上京(situation)4 |д゜)
「まったく、もうすぐ一度帰るんだろうが。準備しろよ?」
「カハヤだってなんか暇つぶししてんじゃん」
「俺はすでに計画予定が前の続きでスケジュールいっぱいだし、こっちでやることなんて少ねぇよ。何人かでやるし。だからダンジョン漬け」
「何それずっるい」
「お前開拓って知識以上に体力だぜ、まず」
道を歩きながらある程度返答がわかってる内容の会話を交わす。
まぁね、勉強しながらそこで帰郷しようとしてる子がみんなダンジョンの話してて、気になってはいましたよ。自分もそのうちそのうちって思ってたらカハヤに呼ばれて久しぶりにダンジョン入った次第でした。
「でもなんかフロン、最近勉強してなさ過ぎてない?なんか幼くない?」
「スピみたいに知的だったらいいってわけでもない」
Fiペットには知能があって忘れる機能もある。優先順位が低いと判断した情報はどんどん蓄積されるデータの下位に移行し、メモリーの限界になる前に定期的にデリートされる。主人とのやり取りや出来事はまず忘れないし、知識はたいてい電脳百科からひいてくればいいので大事なことや主人との信頼関係に齟齬が起こることは少ない。仮に齟齬で生まれるケンカも信頼をより築く上で多少許せる程度だ。
Fiペットが覚えられるメモリーはオプション購入で増設できたりする。スピのメモリーはフロンより少し大きくしてある。僕がこの街に来て先に来てるカハヤにちょっと見栄はろうとした青春の過ちだ。あとですでにカハヤが自分で必要な知識は自分で覚えててフロンをバランスよくより身軽に動けるようにと適正なメモリー量にしてることを知った。
メモリーの話をしたら、あともうひとつは思考力、情報処理能力であるCPUだろう。
こっちはお金を使う必要はない。Fiペット自身にいろいろ問いかけをして考えさせれば考えさせるほど処理能力は上がっていく。
仕組みはよくわからないけど、人間の脳内シナプスの連結・連携の働きと同じと考えていいみたい。使えば使うほどよくなり、より多角的な、いろいろな刺激を与えてやることで考えに深みが出る。
Fiペットは主人のサポートがまず第一の存在意義だ。問題に対し、多くの解答・手段を用意することが求められ、何より彼らは考えることが好き。情報処理に、人間が勉強するのと同じように、これを楽しい事と捉えている。
つまり、さっきのしりとりだけでもこう僕は考える。
フロンは人懐っこい性格で、普段からそうしているから積極的に「遊ぼう」って本来主従関係にあるはずの主人に言ってくるし、それに比べると議論とか勉強ばっかしてた僕の場合、スピは控えめな性格をしてもいたけど、自分にない刺激を求めてあとから僕に申し出てきた。
フロンはつい最近調べた国名ばかりを新しい刺激を求めて少し意識してやったのかもしれないけど、それ以外の解答はそんなに用意できなかったのもあるのだろう、限定された環境でより高度な最適解を目指していた。スピはここに来た頃にやった有史の情報まで覚えていてそれをしっかり出してきた、ついでに危険物としてカテゴリーをしてたのかも。
ま、確認はめんどいし、彼女らの能力が一番発揮されてもらいたいのはそこではない。しょせん、遊び遊び。そんな感じ。
「さて、この辺でいいだろ」
「うん」
適当に集落とも先にある街とも離れた中間位の何もない場所、そこから道を外れて草むらに入っていく。軽く手首や足首の柔軟をして、草むらの中で深呼吸(あ、草のにおい)、腕振り、屈伸、アキレス腱伸ばしや伸脚、他に何があったかな…「跳躍と上体反らしはどうでしょう?」「ありがとうスピ」
スピはいい子だ。
「カハヤ、もっと伸ばそー」
「こんくらい?」「もっと」「こんんくらい?」「もっと!」「こんんんんくっらい?!」「もっともっと!!」「こんんんんんんんんnくらああああああああああって、無理じゃアホー!!!」「アハハハハハハ」
何してんのカハヤ。
「シェ、あと8cm深く、上体は13cm反らせられるはずです」
「うん、スピありがとう……でもちょっとそれよくわかんない」
「はい、すみません…」
「あ、でもいけるかな!さっきより伸ばせられるかな!うん!ふん、ふん、……んんんっ??!」
ちょ、ちょっと痛くなった…。
「お前何してんだ…」
「カハヤだって!!」
最後に深呼吸ともっかい手首や腕のストレッチをしながら自分の装備類と戦闘手段の確認。
いよいよ、バトル【戦闘】だ。
ダンジョン内には当然、モンスターが発生している。
それを倒して、僕ら冒険者は運動を行う。
モンスターは様々で、この草原フィールドには初心者向けのモンスターがポップ【出現】する。
ここ最近、運動から離れがちな僕にはちょうどいい。カハヤならもうちょっと難しいとこでもいいとこだからまず戦闘不能になる心配はないだろう。
装備で身に着けてる物は主に3つ。
安全性が重視された初心者ならだれでも着けてる初期装備のプロテクター、これでまず大ケガはしない。
頭にはプロテクターの機能も併せたディスプレイモニター。ヘルメットタイプで目の部分だけ覆う形になってて邪魔にならないようにできてる。任意で着脱可能でどんなに激しい動きでも外れたり割れることなく、ARで加工された世界の雰囲気を壊さずに体験できる。慣れてしまえばほとんど邪魔にならないし、Fiペットの姿を捉え、自身のパラメータや持ち物を視界はじに表示もしているのでまず外せない。
そして、データ上のみではリアルに還元できないアイテム類を入れる為の簡単なポーチ。携帯食料やポケットティッシュなんかを入れてる。小さめの腰巻きタイプ。
モンスターへの攻撃手段は…僕は、ひとつ。
ポーチの主要とは違う、専用のポケット(いつもこれだけをこのポケットには出し入れしている)から一個のボールを取り出す。野球ボール…というよりソフトボールの大きさだろうか。
『Bボール』。
名称の由来は昔のゲームハードのボタン配置がどうとか…忘れた。Aボールはない。その辺がなんかしっくりこない。
仕組みは簡単、一昔前のパワーリストボールと同じ。けど、それとはずいぶん性能はアップしてて比べるまでもないみたい。
形は一応言うと、球に一枚覆うように薄い球体の外装の持ち手があり、外装には大きく二つの穴が対になるように開いている。その穴から中の球がむき出しな状態。外装は極端だけどドーナツみたいな面積しかなくて中の球が本体な感じ。
覆う外装はシンプルな作りだけど自分が持つ為だけのものだしね。
中の本体はジャイロ効果の力の収束を使って中の球を回転させて手首の回しで加速させる。この回転を使って攻撃を始めいろいろでき、カスタマイズが可能。
僕は買った時そのままでほとんどいじってない。まだ扱うのも慣れてないしね。都会に来た浮かれで散財した物の一つで、物珍しさから普通のボールよりいいかなって思って買っちゃった。
カハヤも着けてるものは同じような装備だけど、攻撃手段はロングソードとフロン。
剣は自分の身長に合わせてチューンアップされている。振りやすく、適度に重い。両手で握って振るうある程度使い込まれた剣。
そして、フロン。
カハヤがポケットからピンポン玉くらいの球状の物体を出し、地面に置く。
「フロン、こい!」
モニター上からの目線操作でコマンドをタップしたのだろう。
どこからともなく白いシュワシュワと小さな粒が地面に置いた球体に集まるとドラゴンの形を形成、すぐにフロンと同じ色と形に変化した。AR上のトルンとドラゴンの人形が重なり、一瞬ぱちくりと瞬きすると同期が完了。
途端にAR上のさっきと変わらず、僕等の周りを羽ばたいて飛び跳ねまわる。
Fiペット召喚。
球体のコア【核】をベースにナノマシンをまとわせて登録しているFiペットの姿を形作る。
ダンジョン内のオプション購入項目の一つで、ダンジョン内でFiペットに実体を持たせて戦闘に参加させることができるのだ。
ダンジョンに一緒に入るようになってから僕はカハヤがメモリーや武器でなくこちらにお金をつぎ込んだことをあとで知った。知って、後悔した。
「カハヤー!」
「ぶっ!?ちょ、おま、実体で特攻すんなっての!マジでダメージ…」
うらやましい…うらめしい!
僕もスピを実体で触れたい。
「シェ、目標金額まであと780リンギットです。頑張りましょう」
「ごめんスピ、君には金銭感覚を教えてなかった。学生にはお金ありません…。これ、万国共通ね…」
地元の通貨に換算してくれて気が利いてるのはありがたいけどね…。
奨学金とバイト代出てるけど家賃と生活費差し引いて月の小遣いなんてスズメの涙です。Fiペット召喚の価格がそもそも高い。全然足りない。カハヤがかなり頑張ったとしか言えない。
「そうですか…」
「ごめんね。帰ったら家計簿でも覚えてもらおっか…携帯食料…は辞めてー、健康的な食事をしながらももっと堅実的な資金繰りを考えないとね…はは」
カハヤさん、隣でにらまないでほしい。はー…ほんと、ここまで携帯食料でやってきたけどやっぱ無理があるね。
さて、この身体にそろそろ喝を入れますか。
読んでくださった方はありがとうございます。
ペース配分が慣れない…。あんまり描く人間でもないので…。
これ一本でやってるわけでもなく、普段の余力の中で描いてます。カクヨムとかpixivでもゆるりとやってましてそうして分散されてく結果、続きはなかなか進まないと思います。




