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るいとハジメとチューリップ


 勇者手続きが完了した。

 これで名実共に、私は勇者だ!


 ……と、それはそれとして、私とって大きなイベント、


“念願のお洋服を買う”


 ことが叶いそうだった。

 これでやっと、人並みの生活が送れる……。

 

 一応役所の職員に、勇者が普段着を着ても良いのかと尋ねてみると、


「村の外に出る時は戦闘服じゃなければダメです。でも、村の内部では一応自由ですよ。ただし、私服だと勇者割りとか、そういったサービスは受けられませんけどね。それに、勇者っぽくあるというのも、ひとつの仕事となりますので、なるべくはスーツで居て頂きたいものです」


 と、グレーな答えが返ってきた。

 グレーならば、私としては白と言い張るしかない。


「お坊さんみたいなものかな?」


 役所を出ると、背中のハジメちゃんが言った。


「お坊さん? お坊さんって何かサービス受けてるの?」

「分からないけど、お坊さんがアロハ着てたらがっかりするじゃん」

「そうだね」

「だからほら、るいもそのままで良いんじゃないかな」

「嫌だね。可愛い服買う」

「えー。ダンカンはどう思う?」

「僕も、そのままで良いと思うよ」

「嫌だね」

「ほら。ダンカンの性教育にもなるし」

「なんないわ。こんな特殊な教科書あってたまりますか!」


 雑音は無視して、足早に多くの商店が並ぶメイン通りに向かった。

 

 服屋はメイン通りに二件ある。婦人服店と、紳士服店の二件。ちゃんと住み分けがされているらしい。

 婦人服店の店名は『ぐるぐる』だった。可愛い木の看板が掛かっている。ベビー用品店の倍以上の敷地面積が有りそうだった。

 店に入る。

 全体的に木目調で、雰囲気は良い。凝ったディスプレイも無く、知らないクラシック音楽が流れていた。

 商品は、古着屋かと思うくらいに、とにかく種類が多かった。村全体のファッションを任されているので、多様性に命を懸けている感じだ。

 全体的に地味ではあるが、選び応えがあった。

 

「やっぱりブランドのとかはないんだね」

「ブランドって?」

「H&Mとか……」

「もしそんなのがあったら、そのルートを辿って行けば元の世界に戻れるのにね」

「あら、ハジメちゃん頭良い」


 店内は混んでいるわけでもなく、ガラガラってわけでもなかった。安売りカートを引っ掻き回すおばちゃんもいるし、若くておしゃれな感じの女性客も、少数だけど居た。

 洋服は、着せ替え人形に着せる様な独特なセンスの物から、都会でも着られるまともな物もチラホラあった。

 勿論、オシャレの先端を行くようなものは無い。

 でも、オシャレの先端なんてシャーペンの芯みたいにポキポキ折れて行くんだから、無いなら無いで誰も気にしないんだ。


 私は悩みに悩み、選びに選んだ。

 時間が掛かりそうだった。


「ダンカン、他のお店行ってても良いよ? 近くにゲームセンターとかないの?」

「あるけどいいよ。試着するときとか、ハジメちゃんを見てなきゃいけないでしょ?」

「ダンカン良いね。好青年だね」

「わたしが誘拐されないように、しっかり子守りをするんだよ」


 甘えられる物には甘える。たとえそれが、ずっと年下の少年でも!

 ゆとりの本領を発揮した私は、とうとうハジメちゃんをダンカンに背負わせて洋服選びに没頭した。

 原色のカットソー、ワンピースの種類が豊富で、たまに民族衣装のような凝ったものもある。信じられないような奇抜なデザインや、童話の登場人物が着ているようなものもある。

 頭の中で却下却下と繰り返しながら、着られる物をカゴに取って行った。


「ちょっと試着するから見てくれる?」

「おっけー」


 店の奥に並ぶ試着室。五つあるが、全て開いていた。試着文化が定着してないのかな?

 カゴを置いてブーツをヘーコラと脱ぎ、臭いがバレないように急いで口の部分を折った。

 試着室に入った。

 試着室に入ってから、自分が手ぶらだと言うことに気付いた。


「何も持たずに入っちゃった」

「何やってんのよ。手ぶらで入ったら裸で出て来なきゃダメじゃん!」

「そんなボケできるか! たとえこんな衣装でも着て出て来るわ!」

「着てても脱いでても恥ずかしいってか! ケタケタケタケタ!」

「どこのオヤジだよ!」


 気を取り直して、様々な洋服を試した。

 パンツ、スカート、シャツ、プルオーバー、ワンピース、チュニック、カーディガン、等々。

 最初の内はいちいち見せに出ていたが、二人の評価が余りにも薄味なので、結局は自分のセンスに頼ることにした。センスが無いから見て欲しいのに……。

 洋服の着脱で辟易した。これでダイエットになるんじゃないか……。脱ぐ度に現れるぷよぷよボディーにも辟易した。腰回りのサイズは合うのに、丈は微妙に余るパンツにも……。

 辟易まみれで試着室を出ると、丁度どこかに消えていたダンカンとハジメちゃんが戻ってきた。


「るい。さっき、レジの方行ったんだけど、勇者割引が利くらしいよ?」


 二人は朗報を持って来てくれたのだ。


「本当に? どれくらい?」

「二割くらい」

「でかいね……」

「でかいよね」

「それって、さっきもらった証明書持って行けばいいのかな?」

「それなんだけど、証明書だけじゃダメみたいなんだ。ほら、役所のお姉さんが言ってたじゃん」

「格好のこと?」

「そうそう。だからわたし思ったんだけど……」




…………




「いらっしゃいませ」

「すみません、これと、今着てる服も一緒に買いたいんですけど」

「はい、かしこまりました」

「それで……。私、実はこういう者でして……」


 勇者証を見せた。


「あ、はいありがとうございます。しかし、勇者割りには戦闘服の着用が条件でして……」

「それですね。はい……」


 うんうんと何度か頷きながら、私は、着ている花柄ワンピースの裾を掴むと、バンザイをして頭の上まで引き上げた。

 後ろの方からハジメちゃんの声で「ハイレグチューリップ」とかなんとかいう声が聞こえた。

 店員さんが言った。


「はい、ありがとうございます。全品二割引きとさせていただきますね」

「ありがとうございます……」




 どんな羞恥プレイだコレワー!



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