
Bボールを地面に何回かこすって滑らせる。
そうすることで中の球の始動の回転が始まる。あとは手首で回してジャイロ効果で回転数を上げてけばいい。
少しまだ、この回転を上げるのになかなかコツがいるので、たまに減衰して止まってしまう。
今回は…
、、、、ィィィィィィィィィィイイイイイイイイイイイイイイイ
…うん、大丈夫だ。
カハヤを見てうなづく。
「よし、3つ数えたらいくぞ。3……2……1………GO!」
カハヤとフロンがラットに向かっていく。
僕はその場からすぐにサイドステップで右に2、3歩横に移動して射線に二人が入らないように注意しながらそこから一歩踏み込み、オーバースローで投げた…!
腕をムチのようにしならせながら勢いよく投げられたBボールはやや放物線を描きながらネズミに向かっていく。最後のスナップもバッチリ、指のかかりも悪くない。
バシッ!!
「ギィッ!!」
見事命中!
久しぶりだから距離感に不安があったけどなんとか当てることができた。
ラットも今の一撃で倒せたようだ。ラットの姿形がナノマシンの粒粒に戻ってどこかへ消えていく。
そして、敵から跳ね返ったBボールが戻ってくる。
「うおっと!」
パシッと左手でキャッチする。
プロテクター以外で装備してるもので左手にだけ着けてるグローブがある。
主に手のひらと甲を保護する部分があるだけで指の部分から先はむき出しの手袋を失敗したようなグローブ。
オープンフィンガーグローブと言って、自転車のプロライダーや手が汗ばみやすいマンガ家さん等が愛用するこの手のグローブだけど、これもダンジョン仕様でBボールに合うように作られている。
グローブ内に電子チップが仕込まれていてBボールと連動し、Bボールの動きをある程度誘導する。主に、最初の衝撃後、使用者の元に戻ってくるよう指示を出すプログラムがされている。
Bボールの方は自身の回転を地面もしくは壁等ぶつかる対象を検知して回転部分がぶつかるように接触するプログラムがされてるのと回転方向もコンピュータ制御でコントロールされるので常に使用者の方に返ってくる。
ここで問題なのが、ちゃんと戻ってくるかはヨーヨーみたいに紐等がついてないのでBボール自身の回転力次第になる。
あらかじめ攻撃力としての回転は当然のこと、そのあとに戻ってくるだけの力・回転がないと、途中でコロコロ転がって、そのまま停止してしまう。
今回は問題なく戻ってくるだけの回転を出せていたようだ。
「ふぅ……ってカハヤだった…!」
いささかそれでも久しぶりだからかな、この時になって緊張してたみたいだ、僕。
自分のことでいっぱいになり、カハヤ達のフォローを忘れてた。
カハヤの様子を見ると、まだ戦っていた。
フロンは、あ、今終わった。普通に飛行して助走をつけた状態からの突進攻撃。今終わったから2、3撃入れてたのかな?
カハヤはロングソードで何度かラットを切るけどしぶとくて、また起き上がり体当たりをしている。
接近戦なので下手するとカハヤにぶつけかねないのでこっちで攻撃の援護はできない、かな。
でも、もう終わるだろう。 ヘッドディスプレイを通して見えてる敵ラットの残りHPバーを見ても残りわずか。
多分、あと1、2撃で………
ザシッ!
「ギィッ!!!」
あ、無事終わった。
「ふぅ~…やっぱこのぶよぶよした感じは好きじゃないな…」
カハヤがロングソードを鞘にしまう。
戦闘終了だ。
「ただいまの消費燃量、シェ・26.72kJ、増加筋肉量…まだ至りませんでした。カハヤの消費燃量は39.96kJ、増加筋肉ry「すまん、俺はいい、ありがと」……はい、わかりました」
スピが戦闘終了にあたっての結果報告をしてくれたが、カハヤはそうだったね。
「シェ、スピのやつ忘れたのか?もっかい再設定伝えとけよ…」
「はいはい、全部終わってから知りたいのね。スピ、僕のだけでいいよ。あと消費燃量だけでいい、ガンガンやるから」
「わかりました。カハヤの状態報告は不要、シェは消費燃量のみの報告、了解しました」
「うん、ありがと」
戦闘参加できないFiペットはこうして観察と戦闘終了の宣言、情報供与となる。最初にデフォルト設定されているのが消費カロリーと見込める筋肉の増加量とその部位(経験値という不思議なパラメータはない)。他にもやってほしいことがあったらその度に伝えたり、時間がかかる場合は練習させて早くできるようにしたり、そうして成長させるのもまた楽しい。
もちろん、ダンジョン内では自分の体を鍛えることが大事なんだけど。
「さっさと拾おう」
カハヤは足元に落ちているコアを拾う。
モンスターは一定のダメージを検知すると戦闘不能となり、こうしてコア【核】がナノマシンの構成を解く。
ナノマシン事態は一旦、また新しいモンスターとなるようフィールドの特定の回収地点にまで戻るようにプログラムされている。
残ったコアは回収して街に持っていけば換金してダンジョン内の通貨〝ゴールド【G】″に替えてくれる。このゴールドは実際に触れたり見ることはない。換金されれば自動でアカウントのウォレット【財布】に振り込まれるし、使う時は認証することで減っていく。初級モンスターでは10G程度しかない。街の中で売ってる一番安くて原料もわからない駄菓子をひとつ買えるような値段だ(誰かが買ってるとこなんて見たことない)。
「どんどんいこうぜ、一時間はノンストップだ。1000kJは稼ぐぞ」
「わ、わかった…」「おー!」「はい」
さっきのスピの報告を振り返ると、先は長い。
筋肉がつくのは今すぐじゃなくて時間経過での新陳代謝によるものだとして…。消費カロリーも少し前までジュールではなかったけれど、移行が大分進んだ。1カロリーの4倍らしい。まだ戦闘をし始めたばかりだし、小数点以下の熱量なんて誤差だし、20や30kJなんてあってないようなもんだ。
ある程度身体があったまったらカロリーの燃焼量も一定の度合いで大きく燃えていく。
カロリーと敵に与えられるダメージは少し関係があって、燃焼する各運動量とそろうようにモンスターへ与えられるダメージも変わっている。
わかりやすく言うと、僕はさっきの戦闘で一回の投球でラットを倒したけど、カハヤは何度か剣を振ることでラットを倒した。一回の投球と剣の数回の素振りがつまり同等の運動量であるわけだ。
なので、モンスターとの戦闘方法は自分の好みに合わせるのが長く続いていいし、気分で街へ行って装備を変えて戦うのもいい。ここには把握できない程の種類の戦闘手段がある。自分だけの戦闘方法で運動する。自分だけの強さ、自分らしさ…。これがダンジョンの一つの売りらしい。
まぁ、僕は動くよりも勉強したりモノを知ってく方がまだ楽しいんだけど。
ジュール計算投稿当初、間違えた…1kcal=4.184kJね、はいはい(4倍でなくなんか4で割ってたわ…アホだ…orz)。
なんか大事だけどこういう細かいとこでいちいち調べて時間くったなぁ…。
適当に調べた1分間のキャッチボールから更に適当に割り算したり、剣道の素振りの消費カロリーから…めんどくさかった…自分で始めたのに…。ちなみに体重でもまた微妙に違うから、こんなん1時間位バンバン動き回ればなんでもいいと思う。持続する理由で一番面白そうな舞台を設定したに過ぎないし。
うーん、Jなんて小数点以下いらないかもなぁ…世界観としてそれだけ正確に計測ができてる文明の高度さを出したいのだけど…。既に単位をJにしてる時点でそれが測れてるってので4倍近く正確、更にそこから少数以下測れるってんだから小さいけど未来感あるかなって…。
…………スピさんのご活躍で描いてて楽しいとこもめんどいとこも増えてくなぁ…。