表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

50メートル走

作者: 中村いな

私は一人

動かずに立っている


今この気持ちを言葉にするなら「不安」で

間違いないと思った


私は胸に手を当ててみる


心とかじゃなくて、本物の胸に


そうやって当ててみてから気付くんだ

手を当てているんじゃなくて

手で胸を強く押していたことに

まるで何かを押し込めるように


ああ、何度めかなこの気持ち


何度もいつの間にか体の真ん中に居座って

それを抱えて歩き続けることしかできない


でも、いつの間にかどっかへ行っている

抱えてたこともどっかへ行ってる


それだけは覚えてる


そして、今

繰り返すこと何度めだ


懐かしいほど前にも少し似た思いをしたような


そう


そうそう


あの時だ


まだ夏の時代の力を持った太陽が

運動場を照らしている日


私もまだ小さかったころ


白い線で引かれた

ただまっすぐに続く直線の道


横一列に赤と白の帽子を被った子供たちが

一緒にスタート地点についている


ただ

みんな前をひたすら見据えていた



私には分からなかった


目の前に祝福のゴールテープは見えているのに

走らなければならない距離は

50メートルなんだって知っているのに


どれだけ遠くにあるのか


今もまだ心じゃ分からなくて


信じられないままだった


けれど

待ってはくれない


何かせり上がってきそうなほどの

このドキドキバクバクは収まっていないというのに


関係なくピストルは上へと掲げられる



「いちについて」


いやちょっと待ってくれ



「よーい」


まだ心の準備が出来ていなー






「どん」






スタート地点から一歩

全員の足が前に踏み出されていく


私の中は空っぽになった



足が地については蹴り


また

足が地については蹴る


太陽の光に照らされた運動場は

なんだかいつもより


白く


明るく


光っていたような





ゴールした後の順位は覚えてない


けれど

もしかしたら

毎年やってくる運動会で一度ぐらい

一位を取ったかもしれない


ただ

絶対に確かだって言えることがひとつだけ



楽しかった



あんなに苦しかったのに


こんなにも楽しい気持ちがあった



そうだった


走り出せば、

どんな時もいつも楽しかった


そう

つまり今の私はまだ




走り出していない









お久しぶりです。


この度「50メートル走」を読んで頂き、

ありがとうございます。


今日投稿が出来て、

皆さんに読んでもらえる機会を得られて

とても嬉しいです。



それでは、

またお会いしましょう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] YOUTHFULを聴きながら何度でも、何度でも読み直して感じたい、あの永遠の瞬間‥
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ