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王国戦記物語ー不滅の花ー  作者: ななの
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第一話 アマランテ・ガーランド

 

彼女の名はアマランテ・ガーランド。不滅の花を意味するアマランテという名は、彼女に不思議な強さを預けた。


彼女の人生は波乱に満ちたものであった。後の文献には、彼女は運命に翻弄された、哀れで儚い、風に吹かれればあっけなく倒れてしまう一輪の花として描かれている。だが、真実の彼女は悲しみに満ちた一輪の花などではなかった。彼女は名が表す通りに、不滅の花であったのだ。


 彼女が生まれる遥か昔、国は一つであった。一人の偉大なる王が治め、陽の光に満ちた暖かな国であったそうだ。いつまでも終わらぬ春は、恐ろしい冬の存在を忘れさせた。彼の民は偉大なる王により、冬を忘れ、春を楽しむことを覚えた。だが無情にも春は終わりを告げる。偉大なる王が倒れ、彼の四人の子供たちが互いに争いを始めたのである。一つの大きな国は四つに別れ、戦乱の時代を迎えることとなる。そして何百年も王位をかけた争いは続けられる。


戦乱の世に生まれたアマランテは、誰よりも権謀術数に長けたしたたかな女性である。彼女は北の国を治めるガーランド家に生まれた。四人兄妹の上から二番目の、長女。母に似たブルネットの髪は、東方から運ばれる絹のようにきらめく。鹿のようにしなやかな肢体。たわわに実ったやわらかな胸。美しく形どられた卵型の顔に、厚くぽってりと色っぽい唇、見事に筋の通った鼻、ネコを想わせる黒目がちの大きな目、その全てが彼女を上手い具合に魅惑的に見せているのだ。彼女は美しい。そしてその美しさを誰よりも理解している。


偉大なるカール王が築いた偉大なる王国シェヘバ。それがアマランテの望むものである。乳母が寝物語に読んでくれた、シェヘバのきらびやかなお話。それを聞いたアマランテはこう思った。「シェヘバが欲しい。」と。このことが彼女を大きく変えることとなる。





 二人の少女が城壁から、遠くこちらに向かってくる一つの群れを眺めている。


「見て、お姉さま。陛下の行幸だわ。なんてきらびやかなのでしょう。一番前で馬に乗っているのは王太子様。都では花の王子様と呼ばれているそうよ!そしてその後ろは王妃様。南のオーギュスティーヌの美しい王妃様。あの燃え盛るような赤毛が羨ましい。」


「ええ、美しい王妃様だこと。オーギュスティーヌの卑劣な王妃様は、民の悲鳴と引き換えに若さを保っているそうよ。見てごらんなさい、彼女は十年も前から変わらずにあの姿なのよ。魔女よ、魔女。この間は髪型が気に入らなかったからと、髪結いの女の首を掻き切ったそうよ。卑劣なオーギュスティーヌの王妃様らしい。」


「お姉さまのオーギュスティーヌ嫌いは相当だこと。叔母さまに代わって、あの方が王妃になったのがそんなにお嫌?」


「当たり前よ!あの人さえいなければ、叔母さまは今頃立派な王妃になっていたでしょうね。民のことを思い、民のために泣ける素敵な王妃様に。そして私たちはこの北のガーランドではなく、春の都ラビーアで、来る冬を恐れることもなく、永遠の春に生きることができた。お父様が宰相職を解かれることもなくね。」


 アマランテが生まれる少し前、王妃の位をめぐって一つの争いが起きた。北のガーランド出身の妃ブリッド=マリー。南のオーギュスティーヌ出身の妃ヤロミーラ。彼女たちは同じタイミングで懐妊したのである。家の位はほぼ互角。王子を産んだ者が王妃となる。だがそんな争いもあっけなく終わりを告げる。ブリッド=マリーが死んだのである。いたって健康であったはずのブリッド=マリーは妊娠八ヶ月の時に病に倒れた。いきなりだ。日を待たずして彼女は死んだ。哀れなブリッド=マリー、哀れな赤ちゃん。

 

 国中が噂した。ブリッド=マリーは殺されたのだ、殺したのはもちろんあのヤロミーラ。ブリッド=マリーにヤロミーラは毒を盛ったのだ、と。


 無論、アマランテもこの噂を知っていた。幼い頃にアマランテは無邪気な顔でこのことを父に尋ねてみた。そして悔しげな顔で、お優しい父上は言ったのだ。


「お前の叔母のブリッド=マリーは、ガーランドのために死んだのだ。」


ただ一言だけであった。だがそれで十分でもあった。ブリッド=マリーが命を落とし、ガーランドは王妃の位を諦めざるを得なくなった。その数ヵ月後にはヤロミーラが王子を産み、政局は逆転した。それまでの高位を得ていたガーランドの人間は排斥され、取って代わったのがオーギュスティーヌ。

ガーランドにとってこれほどの屈辱はないだろう。まだ十四の妹オレリーは理解できないだろうが、ガーランドはオーギュスティーヌに負けたのだ。父は宰相職を解かれ、恐ろしい冬に脅かされるガーランドへ押し込められた。


「今回の行幸、どうして王太子様を連れ立っていると思う?今までは大事な大事な王太子様はいつも春の都ラビーアにいたはず。」


「そう言われてみればそうだわ、お姉さま。どうして?」


「これは花嫁を見つけるための行幸なのよ。彼に気に入られた女が妻になる。そしてその美しくて幸福な女は、私よオレリー。」


「ええ、もちろんお姉さまだわ。東のエルヴァスティも西のビルバリも南のオーギュスティーヌも、そしてこの北のガーランド。すべての国の男がお姉さまを美しいと言うわ。誰もがお姉さまに跪く。ねえ、お姉さまが王妃様になられたら、私を宮廷の女騎士にしてちょうだい!お姉さまを守る盾になるわ!」


愛らしい顔で楽しげに話す妹の頭を撫でると、肯定のしるしに優しく微笑む。冷たい風の吹く城壁を離れようと、そっと妹の腰に手を掛け促す。


「・・・・・・・・いつの日にかシェヘバを復活させる、それが私の夢よ、オレリー。」


彼女は遥か昔の美しい王国シェヘバに思いを馳せる。


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